<社説>異次元の少子化対策 規模より政策まず示せ(中國新聞 2023年1月9日(月) 07:00 最終更新: 07:00)
取り組む内容も固まらないのになぜ「異次元の少子化対策」と大見えが切れるのだろうか。
岸田文雄首相が、少子化対策の強化に向けた具体案の検討を小倉将信こども政策担当相に指示した。3月末をめどに大枠をまとめる方針で、児童手当の拡充などが柱となるという。
2022年に生まれた赤ちゃんの数は統計を始めた明治以来、初めて80万人を割ることが確実だ。子どもが急減し、社会保障制度が立ちゆかなくなりそうな将来には不安が広がる。首相が「先送りできない課題」と述べ、新年の新たな「挑戦」に掲げたこともうなずける。
だが議論の進め方はいただけない。首相は「子ども、子育て関連予算の倍増を目指す」と強調したものの、具体策は後回し。財源の裏付けもないまま予算倍増だけを打ち出す手法は到底納得できるものではない。
首相は重点事項として、①児童手当を中心とした支援拡充②幼児教育・保育、一時預かりなどのサービス充実③仕事と育児の両立支援や働き方改革―などを小倉氏に指示したという。
新たに設ける会議でたたき台をつくって検討を本格化させ、6月にまとめる経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で全体像を示したい考えだ。
ただ、少子化対策はこれまでも充実の必要性が指摘されてきた。4月にはこども家庭庁が発足する。それなのに首相が指示した内容には思い切りも目新しさも感じられない。これだけ重要なテーマを新しい省庁が始動してから詰めるというのも随分のんびりした感じがする。
学校給食の無償化に独自財源で踏み切る自治体も出てきた。東京都は今春から所得制限なしに子ども1人に月5千円を支給する方針を打ち出した。地方が政府より先行する現実に岸田政権は危機感を持つべきだろう。
与党幹部は早くも増税を口にしている。混乱を招いた防衛費増額と同じ構図ではないか。
21年度税収は過去最高の67兆円で、22年度も伸びる見込みだ。にもかかわらず、歳出を膨張させて財源が足りなくなり、増税や国債発行で穴埋めする手法は無責任過ぎる。事業に優先順位を付け、限りある財源で最大効果を上げることが政治の使命であることを忘れられては困る。
国会議員は月100万円の調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開を果たしていない。「政治とカネ」問題にもけじめをつけていない。自らに甘いまま底の抜けたバケツに水を注ぎ込むようなやり方では国民の理解は得られまい。
子育てに金がかかり過ぎ、子どもを持ちたくてもかなわない社会構造は深刻だ。フランスは多子世帯ほど税負担が減る制度などを導入して出生率が劇的に改善した。税額控除や、控除しきれなかった分を給付する国もある。参考にすべきだろう。
学歴偏重に対する意識改革も必要だ。とりわけ親の経済的負担が重いのは大学進学である。学歴を問わない能力重視の採用を促すことや、働きながら大学で学べる仕組みの充実など、取るべき方策はあるはずだ。
給付に偏った旧来型の対策では不十分だ。省庁の枠を超え、税制などにも切り込んだ、「挑戦」に値する抜本的メニューをまず示してもらいたい。予算規模を語るのはその後でいい。