国会素通りの安保大転換を正当化 少子化対策は「異次元」消え本気度に疑問符…東京新聞
岸田首相の「聞く力」はどこに…? 国会素通りの安保大転換を正当化 少子化対策は「異次元」消え本気度に疑問符(東京新聞 2023年1月24日 06時00分)
通常国会が召集された23日、施政方針演説を行った岸田文雄首相。国会の議論を素通りし、昨年末に決定した安全保障政策や原発政策の大転換を正当化して自らの「決断」を強調した。国民の声に耳を傾けて熟議を尽くし、理解を得ようという姿勢は見えず、持ち味としていた「聞く力」は影を潜めた。
「政治とは慎重な議論と検討を積み重ね決断し、その決断について国会に集まった国民の代表が議論し最終的に実行に移す営みだ」
「決断を形にした予算案・法案を国会の場で、国民の前で正々堂々議論する」
首相の演説は敵基地攻撃能力(反撃能力)保有や防衛費の大幅増、原発の運転期間延長などを、国会の議論なく決めたと批判されていることを意識した「釈明」から始まった。
首相は昨年の参院選後から、決めた後に説明、議論する姿勢を強めた。安倍晋三元首相の国葬を内閣の一存で決め、反対世論を押し切って実施したのが代表例だ。参院選勝利で自信を深め、しばらく大型の国政選挙がない政治情勢も影響しているとみられる。
だが、重要な問題こそ時間をかけ、少数意見も尊重するという民主主義の基本とは程遠く、決断と議論の順序が逆だ。それを正当化する首相に「聞く力」をアピールしていた1年余り前の就任当時の面影はない。
◆「防衛費だけを倍増させる政権の異常さ」
防衛増税を巡っては、国会論戦を前に既成事実化するような主張もあった。
防衛費増額の財源を巡り、岸田政権は昨年末、1兆円強を法人税や所得税などの増税で賄う方針を決定したが、政府・与党内で合意しただけ。にもかかわらず、首相は演説で「今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応していく」と断言したのだ。
増税は法案化もされていない段階で、防衛費を倍増させる是非は国会でこれから議論が本格化する。先月の共同通信の世論調査では、増税不支持は65%に上った。増税を当然視するような首相の発言に、演説を聴いた立憲民主党の泉健太代表は記者団に「防衛費だけを倍増させる政権の異常さを明らかにしていきたい」と対抗心をあらわにした。
最重要と位置づけた子ども・子育て政策では、首相は「次元の異なる少子化対策」を進めると訴え、年頭記者会見で打ち上げた「異次元の少子化対策」から表現を修正した。
政府高官は「『次元の異なる』は異次元ということで、意味は同じだ」と説明するが、注目を集めたキーワードを早々と言い換えたことに、交流サイト(SNS)上では「トーンダウンしている」などと本気度を問う声が拡散。泉氏は「言い換えたのは、後ろめたさがあるのだと思う。この10年、少子化対策で結果を出してこなかったのは自民党だ」と指摘する。
首相は「信頼と共感の政治を本年も進めていく」とも強調した。だが昨年来、国葬や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題、「政治とカネ」などを巡る閣僚辞任で信頼と共感を損ない続けているのが実情。「本年も」との言葉が強弁であることは、内閣支持率の低迷が裏付けている。
施政方針演説 空疎に響く首相の「決断」…毎日新聞
施政方針演説 空疎に響く首相の「決断」(毎日新聞 2023/1/24 東京朝刊)
通常国会が開会した。昨年末に相次いで打ち出された重要政策の大転換について、政府の姿勢を問いただす場となる。
だが、岸田文雄首相の施政方針演説には、国民が納得できるような説明はなかった。
「決断」の言葉を6回も繰り返し、国会審議抜きで決定した政府方針について「国民の前で正々堂々議論する」と語った。
そうであるなら、国会で正面から説明し、与野党による審議を尽くさなければならない。「決断」を強調するだけでは空疎に響く。
首相は先送りできない課題に「一つ一つ答えを出していく」と宣言した。
まず防衛力の抜本的強化である。防衛予算を5年間で大幅に増額し、不足分は増税で賄う。しかし、なぜ転換が必要なのか十分な説明はなかった。
そもそも予算規模を国内総生産(GDP)比2%まで増やす必要があるのか。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有は、憲法に基づく専守防衛や、日米の役割分担を変質させないか。根本に立ち返った議論が求められる。
