「お酒は少量であれば健康に良い」は間違い…最新研究で分かった”お酒と健康”のキビシイ関係 残念ながら飲酒に”適量”は存在しない

「お酒は少量であれば健康に良い」は間違い 社会

「お酒は少量であれば健康に良い」は間違い…最新研究で分かった”お酒と健康”のキビシイ関係 残念ながら飲酒に”適量”は存在しない(PRESIDENT Online 2023/02/22 11:00)

生田 哲 科学ジャーナリスト

お酒と健康にはどんな関係があるのか。科学ジャーナリストの生田哲さんは「飲酒は健康のメリットになる作用もあるが、比較するとデメリットのほうが大きい。最新の研究では健康になる適量は存在しないとされている」という――。(第1回)

※本稿は、生田哲『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)の一部を再編集したものです。

お酒の“ちゃんぽん飲み”は二日酔いと関係ない

人類と酒の付き合いは長い。古代からである。みなさんもアルコールを飲む機会があるに違いない。アルコールについて、さまざまな説が流れている。たとえば、アルコールは健康にいいとか、悪いとか、ビールをワインの先に飲むと二日酔いしないとか、二日酔いには迎え酒が効果的とか。そこで、アルコールに関するホントとウソを検証していくことにする。

【神話】
ワインとビールをちゃんぽんで飲むと悪酔いや二日酔いする

日本では、ワインとビールをちゃんぽんで飲むと悪酔いや二日酔いする、といわれる。「ちゃんぽん」とは、ビール、ワイン、日本酒、ウイスキー、焼酎など、さまざまな種類のアルコールを飲むことを指す。悪酔いも二日酔いも、飲酒によって頭痛、吐き気、めまいなど、気分が悪くなるのは同じである。

細かいことをいえば、二日酔いは酒を飲んだ翌日の状態を指し、悪酔いは酒を飲んだ当日も含まれる。同じちゃんぽんでも、欧米ではより詳細に、ちゃんぽんにする酒類の順番まで気にしていて、ワインの前にビールを飲むと二日酔いしない、との言い伝えがある。

【科学的検証】
ウソである。

アルコール類を飲む順番は二日酔いに影響しないだけでなく、二日酔いの程度にも影響しないという明確な回答が、2019年、ドイツとイギリスの共同チームによって報告された(*1)。

(*1)Köchling J et al. Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine. Am J Clin Nutr. 2019. Feb 1, 345–352. PMID: 30753321

二日酔いの原因は完全には解明されていない

友人たちが久しぶりに集まってパーティが開かれた。最初にビール、次にワイン、そして焼酎またはウイスキーのオンザロック。杯を重ねるうちに、つい飲み過ぎてしまう。私たちの多くが経験することである。問題は、楽しかった夜の翌日である。頭がガンガンし、気分が悪く、汗が出る。寝床でもう二度と酒を飲まないと誓う。この嫌な二日酔いを防ぐ方法があれば、どんなに素晴らしいことか。

日本では、ワインとビールをちゃんぽんで飲むと悪酔いや二日酔いするといわれる。欧米ではより詳細に、「ワインよりビールを先に飲めば、二日酔いしない」などといわれてきた。欧米人もまた、二日酔いに悩まされてきたことがわかる。しかも歴史をたどれば、欧米の格言は中世からいわれているので、きっと真理が含まれている、と思う人は多い。だが、これが間違いであることがドイツのグループの研究によって明らかとなった。

古代から二日酔いはあったにちがいないが、今でもナゾが残っている。ナゾというのは、二日酔いはアルコール飲料の飲み過ぎによるのだが、その症状があらわれるのは、血中アルコール濃度がゼロになってからである。

二日酔いの主な症状は、頭痛、吐き気、疲労感である。その原因は、おそらく、脱水、代謝、免疫系の応答やホルモン系の混乱によると考えられる。二日酔いによって私たちの生産性は著しく低下する。週末ならベッドやソファで横になる。気分が悪く、外出することもなく、ネットフリックスやYouTubeを見て過ごす。平日ならたとえ出勤したとしても能率が落ちること、この上ない。

「ワインの前にビールを飲むと二日酔いしない」はウソ

当然、二日酔いを軽減する、あるいは防ぐ方法を模索する。だが、二日酔いへの有効な対策は存在しないので、どうしても言い伝えに頼ることになる。これが賢い選択となることもあるが、そうでない場合もある。ビールを先にワインを後に飲むと二日酔いが軽減される、という言い伝えの真偽を検証するために、ドイツで真面目に実験が行われた。被験者は19~40歳の健康な大人、90人。そして被験者をランダムに3グループに分けた(*1)。

