「愛」は脳にどんな影響を及ぼすのか?(Gigazine 2023年02月04日 12時00分)
「愛」は心の働きの最たるものだというイメージを抱く人も多いはずですが、実際のところ愛という感情はさまざまな変化を脳に引き起こします。愛が人間の脳に及ぼす物理的な影響について、科学系メディアのLive Scienceが解説しています。
What does love do to your brain? | Live Science
https://www.livescience.com/what-does-love-do-to-your-brain
ジョンズ・ホプキンズ大学医学部の神経科学准教授であるGül Dölen氏は、愛を感じることは脳の特定領域からの重要な神経伝達物質の放出に関わっていると指摘。その上で、「私たちが最初に明確にすべきことは、『愛とは何を意味するのか』という点です」と述べ、愛と一口に言ってもその種類はさまざまだと説明しています。
たとえば、恋愛感情を持っている相手に抱くロマンチックな愛があれば、親族としての絆を意味する愛もあり、仲間同士の友情を愛と表現することもあります。人間がこれらの感情を覚えるとオキシトシンというホルモンが放出されますが、感じている愛の種類によってオキシトシンを産生するニューロンの部位が違うとのこと。
Dölen氏によると、ロマンチックな愛を感じた時に放出されるオキシトシンは視床下部のMagnocellular cell(大細胞性ニューロン)で産生される一方で、他の形態の愛で放出されるオキシトシンはより小さなParvocellular cell(小細胞性ニューロン)で産生されるそうです。また、ロマンチックな愛を感じた時に放出されるオキシトシンは、それ以外の愛に反応して放出されるオキシトシンよりも量が多いとDölen氏は述べています。
また、ロマンチックな愛とその他の愛ではオキシトシンの作用も異なるとのこと。大細胞性ニューロンから放出されたオキシトシンは血流と脳脊髄液に入って脳や体全体に到達し、オキシトシン受容体を持つ副腎・子宮・乳房・脳などの細胞に結合して活性化します。受容体の反応によってストレスの抑制や陶酔感などが得られるとのことで、Dölen氏は「大きな愛が脳全体にあふれ、すべてがバラ色になります」と述べています。一方、小細胞性ニューロンから放出されたオキシトシンは量が少なく、脳内の特定のシナプスのみに送達されるとのこと。そのため、脳全体を浸したり血流に入ったりすることはないそうです。
人間の脳に愛がもたらす影響は興味深い研究トピックですが、fMRIなどの脳スキャンはあくまで脳の特定領域にどれだけの血液が流れているのかを測定するものであり、視床下部の大細胞性ニューロンと小細胞性ニューロンを別々に識別するほどの精度はないとのこと。そのため、愛と脳の反応に関する研究の多くは、活性化したニューロンが光るように遺伝子操作したマウスを対象にしたものという点に注意が必要です。
一方で、ミズーリ大学セントルイス校のSandra Langeslag准教授らの研究チームは、被験者に「知人の写真」と「愛するパートナーの写真」を見せた場合、パートナーの写真を見せた場合の方が脳の一部により多くの酸素が供給されることを発見しました。このことからLangeslag氏は、「人は見知らぬ美しい人や友人よりも、最愛の人に注意を払うと結論づけました」と述べました。