【独自】食べた唐揚げは処理水「放出前」のものだった…阪神優勝に加えて福島の海産物にまで「政治利用」した吉村知事(現代ビジネス編集部 2023.10.03)
パレードに「万博」と銘打って
「便乗しては炎上とは、ほんと続きますよね」と苦笑するのは、大阪府幹部のひとりだ。
プロ野球、セ・リーグでは阪神タイガース、パ・リーグではオリックスバファローズがリーグ優勝を決めた。
阪神が優勝を決めた9月14日夜のこと、顔をほころばせてこう語ったのは大阪府の吉村洋文知事である。
「阪神の18年ぶり優勝、めでたいですね。みんなでお祝いできるようにパレードをやりたい」
この日はちょうど「維新」の政治資金パーティが開催されており、終了後に阪神の優勝を受け、急きょ会見が設定された。
6日後の9月20日に、オリックスも優勝を決めると「阪神とオリックス、両方のパレードをやろう」とぶち上げた吉村知事は、維新推薦で当選した兵庫県の斎藤元彦知事と連携をとり、11月23日に大阪と神戸でパレードを開催することを発表した。
「兵庫・大阪連携『阪神タイガース、オリックス・バファローズ優勝記念パレード ~2025年大阪関西万博500日前!~』」と銘打つこのパレードは、事実上、吉村知事が主導したような恰好で決まったわけだ。
記者会見で話す吉村知事のバックには、阪神やオリックスのフラッグではなく、万博の横断幕にキャラクターの「ミャクミャク」が掲げられた。地元球団の優勝への「便乗」といって差し支えないだろう。
とはいえ、2025年4月に開催される大阪・関西万博までまだ1年半ほどある。パレードにプロ野球と関係のない「万博」を銘打つのにも無理があろう。吉村知事はこう語った。
「2025年大阪・関西万博の大きな弾みになる。今日もミャクミャクが来てくれていますが、万博をパレードで盛り上げたい」
大阪・関西万博はパビリオンの建設の遅れなどの問題が噴出して開催が危ぶまれ、いまや「中止すべき」との世論も地元・関西では広がっている。それに加えて万博の建設コストが1850億円から2300億円にアップすることが判明し、さらなる批判が渦巻く。
そもそも、万博の会場となる大阪市の夢洲では、IR(カジノを含む統合型リゾート)の開業が2030年にも予定されているが、ここで進出する「大阪IR株式会社」の中核はオリックス。吉村知事は今年春の大阪府知事選の際は「維新の公約」としてIRの誘致を掲げていた。
大阪府庁などには「野球を政治利用するな」「大阪府やIRの宣伝なのか」という抗議の電話もあり、X(旧ツイッター)でも、
《両球団の優勝パレードを政治利用することに激しく怒りを覚えます》
《政治利用はしないで欲しい!! 純粋に優勝を祝い、感動に浸りたい》
などという否定的なコメントがあふれた。前出の大阪府幹部もこう嘆く。
「2300億円にアップするニュースで反万博ムードになることを危惧し、パレードを早めに発表して打ち消そうとした。良かれと思ってやったことが裏目に出て、炎上する。まあ、知事は何を言っても聞かないから仕方がない」
情報公開で明らかになった驚きの事実
福島第一原発事故の処理水放出から1ヵ月が経過した8月27日、地元・福島で海洋汚染、漁業などへの影響が危惧されたことから、岸田文雄首相は閣僚らと、福島県産の海産物でランチをとるパフォーマンスを披露した。
この4日後、吉村知事も8月31日、大阪府庁の食堂で「福島応援定食」として福島県の魚などを提供するサービスを開始した。サバの塩焼きやメヒカリの唐揚げなどに、舌鼓を打った様子をメディアに公開した。
今日の府庁食堂、福島応援定食、福島産のサバがおいしいよ、なう。
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) September 21, 2023
中国が禁輸しているらしいので、全国でおいしい魚を食べよう、なう。 pic.twitter.com/3jTG2rznCT
吉村知事のTwitterより
「福島県産のサバ、脂がのっておいしい、グッド」と食レポも披露しご満悦の吉村知事だったが、府民が「福島県産品が提供された経緯」について情報公開をしたところ、吉村知事が福島県産のメニューをと言い始めたのは8月25日のことだった。
「福島県産の水産物を使用したメニューをできるだけ早く開始できないか」「8月中でもいい。なるべく早いほうがいい」
と述べ、8月30日に記者発表、31日から開始という流れが情報公開の資料からは見えてくる。
「全国的に出回る量では決してない」
阪神優勝はまだ地元の話だから理解できるが、福島の話まで慌てて便乗してパフォーマンスとなると、いささかやりすぎの感もあるだろう。
「維新の手柄」をアピールしたいのか、吉村知事は「府民には私の方からPRする。維新にも言う」と府の職員を急がせるように話していたことが、情報公開などから明らかになった。
「僕は魚は何でも食べる」と自身の好みまで披露した。
さらに情報公開請求された資料を精査していくと、大阪府と福島県の交渉の中にはこんな記述があった。いずれも前のめりの吉村知事の姿勢に釘をさすかのような記述だ。
《現在試験操業中。漁獲量は震災前の3割程度。年150トンとの報道もあったが、全国的に出回る量では決してない》
《(食事提供業者は)カット切り身を希望。一次加工品。ホッキ貝を炊き込みご飯で提供できれば、それで継続的に1品確保できる》
《処理水の放出前後ともに同価格で設定》
情報公開した府民が大阪府に問い合わせたところ、驚きの事実が判明した。
「吉村知事が食べたメヒカリの唐揚げは、処理水放出前に水揚げされたものという回答でした」(府民)
8月30日に吉村知事は記者会見で「食材については、処理水が放出された後のものを提供します。その準備が整ったので8月31日から行います」と処理水「放出後」を明言していた。だが、吉村知事た食べたものは「放出前」のものだったのだ。
国民のみならず世界の関心事は処理水「放出後」の海産物にどのような影響があるかだ。「放出前」のメヒカリではまったくPRにもならず、誤導を誘発しかねない。
阪神、オリックスに加え、福島の処理水まで「政治利用」した吉村知事のパフォーマンス優先主義は、まだまだ続くのだろうか。