<社説>年のはじめに考える 「平和外交」を立て直す…東京新聞

東京新聞社説20230119 政治・経済

<社説>年のはじめに考える 「平和外交」を立て直す(東京新聞 2023年1月8日 07時48分)

昨年十二月、新しい「国家安全保障戦略」が「国家防衛戦略(旧防衛計画の大綱)」「防衛力整備計画(旧中期防衛力整備計画)」とともに閣議決定されました。

安保戦略は、おおむね十年の期間を念頭に、外交、防衛など安全保障に関連する分野の政策に戦略的な指針を与えるもので、安倍晋三内閣当時の二〇一三年に初めて策定されました。

岸田文雄首相が九年ぶりに改定した背景には、中国が軍事力を急速に増強し、力による現状変更の圧力を高めるなど国際情勢の変化があります。

安保戦略策定の目的は、日本の「主権と独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保する」という国益のためですから、情勢の変化に応じて戦略を不断に見直すこと自体に、異論はありません。

問題は内容です。国民の命と暮らしを守るための安保戦略が周辺国との緊張を高め、逆に日本国民の命と暮らしを危険にさらすことになれば本末転倒だからです。

◆専守逸脱の敵基地攻撃

新しい安保戦略は主に二つの点で従来の防衛政策と異なります。その一つが政府が反撃能力と呼ぶ「敵基地攻撃能力」保有です。

日本がミサイルで攻撃された場合、歴代内閣は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」として、敵の発射基地をたたくことは自衛の範囲内としつつ、攻撃可能な装備を平素から整えることは「憲法の趣旨ではない」としてきました。

戦争の反省から、戦後日本は戦争放棄、戦力不保持の憲法九条に基づいて他国に軍事的脅威を与えない「専守防衛」に徹してきました。長射程ミサイルなどこれまで持たなかった敵基地攻撃能力を一転して保有すれば、専守防衛を逸脱すると指摘されて当然です。

もう一つが防衛費です。関連予算と合わせて二七年度に国内総生産(GDP)比2%まで増額することを打ち出しました。

二二年度当初予算の防衛費は約五兆四千億円。明確な決まりはありませんが、防衛費はGDP比1%程度で推移していますので、2%への増額はほぼ倍増です。

これを五年間で実現するというのですから、軍事大国化の意図を疑われても仕方がありません。

抑止力としての効果が不明な敵基地攻撃能力の保有と合わせて挑発と受け取られれば、周辺国にさらなる軍事力増強の口実を与えます。防衛政策の転換には地域情勢が好転する確証がありません。

改定前の旧安保戦略には次のような記述があります。

「我が国は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた」「こうした我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない」

平和国家としての歩み自体が、日本への信頼と国際的地位を高めてきた国家戦略と言えます。

「ハードパワー」と呼ばれる軍事力とは対照的な非軍事の「ソフトパワー」、もしくは二つを組み合わせた「スマートパワー」としての外交・安保戦略です。

◆国際的信用という資産

新しい安保戦略はそうした視点を欠いています。「平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」と記すだけで、平和国家の歩みをどう生かすか、言及がないのです。

「日本も戦後、他国を攻撃しないという専守防衛で培った世界的な信用資源がある。その延長線上で防衛体制を強化する方策があるのに、反撃能力を持って自らその信用資源をかなぐり捨てる必要はない」。国際政治学者で東大大学院教授の遠藤乾氏は本紙のインタビューでこう指摘します。

戦争とは政治の延長線上にあると指摘したのは、プロイセンの軍事学者クラウゼビッツです。長年読み継がれる「戦争論」の慧眼(けいがん)に学べば、軍事的衝突は政治・外交の失敗にほかなりません。

情勢の変化に対応するため、戦後日本が平和国家として歩み、築き上げた「信用」という外交資産を最大限生かす形で国家戦略を磨き上げたらどうでしょうか。

不透明で不安定な時代だからこそ、やみくもに軍事に走らず、冷静な視点で「平和外交」を立て直すことが必要とされるのです。