子ども・子育て支援を「最重要政策」と位置付け、「従来とは次元の異なる対策を実現したい」と強調した。しかし、これまでと何がどう異なるのか判然としない。
「将来的な予算倍増」の大枠を6月までに示すと言うが、財源確保のめどは立っていない。若い世代に意見を聞くことから始めるという。内容、予算、財源を早々に決めた防衛費とは対照的だ。
原発の活用にかじを切るエネルギー政策にも言及したが、脱原発依存の従来方針との整合性を欠いたままだ。
積み残された課題も多い。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が明らかな細田博之衆院議長は、公の場で説明をしていない。国会議員に月額100万円が支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)の使途公開も急務だ。
首相は年末のBS番組で、意見を聞いて決めた後は「聞かない力を発揮する」と話した。しかし、国会審議を通じて政策を練り上げるのが、議会制民主主義の本来の姿である。真摯な態度で臨まなければ国民の理解は得られない。
施政方針演説 民意置き去り許されぬ…中國新聞
施政方針演説 民意置き去り許されぬ(中國新聞 2023.1.24 06:45)
通常国会がきのう開会した。岸田文雄首相は施政方針演説で「歴史の転換点」を強調した。ロシアのウクライナ侵攻で、安全保障やエネルギー供給を巡る国際秩序は揺らいでいる。
演説では敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や原発のフル活用を掲げた。これまでの常識を捨て去り、「新時代の国づくり」だと威勢よく語った割には熱が伝わってこない。要所要所で都合の悪い説明を避けた言い回しが目立つからだろう。
政策の中身を明確に語らず、知りたいことをはぐらかす。今の政権のスタンスを映し出しているようだ。
今国会の最大の焦点は、2023年度から5年間で約43兆円をつぎ込む防衛力の抜本強化と、その財源を確保するための増税の是非だ。歴代政権が見合わせてきた敵基地攻撃能力の保有に踏み出し、23年度予算案に米国製巡航ミサイルの取得費を盛り込んでいる。
首相は「日本の安全保障政策の大転換」として、1年を超える時間をかけて検討を進めたと説明した。しかし実際は政府、与党内での議論にとどまる。専守防衛を堅持すると強調されても根拠は示されない。これでは懸念は拭えまい。
財源の一部を増税で賄うと昨年末に表明したものの、演説では「今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応していく」と遠回しに語った。国民にきちんと伝わるだろうか。
原子力政策は、原発運転期間の制限を撤廃し、新型炉への建て替えを進める方向へかじを切る。東京電力福島第1原発事故の反省を基に「原発依存度を低減する」とした従来の方針を、政府内の議論だけで臨時国会後に変えた。国論を二分するテーマにもかかわらず、演説ではわずかに触れるにとどまった。
年初に掲げた「異次元の少子化対策」は、出生率を反転させると力を込めつつ財源には触れなかった。
ライフワークの「核兵器のない世界」については「現実的な取り組みを進める」と従来の主張を繰り返しただけだ。被爆地・広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)が5月に迫るタイミングである。施政方針演説が総花的になりがちなのを差し引いても、物足りない。
忘れてならないのは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係解明だ。「政治とカネ」の問題も絶えない。19年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件を受けて首相自ら党改革に意欲を示してきたのとは裏腹に、昨年は閣僚の更迭が相次いだ。再発防止の具体策も出てこなかった。
首相は、数の論理で物事を押し通す安倍・菅政権と一線を画し「国民の信頼を取り戻す」と訴えて就任したはずだ。それなのに、国会での十分な議論を経ないままの「決断」を既定路線化する振る舞いが目に余る。
先日の日米首脳会談で、防衛力強化を国会よりも先に報告したのもそう。従来の政権と変わらず、民意を置き去りにしていると言われても仕方あるまい。
こうした批判をかわすためか、演説冒頭に「国民の前で正々堂々議論をする」と述べた。ならば有言実行を強く求める。議論を尽くし、国民の理解が深まらない場合は、柔軟に見直す「決断」をしてもらいたい。