安倍晋三氏は小泉純一郎総理(総裁)の後を継いで自民党総裁に選任され、首班指名で第90代内閣総理大臣に就任した。しかし、翌年、健康問題のため志半ばで突然辞任した。5年後、再び総理の座に返り咲き、通算及び連続の在職日数ともに憲政史上最長の総理となった。その間の足跡を振り返る。
- 第1次安倍内閣(2006年9月26日~2007年8月27日)
- 第1次安倍改造内閣(2007年8月27日~同年9月26日)
- 第2次安倍内閣(2012年12月26日~2014年9月3日)
- 第2次安倍改造内閣(2014年9月3日~2014年12月24日)
- 第3次安倍内閣(2014年12月24日~2015年10月7日)
- 第3次安倍第1次改造内閣(2015年10月7日~2016年8月3日)
- 第3次安倍第2次改造内閣(2016年8月3日~2017年8月3日)
- 第3次安倍第3次改造内閣(2017年8月3日~2017年11月1日)
- 第4次安倍内閣(2017年11月1日~2018年10月2日)
- 第4次安倍第1次改造内閣(2018年10月2日~2019年9月11日)
- 第4次安倍第2次改造内閣(2019年9月11日~ )
第1次安倍内閣(2006年9月26日~2007年8月27日)
安倍内閣は「美しい国づくり」と「戦後レジームからの脱却」をスローガンに、歴代自民党政権が成し遂げられなかった、教育基本法の改正や防衛庁の省昇格、国民投票法などを掲げた。
<2006年>
12月15日 教育基本法改正が成立。
12月15日 防衛庁設置法等改正が成立、防衛庁が防衛省に移行。
<2007年>
5月14日 日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)が成立。
7月29日 第21回参議院議員通常選挙。政権与党の自由民主党・公明党は共に歴史的惨敗を喫した。
第1次安倍改造内閣(2007年8月27日~同年9月26日)
自公政権は参議院において少数与党となり「ねじれ国会」への対応が迫られた。
9月10日 第168回国会で安倍総理は「職責を果たし全力を尽くす」と所信表明演説。
9月12日 記者会見で首相辞任の意向を表明。
(福田内閣 2007年9月26日~2008年9月24日)
(麻生内閣 2008年9月24日~2009年9月16日)
<政権交代>
(鳩山内閣 2009年9月16日~2010年6月8日)
(菅内閣 2010年6月8日~2011年9月2日)
(野田内閣 2011年9月2日~2012年12月26日)
<2012年>
12月16日 第46回衆議院議員総選挙。自民党が圧勝し、政権に返り咲いた。安倍首相にとっては5年ぶりの再登板となった。
第2次安倍内閣(2012年12月26日~2014年9月3日)
目玉はアベノミクス。大胆な金融政策、機動的な財政政策、投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」を打ち出した。
<2013年>
1月22日 日本銀行金融政策決定会合において、物価安定目標を2%と定めたインフレターゲットの導入を決定。
3月20日 日本銀行総裁に黒田東彦氏が就任。
7月21日 第23回参議院議員通常選挙。自公が勝利し、ねじれ状態が解消された。
8月8日 小松一郎駐仏大使(外務省出身)が内閣法制局長官に就任。インタビューで、集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈を積極的に見直す考えを明らかにした。
9月7日 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定。
12月4日 国家安全保障会議(NSC)が発足。
12月6日 特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)の成立。国の安全保障の秘密情報を漏らした公務員らに厳罰を科す。
12月27日 仲井真弘多沖縄県知事が辺野古埋め立てを承認。
<2014年>
4月1日 消費税率を5%から8%に引き上げ。
4月1日 武器輸出三原則に代わり、防衛装備移転三原則を閣議決定。
4月1日 70~74歳の医療費の窓口負担が段階的に1割から2割に。
5月30日 中央省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」が発足。
5月26日~28日 日朝がストックホルム合意。北朝鮮は拉致被害者の再調査を約束する。
7月1日 憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使の限定容認を閣議決定。従来憲法解釈上認められないとされてきた集団的自衛権の行使等を、憲法前文及び9条の改正手続を経ることなく、政府の解釈変更によって可能とした。
第2次安倍改造内閣(2014年9月3日~2014年12月24日)
