マイナンバーカード・健康保険証の一体化におけるメリット・デメリットをわかりやすく解説(THE OWNER 2023/05/28)
THE OWNER 編集部
マイナンバーカードと健康保険証を一体化し、2024年秋をめどに紙やプラスティックカードの健康保険証を廃止することがデジタル庁からアナウンスされている。本稿では、利用者からみたマイナンバーカードと健康保険証一体化のメリット・デメリットや利用方法にについて解説していく。あわせて企業の労務担当者から見たメリット・デメリットや注意点についても紹介する。
マイナンバーカードと健康保険証の一体化
2021年10月20日からマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになった。その理由やメリット・デメリットについて解説していく。
マイナンバーカード・健康保険証一体化の背景
健康保険の被保険者やその家族が病院にかかる際、初診時や月初に紙やプラスティックカードの健康保険証を受付に提示し、健康保険の資格確認を受けることが必要だ。しかし健康保険証と一体化したマイナンバーカードなら病院などに設置されている顔認証付きカードリーダーにカードをかざし、顔認証を行うだけで保険資格の確認が完了する。
詳細は後述するが、一体化にはほかにもさまざまなメリットがある。そもそもなぜマイナンバーカードと健康保険書を一体化するのだろうか。主な理由は以下の2つだ。
マイナンバーカードの利用促進
これまで日本政府は、マイナンバーカードについて「コンビニで住民票が発行できる」「国や地方自治体からの給付金の受け取り手続きがスムーズになる」などのメリットをアピールしてきた。しかし多くの人にとってマイナンバーカードを作る動機には結びつかず、カードの申請件数は伸び悩んでいたのが現状だ。そこで打ち出されたのがマイナンバーカードと健康保険証の一体化である。
健康保険証の不正利用対策
紙やプラスティックカードの健康保険証には顔写真がないため、保険証を使いまわしたり所持者以外の本人確認書類として使われたりするケースがある。顔写真入りのマイナンバーカードを健康保険証として使うことで不正利用を防止する効果があるのだ。
メリットは医療費の情報閲覧など
健康保険証と一体化したマイナンバーカードを使うメリットとして、病院の窓口での資格確認を簡素化させることを述べた。しかしほかにも以下のようなメリットがある。
医療費や投薬などの情報が閲覧できる
日本政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」で病院などの診療内容や処方された薬の情報、支払った医療費、特定健診の結果情報などを見ることが可能だ。また病院を受診した際、マイナポータルに記録されている過去の診療や薬情報などの提供に同意すれば医師から適切な治療方法や薬の処方を受けられる。
確定申告医療費控除手続きの簡素化
1月1日~12月31日までの1年間に一定以上の医療費がかかった場合、確定申告で医療費控除を申告すれば払った税金の一部が返ってくることがあるが、その手続きが簡素化される。従来は、病院でもらった医療費の領収書や薬局で購入した薬代を確定申告書とともに提出していた。しかし健康保険証と一体化したマイナンバーカードを使えば「マイナポータル」に記録されている保険診療の医療費データをオンライン上の確定申告書に自動入力でき領収書を税務署に提出する必要がなくなる。
※ただし薬局で購入した薬代などの領収書は、マイナポータルの対象外であるため提出が必要
転職や転居直後でも健康保険証がすぐに使える
転職で加入する健康保険組合が変わったり、転居で住所が変更したりすると紙やプラスティックカードの健康保険証の場合、組合が変更手続きを行ってから新しい保険証を発行されるまでに時間がかかる。その間、保険診療を受けることができず、医療費は原則、全額自費負担となる(医療機関によって対応が異なる)。
しかし健康保険証と一体化したマイナカードを持っている場合、変更手続き後すぐにマイナカードは新しい組合の健康保険証として有効になる。
高額療養費制度の手続き簡素化
高額療養費制度とは、1ヵ月の間に年齢と所得などによって設定されている「自己負担限度額」を超えて医療費を支払った場合、超えた分があとから払い戻される制度だ。そのため、いったんは全額を支払う必要がある。
また医療費が高額になることがあらかじめわかっている場合は「限度額適用認定証」を申請し、認定書と健康保険証を病院の窓口に提示することで、支払う医療費を自己負担限度額までにすることができる。
どちらの方法を取るにせよ、被保険者にとっては負担になるが、健康保険証と一体化したマイナンバーカードを使えば高額療養費制度における自己負担限度額以上の支払いは発生しない。一時的な全額自己負担も限度額適用認定証の申請も不要だ。
紙やプラスティックカードの保険証よりも初診料の負担額が安い
2022年度以降、厚生労働省ではマイナンバーカードを読み取るカードリーダーの導入をはじめとするシステム基盤整備のために診療報酬を加算している。健康保険証と一体化したマイナンバーカードと紙やプラスティックカードの健康保険証では、初診料・再診料の自己負担額が異なり、負担額は以下の通りだ。なお2023年4~12月、2024年1月以降で負担額が変わるため、注意したい。
一体化のデメリット
当然、マイナンバーカードを健康保険証と一体化することにはデメリットもある。一体化利用する際には、デメリットについても十分理解しておきたい。
紛失時の個人情報漏えいリスク
最も懸念されるのが、マイナンバーカードを紛失したときに個人情報が漏えいすることだろう。マイナンバーカードと暗証番号を使うとマイナポータルで個人情報を閲覧できるため、暗証番号をカードと一緒に保管しないように気をつけたい。なおカードの紛失や盗難に遭った場合は、マイナンバー総合フリーダイヤルに電話すればカードの利用を一時的に停止できる。
