〈社説〉維新代表の発言 他党否定の危うい「信念」(信濃毎日新聞 2023/07/28 09:31)
「日本からなくなったらいい政党だ」
日本維新の会の馬場伸幸代表がインターネット番組で、共産党の存在を否定した。
他党の理念や政策を批判するのとは次元が異なる。共産が撤回を求めると「政治家として信念を持って発言している」とし、これを拒んでいる。
「信念」とは何だろうか。
馬場氏は番組で、共産は「世の中にあり得ない空想の世界をつくっている」と、存在否定の理由らしきものを口にした。
軍拡と防衛費増大に反対し、憲法の堅持や平和外交を訴え、福祉や医療、教育を重視する共産の政策を指しているのか。このところの退潮傾向は否めないものの、国政選挙では党員票をはるかに上回る支持を集めている。
公党の存在意義をないがしろにした馬場氏の発言は、現政権の政治を良しとせず、票を託した有権者をもおとしめている。
撤回と謝罪を拒否した際は、公安調査庁が共産を破壊活動防止法に基づく調査対象団体としていると強調した。戦後間もないころの党綱領を根拠に国が固持する見解を持ち出して「普通の政党ではない」と決めつけている。
維新は先の統一地方選で初めて奈良県知事選に勝利するなど、近畿地方を中心に議席を大きく伸ばしている。衆院補欠選挙では和歌山1区で自民党元職を破った。世論調査の政党支持率では立憲民主党を引き離している。
勢力拡大に乗って馬場氏は、次期衆院選で野党第1党の座を奪い自民との保守二大政党を目指すと公言してはばからない。
番組では「立民がいても日本は何も良くならない」ともこきおろした。国会での共闘が崩れ、共産との選挙協力の余地を残す立民への敵対心を隠さない。
維新を「第2自民」とした馬場氏は「国家国民のために改革を競い合えば政治は良くなる」とも主張する。自民が「現状を維持する保守」なら、維新は「改革をする保守」なのだという。
政治には、声の大小によって人々が排除されることのない保障が要る。維新が二大政党を目指すにせよ、立場の異なる意見をくむ党の意義を否定したのでは、民主主義を踏みにじるに等しい。
馬場氏が撤回に応じないのは党勢を背景にした慢心なのか、発言が計算ずくだったからか。保守層を軸に世論にアピールさえできれば、批判もはねつけるというのなら、信頼して政治を任せられる政党たり得ない。