輸入しているのは日本だけに?…世界で落ちているオスプレイがいよいよ生産終了へ アメリカの外れた思惑は(東京新聞 2023年12月26日 12時00分)
鹿児島県・屋久島沖で墜落し、全世界で飛行停止が続く垂直離着陸輸送機オスプレイ。安全性が問われる中、米国では既に生産終了に向けた計画が進んでいたことが明らかになった。日本以外の国への輸出が実現しなかったことなどで、コスト高を招いたのだという。飛行機とヘリの良いとこ取りのはずの新兵器が、売れなかった理由は何か。なぜ日本は世界で唯一の輸入国になったのか。(岸本拓也、山田祐一郎)
「国防総省が調達終了の計画」と報じられる
屋久島で乗員8人が死亡した墜落事故後間もない今月上旬、米国防総省がオスプレイ調達を終了する計画を進めていると共同通信などが報じた。
屋久島事故より前の今年3月ごろ、米議会への予算要求に、オスプレイを運用する空軍、海兵隊、海軍がいずれも新規購入予算を入れていなかった。予定の調達数を満たしたとみられることが、その理由という。
米メディアによると、米軍全体のオスプレイ調達数は計464機で、内訳は海兵隊が360機、空軍が56機、海軍が48機。発注分の生産を終える2026年半ばにも、生産ラインが閉鎖される見通しとされる。機体自体は50年代まで運用を続けるという。
屋久島の墜落現場近くに暮らす村本勉さん(75)は「ヘリと飛行機が混在した仕組みに無理があるんじゃないだろうか。安全性をきちんと確認してほしいが…」と不安を口にする。
国内外で400~600機売っていくはずが…
国防総省が新規調達に消極的なのは、当初の目算が狂ったためとの見方が強い。沖縄県ワシントン事務所が10月に米メディアの報道などをまとめた報告書によると、国防総省が1982年にオスプレイの開発計画を始めたときは、国内外で400〜600機の販売を見積もっていた。売り先としてオーストラリアやカナダ、インドネシア、イスラエル、韓国など、日本以外にも多数の国が浮上していたという。
しかし、現実には日本の陸上自衛隊が17機を購入したのみ。同報告書は、大量生産でコストを下げるもくろみが外れ、「コストが高すぎる上、頻繁に飛行停止するために顧客が消えた」(米メディアのディフェンス・エアロスペース)との見方を紹介している。結果的に調達費は1機あたり約1億2000万ドル(約171億円)にもなった。
国内外で400~600機売っていくはずが…
屋久島の事故後、米議会からは検証を求める動きも。8日、下院軍事委員会幹部のウォルツ氏(共和党)とガラメンディ氏(民主党)が連名で、事故の傾向や安全対策について米政府に説明を求めた。
21日には、下院監視・説明責任委員会のコマー委員長が、「安全性と性能に懸念がある」としてオースティン国防長官に安全性に関する情報提供を求めた。同委ホームページによると、コマー氏は書簡で、1992年以降、オスプレイの墜落が10件以上発生し、軍関係者50人以上が死亡したと指摘。軍は機体の視界の狭さとエンジンの不具合に悩まされており、9年以上、機体の再設計に取り組んだものの、墜落が絶えないことを問題視した。
生産やめさせないよう「介入」求める意見も
一方、先の沖縄県の報告は、米シンクタンクトップのローレン・トンプソン氏が4月に寄稿した見解も紹介。米海軍が戦力を分散配置する分散型海洋作戦(DMO)を導入することで「さらにオスプレイ20機の新規増産が必要」とした。その上で、「何千人もの生産に関わる労働者の支援もできる」として、オスプレイ生産をやめさせないよう議会が「介入」する必要性を説く内容だった。
明治大の海野素央教授(異文化コミュニケーション論)は「米国では議会が予算編成権を握っており、政府案がひっくり返されることも珍しくない。特に来年は大統領選や上下院選がある選挙イヤーで、現職議員は雇用問題に敏感だ。軍需産業に強い共和党だけでなく、労働組合が支持基盤の民主党の議員も、オスプレイの生産を継続するよう、予算に介入してくる可能性はある」と指摘する。
