日本は教育への政府支出が先進国最低レベル…岸田政権がこの惨状を変える可能性(Newsweek 2023年12月23日(土)14時02分)
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
<日本が教育への公的支出をケチっている現実を、国際比較からイラン出身の筆者があぶり出す。経済などの停滞を招いたこの状況を変える政策とは?>
日本大学アメフト部の薬物問題が長引いている。私がこのニュースで引っかかったのは、ほぼ必ず言及される「国からの補助金が日大に交付されない」という話である。あれほどのマンモス私立大学でも補助金を受けていることに、私は驚いた。だが調べてみると、日本のほぼ全ての教育機関には自治体や国の補助があり、それは私立も同様だ。
小中学校は義務教育であるから自治体の予算で賄われている、というのは想像がつく。国立大学もその名前から国からの支出で賄われている、というのも同様に分かる。だが私立の中・高等学校も収入の3割前後は公的補助金。そして私立大学については1割程度が国からの補助金で成り立っている。日本大学に補助金が3年間交付されないことになった、というのはこの話である。
諸外国と比べてみよう。イギリスを除くヨーロッパの多くの国は、学校への公的支出が大きく、生徒や親には授業料の負担がない。私立学校を選んでも、補助は多い。その代わり、高校も大学も学業には非常に厳しく、成績が悪ければ留年や退学をせざるを得ないことにもなる。
日本は37カ国中36位
アメリカではよく知られるとおり、学費が高い。少数の例外を除いて、国が教育機関に運営のための支出をしないからだ。しかし逆に考えれば、教育機関は国や州政府の顔色をうかがうことなく自由な運営と教育を実施できる。では教育への公的支出割合が低いかと言えばそうでもなく、連邦政府は膨大な奨学金を拠出していて、それを受ける学生は連邦政府が定めた条件を満たした大学に在籍する必要がある。そのため大学には徹底した情報公開が求められている。
教育の自由と質の確保、これがアメリカが多くの起業家を生み出してきた源泉なのかもしれない。イランは日本と似て、国立学校はほぼ無償で私立はお金がかかる。だがいずれも学業には非常に厳しいし、大学生は遊んでいられない。
日本は公立校にも私立校にも公的資金を投入しているのだから、さぞかし国の教育への支出割合は大きいのだろうと私は思った。しかし現在の日本のその割合は、OECD加盟国の中で37カ国中36位なのだそうだ。
全私学連合の調査によれば、大学生1人当たりの公的教育支出が高い国は、1人当たりのGDPも生産性も平均年収も高い。しかし、日本はいずれも低い順位に甘んじている。
教育費の公的負担率(大学生)も、OECD平均66%のところ日本は32.6%。政府支出に占める公的教育費割合(大学生)はOECD平均2.8%のところ日本1.6%というありさまで、日本は国としては全然教育にお金を使っていない、ということになる。これでは経済や影響力の停滞も致し方ない。
岸田政権は2024年秋から「出世払い」型の奨学金制度をスタートさせるし、先日も多子世帯の大学無償化を打ち出した。何かと批判を集める岸田政権だが、待ったなしの少子化対策を考えるとある程度は有益な策だと思う。日本での子育ては塾や習い事にもとてもお金がかかるから、学費が無償化されればもっと子どもを持ちたいと考える人も増えるだろう。
だが同時に、高等教育や研究機関へのさらなる支出も考えてほしいところだ。限りある財源なのだから、学ぶ意欲のある若者をより厚く支援し、未来を見据えた研究に助成し、これからもノーベル賞を受賞できる日本であってほしい。
国民も教育への資金投入をもっと容認すべきだと思う。公平性をゆがめない範囲で、私立学校への支援も増やすべきだろう。それは長い目で見れば、日本を再び繁栄させ、皆の利益になるのだから。
石野シャハラン(SHAHRAN ISHINO)
1980年イラン・テヘラン生まれ。2002年に留学のため来日。2015年日本国籍取得。異文化コミュニケーションアドバイザー。
YouTube:「イラン出身シャハランの『言いたい放題』」
Twitter:@IshinoShahran