<社説>大阪・関西万博 突貫工事 時代に合わぬ(東京新聞 2023年8月10日 07時49分)
二〇二五年大阪・関西万博の準備が遅れている。「万博の華」といわれ、海外勢が毎回趣向を凝らすパビリオンは、日本の建設業界の人手不足や資材高騰が影響して契約がまとまらず、いまだ一棟も着工していない。政府も支援強化に乗り出したが、開幕に間に合わせるため「何が何でも」に陥ることを危惧する。現場が過重な負担を強いられれば、工事の安全も脅かされかねない。
同万博は、百五十三カ国・地域が参加して二五年四月、大阪市此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)で開幕し、二千八百二十万人の来場を想定している。一九七〇年大阪万博では携帯電話や動く歩道が世間を驚かせたが、今回は愛知県豊田市のベンチャー企業スカイドライブなどが運航を予定している「空飛ぶクルマ」が目玉の一つとなりそうだ。
ただ、パビリオンの着工遅れは深刻。海外勢のうち五十を超える国・地域が自前パビリオンを建設予定だが、現時点で、市への建築許可申請など着工に必要な手続きを済ませた国・地域はゼロ。工程や予算面などで国内建設業者との交渉が難航しているという。
万博協会は、建築物のデザインや工法簡略化、日本側による建て売り形式などを参加国に提案している。国も、参加国から業者への建設費支払いが滞った場合の保険創設など支援を強化したが、一気に事態が好転する状況にはない。
資材や人件費の高騰ぶりは、日本政府館さえ、一般競争では応札がなく、予定価格を九億円上回る七十六億円で随意契約せざるを得なかったほど。万博全体の建設費も二〇年に、当初予定の一・五倍に当たる千八百五十億円に引き上げたが、さらに上振れが必至の情勢だ。協会や国は、見通しの甘さを批判されても仕方あるまい。
背景には、建設業界でも二四年度から残業規制が強化されることがある。加えて、夢洲では二九年開業に向けたカジノを含む統合型リゾート(IR)建設も控え、人手確保の困難さが増している。
万博協会は、万博工事の作業員は残業規制の対象外にするよう政府に要望したが、安易な特別扱いがまかり通れば、「働き方改革」全体にも影響しよう。無理を重ねた「突貫工事」で工期の遅れに対処するような時代ではない。根本的な打開策が見いだせない場合は、開幕延期も視野に事業計画の見直しを図るべきではないか。