一時利用停止の処理は、24時間365日体制で対応しているため、紛失したらすぐに届け出よう。
健康保険証として使えない医療機関がある
健康保険証と一体化したマイナンバーカードを医療機関や薬局などで使うには、カードリーダーが設置されていなければならない。リーダーがない医療機関・薬局では、マイナンバーカードが使えないため注意が必要だ。なお2023年5月7日現在、マイナンバーカードの健康保険証理用ができる医療機関・薬局は全国で16万4,219件となっている。
保険証利用ができる医療機関・薬局には、ステッカーが貼られているほか、厚生労働省の公式サイトでリストが公開されているため、チェックしておきたい。ただ2023年4月1日から医療機関・薬局に対してオンラインによる保険資格確認が原則義務化されたため、今後はすべての医療機関・薬局で、マイナンバーカードの健康保険証利用が可能になる見込みだ。
毎回提示が必要になる
マイナンバーカードを健康保険証として利用する場合、毎回カードリーダーで認証を行う必要がある。継続して病院に通院している場合、紙の健康保険証なら月初に一度、提示すればよかったことに比べると手間が増えると感じるかもしれない。
マイナンバーカード・健康保険証一体化の手続き方法
ここでは、マイナンバーカードの取得から健康保険証利用までの手続き方法を解説していく。
マイナンバーカードを取得する
手元にマイナンバーが記載された「交付申請書」または「個人番号通知書」を持っている場合は、スマートフォンやパソコン、証明用写真機を利用してオンライン申請。交付申請書を郵送して申請する方法もある。
申請から約1ヵ月後、交付通知書が届くので本人確認書類とともに役所に持参するとマイナンバーカードが交付される。
マイナポータルの利用者登録をする
マイナンバーカードを健康保険証として利用するには、以下の2つの方法がある。
スマートフォンやパソコンからマイナポータルの利用者登録を行う
セブン・イレブンのATMで申し込む
ここでは、スマートフォンを使った方法について説明する。スマートフォンに「マイナポータルアプリ」をダウンロードし、利用者証明用電子証明書のパスワード(4桁の暗証番号)とスマートフォンを使って利用者登録を行う。アプリのトップ画面の「利用者登録/ログイン」のボタンを押し、画面の指示に従って暗証番号を入力。
マイナンバーカードをスマートフォンに読み込ませると、マイナポータルにログインできる。ログイン後、画面に従って利用者登録に必要な情報を入力すれば、利用者登録が完了する。
マイナポータルで健康保険証利用の手続き
マイナポータルのトップページから「健康保険証利用申込」のボタンを押したあと、画面の指示に従って4桁の暗証番号を入力・カードの読み取りを行う。登録完了画面が出れば、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる。
企業の労務担当者は一体化でどうなる?
ここからは、従業員の健康保険資格取得にかかわる企業の労務担当者にとって、マイナンバーカードの健康保険証利用にどのようなメリット・デメリットがあるのかについて解説する。
一体化で会社員にメリットあり
労務担当者は、従業員の入社後に当該従業員からマイナンバーを取得し、健康保険への加入手続きを行うことが必要だ。また健康保険証が従業員の手元に届くまでの間に従業員が病院を受診する際は、健康保険被保険者資格証明書の申請手続きをする必要がある。
しかし従業員が自身でマイナンバーカードの健康保険証利用の申し込みをしていれば、先述したように健康保険証が手元に届くのを待たなくてもマイナンバーカードを健康保険証として利用可能だ。労務担当者は、加入手続きを従業員に告知するだけでよく、健康保険被保険者資格証明書の手続きを行う手間も省けるだろう。
労務担当者には一体化のデメリットも
一方、2024年秋に紙やプラスティックカードの健康保険証の新規発行が停止されることに伴い、注意しなければならない点もある。労務担当者は、従業員に対してマイナンバーカードの取得やカードの健康保険証利用を促進しなければならず、一時的には業務の負担となる可能性があるだろう。
またマイナンバーカードと健康保険証の一体化は、「従業員自身が行う必要がある」「健康保険加入手続き時にマイナンバーを会社に提出しなければならない」といった点も周知しておきたい。さらに紙やプラスティックカードの健康保険証の新規発行停止後、健康保険加入手続きからマイナンバーカードの健康保険証利用にいたるまでのワークフローを考える必要もあるだろう。
2024年秋に紙の保険証廃止でマイナンバーカードを持たない人はどうなる?
2024年秋には、紙やプラスティックの健康保険証の新規発行が原則停止される見込みだ。しかしなかには「マイナンバーカードを持つことに抵抗がある」「施設に入所している高齢者などカードを作るのが困難」という人もいるだろう。また整骨院や鍼灸院、訪問介護などマイナンバーカードの健康保険証利用にまだ対応していないところもある。
健康保険に加入し、保険料を納めている人でマイナンバーカードを持っていない人が、保険診療を受けられなくなることがないように、日本政府は随時代替策を検討中だ。
マイナンバーは利用者だけでなく企業の労務担当者にもメリット
マイナンバーカードと健康保険証一体化は、利用者はもちろん企業の労務担当者にとっても一定のメリットがある。労務担当者は2024年秋に備え、最新の情報を入手するよう意識するとともに今から社内の業務フローを整え、自社の従業員に周知を行っていきたいところだ。
文・せがわ あき
THE OWNER 編集部
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