デヴィ夫人、ウクライナ支援のきっかけは「火山が噴火するくらいの怒り」 「負ければ民主主義の墓場」「岸田首相も現地へ」83歳の熱弁

1月23日、ウクライナの首都近郊のブチャで、持ち込んだ支援物資とデヴィ夫人 国際

デヴィ夫人、ウクライナ支援のきっかけは「火山が噴火するくらいの怒り」 「負ければ民主主義の墓場」「岸田首相も現地へ」83歳の熱弁(共同通信 2023/02/12)

ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援しようと、タレントのデヴィ夫人が1月下旬、現地を訪問した。ウクライナは61年前にも訪れたことがある思い出の土地。文化と芸術の国に攻め込んだプーチン大統領への「火山が噴火するくらいの怒り」が支援のきっかけだったという。

デヴィ夫人は共同通信の取材に「ウクライナを負けさせたら民主主義の墓場」「岸田文雄首相もウクライナに行くべきだ」と熱弁を振るい、話は日本の政界の「老害」にも及んだ。戦争もクーデターも経験したデヴィ夫人が見たウクライナの現状とは―。

▽爪をあの2色に塗り

空は曇り、気温はマイナス4度。1月23日午後、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの教会にデヴィ夫人の車列が現れた。昨年2月のロシア軍の侵攻後、ブチャは一時的にロシア軍が占領した。ロシア軍が撤退後、数百人を殺害し、この教会のそばの集団墓地に埋めたことが発覚した場所だ。埋葬された場所でデヴィ夫人は合掌すると、現地メディアの女性レポーターのインタビューに英語で流ちょうに答えていた。キーウも訪れ、「人々は一見、普通の生活をしているようでした。でもいつ空襲警報が鳴るか分からず、全員が早足で歩いていました」と語った。

キーウとブチャの位置

ウクライナへの支援内容としては、まず1月中に防寒着や石油こんろなどを積んだコンテナ4個を送り、2月末に届く予定になっている。しかし現地は厳しい冬を迎えている。「せめてすぐに使えるものを手配しようと思って」使い捨てカイロやおむつ、懐中電灯などをスーツケースに詰め込んで、コンテナとは別に自身で現地に届けることにした。スーツケースはウクライナ国旗と同じ青色と黄色のものを選んだ。爪も同じ2色に塗った。

戦時下のウクライナには民間機が飛んでいないため、隣国モルドバを経由して陸路でウクライナ入りした。キーウ近郊の軍病院を訪れたり、非常事態庁の関係者と会い、不足している物資の説明を受けたりしたという。デヴィ夫人は83歳。地元の記者は「とてもそんな年齢に見えない。すごい体力だ」と舌を巻いた。

ロシア軍によって数百人の遺体が埋められた現場で合掌するデヴィ夫人=1月23日、ウクライナの首都近郊ブチャ

▽「私は行動したい」

そもそもデヴィ夫人がウクライナ支援に乗り出したのはなぜなのか。デヴィ夫人は1962年に3週間、ソ連時代のウクライナのキーウを遊学のため訪れたことがあり、「キーウには特別な思い出と思い入れがある」のだという。そんなウクライナがロシアの蛮行の被害に遭っている。「とても美しいオペラ、建築が壊されるなんて信じられないと思いました」。自身が運営する財団が支援するウクライナ出身の声楽家やバレエダンサーを通じウクライナと縁があったこともあり、「いてもたってもいられなくなった」。

駐日ウクライナ大使と話した際、大使館に日本全国から大量の支援物資が集まり、置くスペースがないため埼玉県の倉庫に保管していると知った。予算不足の大使館が本国に送れないと対応に困っていることも分かり、コンテナ4個分の輸送費の資金捻出に協力した。「私は行動したい。ただ見ているだけでは、ただ祈るだけでは何も実現しません」

プーチン大統領への怒りも原動力の一つだ。ロシアの侵攻当初から関連する新聞記事を読んできた。「そのたびに怒りが倍増、倍増、倍増。火山が噴火するくらい、夜も眠れないくらいの怒りになった。プーチンがどんな言い訳をしても正当化できない」と語気を強めた。

▽平和なんて来ないけど

ウクライナでは、インフラ施設が破壊されて大規模停電が発生しており、日本政府は越冬支援として発電機や照明器具の供与を進めている。ロシアが埋設した地雷の除去も長期的に支援する方針だ。

デヴィ夫人は「もっと積極的に支援すべきだと思います。私のような個人ではなく、政府ができることっていっぱいあると思う」とさらなる支援の強化を求める。「ウクライナを負けさせることは絶対あってはいけません。ウクライナを負けさせたら民主主義の墓場になってしまう」と考えているからだ。さらに「岸田首相もウクライナに行くべきです。欧米諸国に後れを取ってはいけないと思う」と訪問を促した。

1月23日、ウクライナの首都近郊ブチャで、現地当局からロシア軍による被害について聞くデヴィ夫人

多くの支援物資が在日本ウクライナ大使館に届くなど、ウクライナ支援の輪が広がる一方で、政界にはロシアとの友好を重視する言説もある。日本維新の会の鈴木宗男参院議員は昨年11月、パーティーでのあいさつで「ロシアのプーチン大統領だけが批判され、(ウクライナ大統領の)ゼレンスキー氏は全く何も叱られないのは、どういうことか。ゼレンスキー氏は、多くのウクライナの人たちを苦しめている」と発言。森喜朗元首相は今年1月に開かれた会合で「こんなにウクライナに力を入れてしまって良いのか。ロシアが負けることは、まず考えられない」と日本政府の対応に疑問を呈した。デヴィ夫人は「老害以外の何者でもない」と2人を批判し、「自分がロシア外交の糸口を作ったと『見え』を張っている」と主張した。

太平洋戦争中は福島県に疎開し、インドネシア大統領夫人になってからはクーデターを経験したデヴィ夫人。動乱の時代を知るだけに「残念ながら平和なんて来ないと思っている。地球に人類が存在し始めたときから、強者が弱者を襲い、略奪する。歴史とは戦争の繰り返し」と楽観はしていない。

ただ、それでもデヴィ夫人は今後、コメやカレーなどの食料を届け、ウクライナ支援を続けていくつもりだと強調した。「プーチンの思いどおりになり、民主主義と自由が失われれば、世界の敗北です」

プーチン大統領の顔が印刷されたトイレットペーパーを持つデヴィ夫人。ウクライナの首都キーウ中心部の独立広場で、露天商が売っていたという=2月2日、東京都渋谷区

動画はこちら https://www.youtube.com/watch?v=42t4a-cFwEI