シリコン半導体で量子コンピューター素子の作製に成功

「量子コンピューター」の心臓部となるチップをシリコン半導体で作製 科学・技術

量子コンピュータ、半導体チップで高精度な計算に成功 理研など(朝日新聞 2022年1月20日 18時00分)

超伝導に「ライバル出現」…シリコン半導体で量子コンピューター素子の作製成功(読売新聞 2022/01/20 01:00)

理化学研究所などのチームが、次世代コンピューターに期待される「量子コンピューター」の心臓部となるチップをシリコン半導体で作り、高い精度で操作することに成功した。

量子コンピューターには、超伝導型やイオントラップ型など様々なタイプがあるが、研究チームは「半導体型がこうしたタイプに並ぶ最有力候補であることを初めて示した」としている。

理研の樽茶(たるちゃ)清悟グループディレクターらやオランダの研究機関キューテックなどのチームが英科学誌ネイチャーに20日、論文を発表(https://doi.org/10.1038/s41586-021-04182-y)した。

ふつうのコンピューターは「0」と「1」という数字だけで様々な数を表現する2進法を計算に使う。量子コンピューターは、量子力学的な現象を利用して「0でもあり1でもある」という「量子ビット」を作ることで、ふつうのコンピューターが苦手とする複雑な問題を、高速で計算できると期待されている。

チームは、シリコン半導体の表面に、アルミニウムの電極をつけてチップを作製。基板に電子を閉じこめ、電圧をかけるなどして操ることで、量子ビットを作った。二つの量子ビットで、量子コンピューター向けの2種類の計算をしたところ、高精度の計算ができたという。

量子コンピューターは性質上、計算エラーが起きやすく、高精度の計算が難しいのが課題だ。実用化には精度99%以上が必要とされるが、量子ビットが二つの場合、操作の精度はこれまでは実用化に不十分とされる98%が最高だった。チームは今回、チップの電極を工夫するなど独自の手法で、実用化に向け99.5%を達成した。

半導体量子コンピューターでは、量子ビットを作るため、物質をこれ以上冷やせない絶対零度(マイナス273.15度)に約0.05度まで近づける必要がある。実用化に向けて課題になる一方、すでに確立されている半導体技術を応用できる強みがあるとされる。インテルなどの企業も開発を進めている。

研究チームは今後、量子ビットを増やして性能を高める計画だ。理研の野入亮人(あきと)・基礎科学特別研究員は、「高精度が確かめられたことで、今後さらに半導体量子コンピューターに注目が高まり、企業の参入が増え、研究開発が加速するのではないか」と話している。

また、産業技術総合研究所新原理コンピューティング研究センターで超伝導方式に取り組む川畑史郎・副研究センター長は、「今まで超伝導の独り勝ちだったが、強力なライバルが現れた。課題はまだ山ほどあるが、実用的な大規模量子コンピューターへの期待を抱かせる、重要な一歩だ」と話す。