安倍総理は内閣改造で、「元気で豊かな地方の創生」を掲げるとともに、成長戦略の柱の一つとして「女性の活躍を推進」を明言した。
9月8日 経団連は自民党などへの政治献金を5年ぶりに再開。榊原定征経団連会長は会員企業約1300社に政治献金を呼びかけると表明し、安倍政権との関係強化を図った。
11月16日 沖縄県知事選挙で、仲井真氏が破れ、辺野古移設反対を唱えた翁長雄志氏が当選。
11月18日 消費税10%への増税を1年半延期すると発表。
11月21日 衆議院解散。消費税率引き上げ延期の是非を問うとして衆議院を突如解散した。
12月14日 第47回衆議院議員総選挙。与党が勝利し、定数の3分の2を超えた。
第3次安倍内閣(2014年12月24日~2015年10月7日)
安倍総理は経済政策について、「アベノミクスの成功を確かなものとしていくことが最大の課題だ。さらに進化させていきたい」と語った。
<2015年>
3月27日 安倍政権を批判していた元経産省の古賀茂明氏はレギュラー出演していた「報道ステーション」を降板させられたとし、自身の最終出演回に『 I am not ABE(私は安倍首相ではない)』と書いた手製のパネルを掲げた。
4月1日 年金「マクロ経済スライド」を初めて実施。前年度に比べて0.9%増となるが、物価上昇分に及ばないため、年金の価値は目減りする。
4月29日 安倍首相、アメリカ連邦議会の上下両院合同会議で演説。1961年の池田首相以来54年ぶり。
6月8日 アメリカから帰国する山口敬之氏(元TBSワシントン支局長、安倍総理元番記者)の逮捕に関し、当日、中村格警視庁刑事部長から逮捕中止の命令が入った。
6月17日 18歳選挙権を定める改正公職選挙法の成立。2016年6月19日に施行される。
8月28日 女性活躍推進法が成立。
9月19日 安全保障関連法が成立。自衛隊海外派遣に関する恒久法「国際平和支援法案」と10本の現行法改正案を束ねる「平和安全法制整備法案」から成る。米軍の艦艇や航空機を守る任務も出来るようになる。
9月24日 安倍総理は、「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言し、「一億総活躍社会」を目指すと発表した。その具体策と目標は、①希望を生み出す強い経済⇒GDP600兆円、②夢を紡ぐ子育て支援⇒出生率1.8、③安心につながる社会保障⇒介護離職ゼロ。
第3次安倍第1次改造内閣(2015年10月7日~2016年8月3日)
一億総活躍という旗を高く掲げ、東日本大震災からの復興の加速化、国内総生産600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロの実現、日米同盟強化による安全保障体制の推進に取り組むなどとする基本方針を決定した。
12月28日 慰安婦問題日韓合意。日韓外相会談で最終的かつ不可逆的な解決を確認した。
<2016年>
1月1日 マイナンバー制度の運用が開始される。利用目的は、原則として「社会保障」、「税」、「災害対策」の手続きの3つに限られる。
1月29日 日本銀行はマイナス金利政策の導入を発表した。
2月15日 「保育園落ちた 日本死ね」 公費で運営される「認可保育所」の入所選考に子供が落ちてしまったブロガーが投稿、全国に大きな反響を呼んだ。
5月26日~27日 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が三重県で開催。
5月27日 バラク・オバマ米大統領が広島を訪問。米大統領が訪問するのは初めて。
6月1日 消費税10%への増税を2019年10月に再延期。
6月2日 1億総活躍プラン閣議を決定。保育・介護人材処遇改善・働き方改革を盛り込む。
7月10日 参院選で与党が勝利。総理が目指す憲法改正を掲げる勢力が全議員の3分の2を超えた。
第3次安倍第2次改造内閣(2016年8月3日~2017年8月3日)
安倍総理は最優先課題を「経済」とした上で、アベノミクスの継続を宣言し、国内総生産の戦後最高600兆円の達成、希望出生率1.8の実現、介護離職ゼロを、3つの「的」と位置づけた。また、「一億総活躍」のために、長時間労働是正や、同一労働同一賃金の実現、最低賃金の引き上げなど働き方改革を課題として挙げた。
8月8日 天皇陛下(現在の上皇)が生前退位を示唆するビデオメッセージを公表。
11月17日(日本時間18日) 安倍総理が訪米し、就任前のトランプ米大統領と異例の会談。
12月15日 カジノを中心とする統合型リゾート(IR)整備推進法(カジノ法)が成立。
12月27日(日本時間28日朝) 安倍総理は米ハワイ・真珠湾の追悼施設「アリゾナ記念館」を訪問。
12月9日 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)締結の承認及び関連法の成立。
<2017年>