不人気の原因は「値段と能力」
実際に生産が終了するか目が離せないが、なぜオスプレイは海外で売れなかったのか。
航空評論家の青木謙知氏は、開発段階で既に米軍内に温度差が生じていたと指摘する。「米陸軍は、開発や調達後の経費が膨大になる可能性を認識していた。サイズなどは海兵隊の要望を取り入れたもので、スピードはあっても輸送できる人員が少ない。他のヘリコプターでほとんどの作戦がこなせることから、計画から離脱した」。海軍も「空母から発進する対潜哨戒機として導入を考えていたが、冷戦終結で旧ソ連の潜水艦の活動が少なくなり、需要がなくなった」と、量産機数が大幅に減少した背景を説明する。
2005年に量産が決定し、07年からイラクやアフガニスタンに実戦投入。他国の購入でコストが下がることが期待されたが、「値段と能力を検討した結果、日本以外はどの国も選択しなかった」という。
イスラエルも買わなかった
米外交・安全保障専門誌東京特派員の高橋浩祐氏は「本来、オスプレイは柔軟的、機動的に運用でき、急襲や揚陸、災害派遣、輸送など幅広い用途で使えるメリットがある」と説明。一方で「島国のオーストラリアやインドネシアも検討していたとされるが、費用だけでなく、重大事故が相次いだことも無関係ではないはずだ」とみる。イスラエルは13〜14年ごろ、対イラン戦略として導入に前向きだったが、見送った。
米国以外で唯一購入を決めた日本では現在、14機が陸自木更津駐屯地(千葉県)に暫定配備中。高橋氏は「購入すれば整備や改修にコストがどんどんかかることは明らか。だが政府は航続距離や速度、滑走路なしで離着陸できるという性能の良い面だけを見て政治主導で導入を決めた。その結果、トラブルですべての機体が止まり、費用対効果はさらに下がっている」と話す。
良い面しか見なかった日本政府
防衛省は、オスプレイ導入の目的を南西諸島の防衛強化と位置付ける。陸自相浦駐屯地(長崎県)に発足させた水陸機動団を乗せ、侵攻を受けた離島にいち早く駆け付けるという。だが、元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏は「長距離輸送に適してはいるが、機体に武器を装備できない。離着陸時にヘリコプターモードと飛行機モードを切り替える際に無防備になるため、護衛が必要」と指摘する。
整備も難しい。木更津駐屯地が米オスプレイの定期整備を担当し、7機が完了したが、1機当たりの整備期間は1年2カ月〜2年1カ月。元陸自航空科の魚住真由美氏は「整備でこれだけの時間、機体が使えないのはロスが大きい。現場から望まれた機体ではなく、安全性や運用面から『オスプレイはいらない』という声が現役隊員からも聞かれる。米国に買わされたのが実態だろう」と話す。
「そこまで卑屈になって危険な物を買うのか」
それでも今月11日、松野博一官房長官(当時)は「安全性などを原因として生産が中断されるものではない。残り3機も米国で製造中だ」と説明。25年には佐賀空港(佐賀県)へ正式配備される見込みで、国が駐屯地工事を進めている。
地元の漁師らが工事差し止めを求め、20日に佐賀地裁で起こした訴訟の代理人を務める東島浩幸弁護士はこう強調する。「安全性に疑問が残り、どの国も買わずに生産継続が危ぶまれる機体が配備されることに多くの住民が納得していない。そこまで卑屈になって米国から危険な物を買わなければいけないのか」
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デスクメモ
新型機が開発されると、いつの間にか他国でもそっくりの機種が普及していることがある。オスプレイも配備から時間がたったが、なかなかそうならない。技術が進みすぎているのか、ニーズや費用対効果、安全性を比較した結果か。8人もの死者が出た事故を機に、検証すべきでは。(本)