グループ1は、まず、ビールを飲んだ。どこまで飲むかというと、呼気のアルコール濃度が0.05%に達するまで。次に、ワインを濃度が0.11%になるまで飲んだ。これだけ飲んで運転したら、アルコール規制の緩いアメリカでも酒酔い運転で捕まる。グループ2は、まず、ワインを濃度が0.05%に達するまで飲み、次に、ビールを濃度が0.11%になるまで飲んだ。そしてグループ3は、ワインまたはビールを濃度が0.11%に達するまで飲んだ。

1週間後、同じ実験をくり返した。ただし今回は、グループ1とグループ2のメンバーを交代した。だから、ワインやビールを飲む順番が最初のものと入れ替わった。グループ3ではワインを飲んだ人はビールを、ビールを飲んだ人はワインを提供された。どのグループも、性別、体格、飲酒習慣、二日酔いの頻度は似ている。

そして、被験者に症状(ノドの渇き、疲労感、頭痛、めまい、吐き気、胃痛、動悸どうき、食欲不振)を申告してもらい、「急性二日酔いスケール」という基準にしたがって二日酔いを評価した。

(*1)Köchling J et al. Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine. Am J Clin Nutr. 2019. Feb 1, 345–352. PMID: 30753321

二日酔いの症状と“ちゃんぽん飲み”は無関係

言い伝えによると、「ワインより、まず、ビールを飲むと、二日酔いになりにくい」。この格言の一般的な説明は、最初にワインを飲み、次にビールを飲むと、ビールに含まれる二酸化炭素によってワインのアルコールが迅速に吸収され、酔いと二日酔いが深刻化する、と。

だが、この研究で明らかになったのは、そういうことではない。ワインだけ飲むとか、ビールだけ飲むとか、あるいはビールとワインを飲む順番を変えるとかは、二日酔いの頻度や症状とはまったく関係がなかった。

驚くことはない。重い二日酔いであることを示す最もわかりやすい指標は、飲んだ翌朝にどう感じるか、または、飲んだ後におう吐したかである。アルコールはビール、ワイン、日本酒、ウイスキー、焼酎など、どんな形式で摂取しようと、効率よく、迅速に体内に吸収されるから、ちゃんぽんで飲んだとか、ワインやビールだけ飲んだとかいうことで、二日酔いになりやすさに違いはない。

私がこの論文を読んで思ったことは、おそらく読者も同じように感じておられるだろうが、この研究は優先順位の上位にランクされるものなのか、という疑問である。おそらく、「遊び心」での研究だろう。それより大事なことは、アルコール飲料を飲む際に、どれを飲むかという選択や順番に関係なく、飲んだら運転しないこと、飲酒をストップするタイミングを誤らないことである。

「酒は百薬の長」は科学的には間違っている

【神話】
少しの飲酒はまったく飲まないよりも健康にいい

「酒は百薬の長」といわれるように、昔から適度の飲酒が健康によいという考えがある。たとえば、カゼを引いたときに酒を温め、これに鶏卵を入れて飲む「卵酒」。「卵酒」の起源は不明だが、民間療法として江戸時代にはすでに利用されてきたようである。では、酒は健康にいいのか?

【科学的検証】
ウソである。

今でも、酒が健康によいという主張がテレビや新聞といった古いメディアだけでなく、インターネットといった新しいメディアでも喧伝されている。

巷では、赤ワインがスーパーフードと称する食品リストに掲載されているのを目にする。グレープの皮に含まれるレスベラトロールという物質が心臓の健康にいいと主張する。確かに、1杯の赤ワインが心臓の健康に効果的であるという考えを支持する多くの論文が発表されてきた。

それなら、心臓を守るために赤ワインを飲み始めようか? やめたほうがいい。もし、今、あなたが飲酒していないなら、よりよい健康を求めてわざわざ飲み始める必要はまったくない。

アルコールは飲めば飲むほど体に悪い

これまでは、飲酒に健康効果はなくとも、少しの飲酒なら害にはならないと思われてきた。たとえば、アメリカでは「よりよい健康を求めて酒を飲むべきではないが、適度な飲酒(女性は1日1杯、男性は1日2杯まで)なら害にならない、あるいは有益かもしれない」と主張されてきた。

これは、アメリカ人のためのダイエットのガイドラインに明記され、「アメリカ心臓協会」や「アメリカがん学会」といったアメリカを代表する権威ある学会も支持を表明してきたものである。これらの主張は正しいのか?

