金融所得課税強化「富裕層の税負担を重くすべき」「一律は不公平」税理士たちの声(税理士ドットコム 2022年10月27日 19時08分)
年末に向けて行われる与党の税制改正において、所得税の負担率が所得1億円をピークに下がる「1億円の壁」を問題とし、金融所得課税の見直しが議論される見通しだ。
金融所得課税とは、株式の譲渡益や配当など、金融商品から得られた所得に対する課税のこと。税率は所得額にかかわらず一律20%(復興特別所得税込みで20.315%)となっている。そのため、金融資産を多く保有する人ほど所得税負担率が低くなり、その分岐点となるのが金融所得金額1億円とされている。
現在の税制は金持ち優遇とも捉えられる一方で、金融所得に対する税率が引き上げられることによる、株式市場への影響も懸念されている。
そこで税理士ドットコムでは、税理士に対して、金融所得課税の見直しについてアンケート(※)を実施した。
※アンケート実施期間:2022年10月21日〜10月25日、調査方法:税理士ドットコムに登録のある税理士に対しインターネットで実施、有効回答数:52件
「金融所得に対する税率引き上げ」については賛否が分かれる結果に
アンケートではまず、「金融所得に対する税率引き上げ」について質問。賛成52%、反対48%と、賛否が分かれる結果となった。
「賛成」「どちらかというと賛成」の理由については、「富裕層への税負担を重くすべき」「一律は不公平」といった回答が寄せられた。自由回答は以下の通り(抜粋)。
【「賛成・どちらかというと賛成」とする理由】
・税制を考える上で重要な「公平」の観点が金融所得課税では失われており、「公平」になるよう応能負担原則を取り入れるべき
・資産で稼ぐ人の負担を増やして、給料で稼ぐ人の負担を減らすべき
・景気浮揚を第一に考えた場合には、諸外国のように今は課税強化すべき
・何千万円も利益が出ている人が、一律20%で済むのは不公平
・株式等の取引に必要以上の優遇税制を適用する必要はない
一方、「反対」「どちらかというと反対」の理由については、「株式市場への影響が懸念される」「貯蓄から投資へという政府の方針と矛盾する」といった回答が寄せられた。
自由回答は以下の通り(抜粋)。
【「反対・どちらかというと反対」とする理由】
・株式市場を含む資本市場へ大きな影響を与え、日本経済の更なる衰退に繋がる
・投資に資金が流入しないと経済が回らなくなり、資金の海外流出が加速する
・海外移住を促進するだけで、国家にとって大切な税収が減る
・金融所得課税の引き上げは、「貯蓄から投資へ」という方向性と矛盾する
・将来の年金減額が予想される中、金融所得課税の引き上げは、国民の資産形成に悪影響を及ぼす
改正であれば「金融所得に対する税率を見直すべき」との声が約8割
「1億円の壁問題で増税が必要とされた場合、金融所得課税はどのように改正するのが望ましいか」という問いに対しては、金融所得に対する税率を見直すべきという声が全体の約8割を占めた。
問:金融所得課税はどのように改正するのが望ましいか
【1】金融所得に対する税率を一律で引き上げる 27%
【2】金融所得に対する税率を、1億円未満は現状のまま、1億円以上は引き上げる 29%
【3】金融所得に対する税率を、1億円未満は引き下げ、1億円以上は引き上げる 21%
【4】金融所得をすべて総合課税に含め、給与などと合算する 10%
【5】その他 14%
【5】の「その他」を選択した税理士の意見としては、「現状のままでよい」「所得税率を下げ、消費税率を上げる」「福祉への過剰な支出に大ナタをふるうべき」などの回答が寄せられた。
「取れるところから取る案」「制度が複雑化する」との意見も
また、今回の金融所得課税の見直しについて、広く意見を求めたところ、実にさまざまな回答が寄せられた。
自由回答は以下の通り(抜粋)。
・政府が掲げる「資産所得倍増計画」に逆行し、株安となる政策は望ましくない
・過大な支出を見直しておらず、むやみに税収を増やすことしか考えてない案だと思う
・金融所得課税の見直しをはじめ、取れるところから取るという近視眼的な課税はすべきでない
・どんな形にせよ金融所得には一定の優遇をすべき
・アベノミクスのようにむしろ減税すべき
・高齢者等の金融財産が固着しているのを流動化すべき。固定資産税と同様に金融保有税を導入しないと根本的解決にはならない
・特定口座で自動計算できない限り、確定申告を義務化することになる制度変更は、実務上対応困難
・これ以上制度を複雑にして欲しくない
税理士からの回答では、制度が複雑化することへの懸念や、安易に金融所得課税を見直すことへ苦言を呈するコメントも散見された。金融所得課税だけを強化の対象とするのではなく、税制全体を見通し、公平性を考慮した上で見直しを行うべきとも捉えられるだろう。
なお、金融所得課税の見直しについては、市場動向も勘案しながら、年末にかけて与党の税制改正議論の中で検討が行われる。