世界一の経営者イーロン・マスク氏の横顔 日本では育たない「徹底的な変人」

イーロン・マスク氏 国際

世界一の経営者イーロン・マスク氏の横顔 日本では育たない「徹底的な変人」(週刊ポスト 2022年5月2日 7:00)

ツイッター社を440億ドル(5兆6000億円)で買収するなど大きな話題を振りまいているのが、米電気自動車テスラCEOのイーロン・マスク氏。2022年版の世界長者番付で2190億ドル(約27兆円)で初の1位に輝いた「世界一の経営者」だが、これまで自分が語る“夢“を現実のものとし続けてきた実績がある。

マスク氏の“推進力”について、2014年に同氏を取材したことがあるジャーナリスト・大西康之氏はこう話す。

「マスク氏の強さは、本人が自分の成功を確信しているということです。失敗の可能性を考えないし、空気も全く読まない。自分の頭の中でいけると判断したらとにかくいく。

彼が電気自動車を開発すると言った時、ほとんどの人が『ベンチャー企業で車の量産なんて無理だ』と呆れた。ところが、実際に年間100万台の量産を実現させてしまった。その過程は全然平坦ではなく、何度も失敗しているし、何度も嘘つきだと言われてきた。

飛躍的な成長を遂げるテスラの電気自動車

(宇宙ロケット開発会社の)スペースXにしても、『有人飛行はベンチャーではなくNASAの仕事でしょ』と多くの人が思っていたのに、実現させた。ここまで実績を積んでくると、“ただの変人ではないな”となる」

世界を驚かせたのは、ロケット開発や電気自動車だけではない。

自宅から職場までの渋滞に悩まされていたマスク氏は、道路の下にトンネルを掘るというアイデアを思いつく。2013年に、チューブ内を乗り物が最高時速1220kmで走る超高速鉄道「ハイパーループ」を考案し、理論上可能であることを明らかにした。これを機に航空機に代わる次世代交通手段として研究・開発が進められるようになった。

2007年に直接取材したことがある自動車ジャーナリスト・川端由美氏は、不可能とされる領域に踏み込むマスク氏の姿勢をこう見る。

「他の起業家に比べて視点が大きくて遠い。マスク氏が宇宙開発を始めた2000年代初頭は、『宇宙は遠い』と言われていて、NASAの仕事だという認識だったんです。その時に宇宙だけではなく地球環境問題の解決も持ち出していた。正直、2007年にインタビューした時に私も、『この人が言っていることは、我々が生きているうちにビジネスになるのだろうか』と半信半疑でした」

ケネディ宇宙センターで打ち上げられたスペースXの宇宙船

日本のような土壌では育たないタイプだという。

「徹底的な変人ではあるが、アメリカには一定数、そんなマスク氏を面白がって支持するエンジニアや投資家、消費者がいるんです。もしマスク氏のような人が日本に生まれていたら、おそらく幼少期とか学生のころに干されて、100%潰されていたでしょう。

スペースXとの大型契約を了承したNASAの存在も大きい。日本で税金を使ってロケットを飛ばし、それが火を噴いたらめちゃくちゃ怒られるでしょう。政治家も経営者も銀行も、そういった失敗は嫌がりますからね。けれどアメリカは『失敗してもしょうがないよね』と許容する社会なのです。マスク氏のようなリスクテイカーを受け入れて、突き抜けさせるシステムがある」(大西氏)

「世界一の経営者」となったマスク氏は、今後も不可能を可能にし続けていくのか。

※週刊ポスト2022年5月6・13日号