2018年、これらの主張を真っ向から否定する研究結果が『ランセット』という一流医学雑誌に発表された(*2)。結論は、あまりにも明らかで、健康によいアルコール摂取量というものは存在しない、すなわち、アルコールは摂取量にかかわらず有害である、というもの(図表1)。

【図表1】飲酒による健康リスク飲酒による健康リスク(出所=『「健康神話」を科学的に検証する』p.95)

飲酒に健康効果があるとの主張を完全に否定し、飲酒は有害であると主張するものである。しかも、この論文の信頼性は極めて高い。その理由を次に述べる。この論文は、ワシントン大学医学部のエマニュエラ・ガキドウ教授のグループが中心になり、アルコールの世界への影響を調査した結果をまとめたものである。

(*2)GBD 2016 Alcohol Collaborators, Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. Lancet, 2018 Sep 22; 392(10152) P1015–1035, September 22, 2018. PMID: 30146330

飲酒にもメリットはあるがデメリットのほうが大きい

この調査では、1990~2016年に発表された、195カ国からのデータが掲載された約600の治験論文を集めて分析を行った。このように複数の治験データを集めて分析することを「メタ分析」と呼んでいる。メタ分析の信頼性は高いため、発表された論文の信頼性も高く、評価の高い学術雑誌に掲載されることが多い。

この論文が掲載された『ランセット』は超一流医学雑誌である。この論文のポイントは、こうだ。適度な飲酒は心臓をごくわずかに保護するかもしれないが、この利益を相殺する、がんやその他の病気を引き起こすリスクを格段に高めることを発見したので、アルコールは摂取量に関係なく有害であること、加えて、政府機関に対しアルコール飲料の消費に関するガイドラインを改訂するように提案している。

この結論は、飲酒を適度に楽しんでいると考える人々(中程度の飲酒者)にとって驚きであり、彼らを落胆させるものである。

先に述べた通り、公衆衛生の専門家たちは長年にわたり、「適度な飲酒は害にならない、あるいは有益かもしれない」と主張してきたからである。この論文は、2016年に全世界の男性39%、女性25%が日常的に飲酒していたこと、アルコールが280万人に死をもたらしたこと、アルコールは早死の第7番目の原因であり、全男性の死の6.8%、全女性の死の2.2%はアルコールによるものであることを明らかにした。

1日2杯で7%、5杯で37%も健康リスクが高まる

加えて、飲酒量が増えるにしたがい、健康リスクは直線的に増加することから、飲酒量と健康リスクには因果関係が成り立つ。すなわち、飲酒が健康を損ねる原因となっている。では、飲酒はどれほど健康を損ねるのか?

ノンドリンカー(まったく飲まない人)にくらべ、1日1杯飲む人はがんや糖尿病などアルコールに関連する23もの健康問題のリスクが0.5%高くなる。わずか0.5%。このレベルの飲酒量であればリスクの上昇は非常に小さい。この研究によれば、10万人当たり増加する死者はわずか4人である。たいしたことはない。

しかし、1日2杯飲む人はノンドリンカーにくらべ、健康リスクが7%も上昇する。そして1日5杯飲むと健康リスクは37%も上昇する。こうなるとたいしたことがある。これまでの研究で明らかになったことは、次の通りである。

(a)アルコールは健康にはマイナスである。だから、飲まないのがベスト。
(b)あなたが、今、飲酒していないなら、よりよい健康を求めて飲み始める必要はない。
(c)あなたがすでに飲酒しているなら、適量を超えて飲むべきではない。

健康を考えるなら、アルコールを飲まないのがベストであるが、付き合いもあることだし、まったく飲まないのは辛いというのであれば、適量を飲むようにしたい。適量というのは1日1杯である。

生田 哲(いくた・さとし)

科学ジャーナリスト
1955年、北海道に生まれる。薬学博士。がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員、1986年から91年までイリノイ工科大学助教授を務める。遺伝子の構造やドラッグデザインをテーマに研究生活を送る。現在は日本で、生化学、医学、薬学、教育を中心とする執筆活動や講演活動、脳と栄養に関する研究とコンサルティング活動を行う。著書に、『遺伝子のスイッチ』(東洋経済新報社)、『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』(育鵬社)、『ビタミンCの大量摂取がカゼを防ぎ、がんに効く』(講談社)、『よみがえる脳』(SBクリエイティブ)、『子どもの脳は食べ物で変わる』(PHP研究所)、『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)など多数。

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