1000兆円も借金がある日本は、破綻寸前なの?元日銀副総裁がわかりやすく解説(日刊SPA! 2023年04月05日)
岩田規久男・元日銀副総裁
私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。
1000兆円も借金がある日本は、破綻寸前なの?
「日本の借金は1000兆円で破綻寸前!」と年中警告を発している人がいます。しかし、結論を言えば、日本が財政破綻することはありません。
財政破綻とは、政府が借金の一部または全額を返済できなくなったり、返済時期を繰り延べしたりする事態、すなわち「債務不履行」が起きることを意味します。
破綻リスクが高まったと判断すると、国債を持っている人は償還されない可能性を危惧して売りに走り、国債価格は暴落して国債金利は暴騰します。
国債が暴落した場合、3つの返済法を検討
仮にこのように国債が暴落した場合、日本政府は3つの返済法を検討するでしょう。
第一は、新たに国債を発行して、日銀に“直接”買い取ってもらい、手にしたお金で国債の利子を支払い、償還する方法です。この国債の利子と償還費を合わせて国債費といいます。しかし、この方法は行きすぎると、高インフレを引き起こす可能性があります。
第二は、課税権の行使です。実際、’14年と’19年半ばの消費増税で得られた税収の一部は国債費に充当されています。家計の金融資産残高は2005兆円(’22年9月時点)と国の借金の2倍もありますから、いざとなったらこの資産に課税することもできます。
第三は、170兆円に上る外貨準備(’23年2月末時点)をはじめとした政府の金融資産を充てる方法です。
債務不履行の危機に瀕したギリシャはどうだった?
’08年に起きたリーマン・ショック後、財政危機に襲われたギリシャは債務不履行の危機に瀕しました。ギリシャは通貨にユーロを使っていますが、自らユーロを発行することはできないため、第一の手段は使えませんでした。
大不況下で国民の反対が強く、課税権を行使することもできなかった。さらに、外貨建てで国債を発行しており、外貨で国債費を払う必要がありましたが、外貨不足で、第三の手段も使えませんでした。
日本の国債金利は“超低い”
日本はいざとなれば、いずれの手段も使えますが、そもそもほとんどの人は財政破綻のリスクを感じていません。それは、国債金利が“超低い”ことに表れています。
1年と2年満期の金利はマイナスで、10年満期でも0.43%(’23年3月10日現在)です。0.43%だと、預けた預金の価値が倍になるのに167年もかかります(「72」を%の値で割ると、価値が倍になる年数がわかり、これを「72の法則」といいます)。
167年前とは黒船が浦賀沖に現れた2年後です。その頃のお金の価値が現在になって、ようやく倍になる低さです。
この超低金利は日銀の金融政策が寄与していますが、そもそもの原因は、日本の家計と企業の貯蓄が大きく、その貯蓄が金融機関を通じて国債で運用されているからです。
低インフレ・低成長の日本では、民間部門に資金需要がないため、政府の資金需要である国債は最も安全で債務不履行の心配がない資産なのです。
岩田の“異次元”処方せん
国債の超低金利が、破綻の心配がないことを証明しています
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岩田規久男・元日銀副総裁
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13~’18年まで日本銀行副総裁として日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数