1月23日 トランプ米大統領が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から「永久に離脱する」とした大統領令に署名。
2月9日 朝日新聞が、大阪府豊中市内の国有地が学校法人「森友学園」に格安で売却された、と報じた。
2月17日 安倍総理は衆議院予算委員会で、「私も妻も一切、この認可にもあるいは国有地の払い下げにも関係ないわけでありまして・・私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい。」と答弁。
5月3日 安倍総理、憲法改正を求める集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と表明した。
5月17日 学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐり、内閣府が文部科学省に「総理のご意向だと聞いている」「官邸の最高レベルが言っている」などと伝えたとする内部文書の内容が明らかになった。
6月15日 犯罪を計画段階から処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法が成立。
第3次安倍第3次改造内閣(2017年8月3日~2017年11月1日)
10月22日 第48回衆議院議員総選挙。首相は「国難突破」を目指して衆院を電撃的に解散し、自公合わせて全議席の3分の2を超える議席を維持した。
第4次安倍内閣(2017年11月1日~2018年10月2日)
安倍総理はデフレ脱却のための大胆な税制、予算、規制改革、幼児教育無償化、社会保障改革などの新しい政策パッケージを策定することを表明した。
<2018年>
3月2日 朝日新聞は朝刊で「森友文書 書き換えの疑い」と報じた。
3月7日 財務省近畿財務局管財部上席国有財産管理官・赤木俊夫さん(享年54歳)が自殺。後に明かされた手記に、「すべて、佐川理財局長の指示です。」とあった。
3月9日 財務省前理財局長の佐川宣寿国税庁長官が辞任。
3月12日 財務省は14件の決裁文書の改ざんを認めた。
6月4日 財務省「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」を公表した。
6月13日 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)締結を承認。
6月29日 TPP11関連法が成立。
7月27日 翁長雄志沖縄県知事は辺野古沿岸部埋め立て承認の撤回を表明。
8月8日 翁長知事、すい臓がんのため死去。
9月20日 自民党総裁選が国会議員と党員・党友を対象に行われ、安倍総理が石破茂元幹事長を破り、連続3選を果たした。
9月30日 沖縄県知事選挙で、翁長知事の遺志を引き継ぐ移設反対派の玉城デニー氏が当選。
第4次安倍第1次改造内閣(2018年10月2日~2019年9月11日)
全世代型社会保障改革担当大臣を新設し、「生涯現役社会」の実現を今後3年間で目指す、とした。
10月25日~27日 安倍総理は中国を7年ぶりに公式訪問。26日に習近平国家主席と日中首脳会談を行った。
11月14日 シンガポール訪問中の安倍総理は、ロシアのプーチン大統領と日ロ首脳会談に臨み、平和条約締結後に北方四島のうち歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。
12月14日 政府は、沖縄・辺野古への米軍新基地建設で埋め立てを強行。
12月30日 TPP11 メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ及びオーストラリアの間で発効した。
<2019年>
4月1日 新元号を「令和」に決定。
出典:『万葉集』巻五、梅花の歌三十二首の序文
初春令月 気淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香
初春の令月にして 気淑(よ)く風和ぎ 梅は鏡前の粉を披(ひら)き 蘭は珮後(はいご)の香を薫らす
時あたかも新春の好き月、空気は美しく風はやわらかに、梅は美女の鏡の前に装う白粉のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香の如きかおりをただよわせている。(中西進著『万葉集』)
730年(天平2年、奈良時代)の初春、太宰府(福岡県)の長官である大伴旅人の邸宅で「梅花の宴」が催された。
4月30日 第125代天皇明仁が退位し上皇となり、平成時代が終わる。
5月1日 皇太子徳仁親王が第126代天皇に即位し、令和元年が始まる。
6月3日 金融庁の金融審議会報告書で、「老後の生活費が2000万円不足する」と公表。
6月11日 麻生太郎・財務相兼金融担当相は、「これまでの政府の政策スタンスとも異なる」として、正式な報告書として受け取らないことを明らかにした。
