もう移民に頼るしかない日本 古賀茂明(AERAdot. 2023/03/21 06:00)
古賀茂明
「もう手遅れだよね」
最近私が会った様々な専門家との会話で最後に必ず達する結論だ。
日本経済が深刻な危機にあることは誰もが一致する。これまで数えきれないくらいの成長戦略や改革案が提示され、メニューは山ほどあるが、ほぼ手つかずのままである。
それを今一気にやるのは痛みが大き過ぎて不可能。痛みを和らげながらと思うと時間がかかり過ぎて間に合わない。財務省トップだったある官僚OBは、「古賀さん、日本は3年以内に破綻しますよ。絶対に」と力を込めて言った。
財政も深刻だが、最大の問題は少子化だ。子供を産む世代の女性の数が激減しているので、少子化対策が極めてうまく行っても子供の数が増え始めるのは何十年も先。このままでは、生産も需要も先細り、高齢者だけがどんどん増える。
もはや、自力ではどうにもならない。そこで考えるのが移民である。現在の技能実習制度、特定技能制度などではなく、永住前提で働いてくれる人を呼び入れるのだ。彼らは働くだけでなく、税金も払い消費もする。子供も産み育てる。日本の縮小スパイラルに歯止めをかけることができるかもしれない。
日本人は外国人を受け入れられないという人もいるが、高齢者施設では、既に多くの外国人が介護人材として活躍し、入居者の評判も概して良い。
私が、移民が必要だと確信したのは、先月明るみに出た東京都八王子市の滝山病院での虐待事件を見た時だ。高齢者が増えると普通の介護需要が増えるだけではない。重度の認知症患者が増え、徘徊、奇行をはじめ、一般家庭で介護するのが難しい症状の人が増える。さらに滝山病院の患者のように人工透析や特殊な医療サービスが必要という人も増える。
滝山病院での虐待は言語道断だが、こうした難度の高い要介護患者を受け入れる病院を閉鎖したらどうなるのか。しかもこれは氷山の一角という声もある。親しい精神科の友人によれば、民間の精神科病院では、程度の差はあれ、虐待というべき事態は日常茶飯事になっているそうだ。
重度の認知症患者を受け入れる高齢者施設でも似たよう問題が隠れている。2025年に約800万人の「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」。介護への負担はこれから激増するが、対策はないに等しい。
厚生労働省は、40年度には69万人多くの介護人材が必要になると推計している。介護人材以外にも、建設労働者、農業従事者、物流人材、IT人材、教員、保育、自衛官、研究開発人材など、どこもかしこも人材不足が予想され、合計すると百万人を優に超える。労働力人口はどんどん減るのにどうするのか。ロボットに期待したいが、間に合わない。人材破綻は必至だ。
安倍晋三元総理を支持していた岩盤右翼層は外国人受け入れには反対だろう。安倍氏の呪縛に囚われた岸田文雄政権は、すぐには動けそうもない。
一方、今のような中途半端で日本に都合の良い外国人使い捨て政策を続ければ、本当に追い詰められた時にはどこからも移民は来てくれないということになるだろう。
このように説明すれば、本格的な移民受け入れ政策に賛成という人も増えるのではないか。ダメだと言うなら、代替策を示してもらいたい。
※週刊朝日 2023年3月31日号
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古賀茂明(こが・しげあき)
古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など