6月28日~29日 20か国・地域(G20)首脳会議を大阪で開催。
7月4日 韓国への輸出規制強化策を発動。半導体などの材料3品目を対象に、輸出許可の手続きを厳密にする。
7月21日 第25回参議院議員通常選挙で与党が勝利。安倍総理は2012年12月の衆議院総選挙から国政選挙で6連勝。
第4次安倍第2次改造内閣(2019年9月11日~ )
麻生太郎副総理・財務相と菅義偉官房長官以外は入れ替える大幅改造。総理は自民党役員会で、「新体制のもとでわが党の長年の悲願である憲法改正を党一丸となって力強く進めていく」と語った。
10月1日 消費税率を8%から10%に引き上げ、飲食品などの税率を8%に据え置く複数税率を初めて導入した。
10月25日 菅原一秀・経済産業相が辞任。公設秘書が地元有権者に香典を渡し、公職選挙法が禁じる寄付をしていた疑惑。
10月31日 河井克行・法相が辞任。7月の参院選で妻の河井案里氏の事務所が運動員に法定額を超える報酬を支払うなど、公職選挙法違反の疑い。
11月8日 参院予算委員会で共産党の田村智子参院議員が、安倍総理らの後援会関係者が多数招待されていることを指摘し、招待客の選定基準が曖昧であることを問題視した。
11月20日 通算在職日数が桂太郎を抜いて憲政史上最長の2887日になった。
11月22日 会計検査院、調査報告書「学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果について」を提出。
<2020年>
1月31日 東京高検検事長の黒川弘務氏(63)の定年を、検察庁の業務遂行上の必要性を理由に半年延長する閣議決定を行った。「官邸の守護神」と目されてきた黒川氏を次の検事総長にするためか。
2月27日 安倍総理は、新型コロナウイルス感染症の拡大抑制の目的で、全国一斉の小中高校の臨時休校を要請した。要請を受けて全国の小中高校がほぼ一斉に3月2日の週から臨時休校となった。
3月24日 東京オリンピック・パラリンピックの1年程度の延期が決定。3月30日には2021年夏に延期されることが決まった。
3月29日 タレントの志村けんさんが新型コロナウイルスによる肺炎のため、東京都内の病院で死去した。70歳。
3月31日 「70歳まで雇用」を企業の努力義務とする改正法が成立。
4月7日 緊急事態宣言が発令。対象地域は、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県、期間は4月7日から5月6日まで。
4月16日 緊急事態宣言の対象を全国に拡大。
5月4日 緊急事態宣言を5月末まで延長することを決定。
5月14日 北海道、東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、京都、兵庫の8つの都道府県を除く、39県で緊急事態宣言の解除を決定。
5月21日 大阪、京都、兵庫の3府県について緊急事態宣言を解除。東京、神奈川、埼玉、千葉、北海道の5都道県で継続。
5月25日 5都道県の緊急事態宣言を解除。全国すべての都道府県が解除された。
5月29日 公的年金の受給開始年齢を75歳まで繰り下げられることなどを盛り込んだ年金改革法が成立した。受給を遅らせることで受け取る金額は増額する。
6月15日 秋田・山口両県で配備予定だった陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の計画を撤回。
6月18日 昨年7月の参院選をめぐり、前法相で衆院議員の河井克行容疑者と妻で参院議員の案里容疑者が公職選挙法違反(買収)の容疑で東京地検に逮捕された。
6月21日 東京高検の黒川弘務検事長が、緊急事態宣言下の今月、都内で新聞記者らと賭けマージャンをしていたことを認め辞表を提出した。22日に辞職。森雅子法相は処分を「訓告」と発表した。
7月1日 プラスチック製買物袋(レジ袋)が有料化。
8月17日 安倍総理、慶應義塾大学病院に検査入院。潰瘍性大腸炎の再発。
8月24日 再び慶応大学病院を訪れ、追加検査を行った。
8月24日 安倍総理、連続在職日数が2799日となり、大叔父である佐藤栄作元首相の最長記録を超え、憲政史上最長になった。通算の在職日数についても、昨年11月20日に桂太郎の記録(計2886日)を抜き、憲政史上最長となっている。
8月28日 安倍総理、辞意を表明。
「政治においては、最も重要なことは結果を出すことである。私は、政権発足以来、そう申し上げ、この7年8か月、結果を出すために全身全霊を傾けてまいりました。病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはなりません。国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断いたしました。 総理大臣の職を辞することといたします。」