旧統一教会、安倍氏国葬で「改憲」の風向きが変わった 衆院憲法審で問われる「政治と宗教」「法の下の平等」

政治・経済

旧統一教会、安倍氏国葬で「改憲」の風向きが変わった 衆院憲法審で問われる「政治と宗教」「法の下の平等」

旧統一教会、安倍氏国葬で「改憲」の風向きが変わった 衆院憲法審で問われる「政治と宗教」「法の下の平等」(東京新聞 2022年10月28日 06時00分)

衆院憲法審査会は27日、今国会初の実質審議を行った。夏の参院選を経て、衆参両院は改憲に前向きな勢力が発議に必要な3分の2以上を維持。自民党などは議論を加速化させる構えだったが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関係や安倍晋三元首相の国葬を巡る問題が浮上し、風向きは変化した。いずれも憲法上の疑義をはらみ、先の通常国会で与党ペースに引き込まれつつあった立憲民主党などリベラル寄りの野党は照準を絞った。

◆旧統一教会の本部は韓国…自民改憲案との関係は?

「政治と宗教の関係をどのように整理するか。今、しっかり議論することは特に時宜を得たものだ」

審議の冒頭、自民の委員に続いて発言した立民の中川正春氏はそう切り出し、旧統一教会問題を踏まえた「政治と宗教」の集中討議を実施するよう求めた。

立民の階猛氏はその後の自由討議で、自民の複数の議員が自身の選挙で、旧統一教会の友好団体と政策協定を交わしていたことに言及。外国の勢力による日本の政治や選挙への介入を防ぐ狙いで、政治資金規正法が外国人からの献金受け取りを禁じていることを引き合いに、本部が韓国にある教団側の求めに応じて政策実現を図るのは「憲法の大原則である国民主権に反しないか」と主張した。

共産党の赤嶺政賢氏は、自民党の改憲4項目に含まれる憲法への自衛隊明記や緊急事態条項創設に関し、教団関連の政治団体「国際勝共連合」幹部が提唱した内容と同じだと指摘。「一緒になって改憲を進めるなど到底許されない。憲法を議論する前提そのものが問われている」と批判した。

◆「特別扱い」の国葬

賛否が交錯する中で先月に行われた安倍氏の国葬も論点になった。

「国の儀式」として全額を国費で賄ったことについて、立民の米山隆一氏は「首相経験者とはいえ一個人を特別扱いすることは、憲法14条の『法の下の平等』という国民の権利を害する」と強調。事実上の弔意の強制になって19条の「思想良心の自由」に抵触しかねないことや、41条に「国権の最高機関」と明記されている国会へ諮らず、内閣の一存で実施や予算支出を決定したことを問題視した。

ただ、本会議や委員会で閣僚に課されるような答弁義務は憲法審になく、発言は一方通行で終わりがちだ。この日も立民や共産の訴えに対し、自民が反応する場面はなかった。

◆「急所」を突く戦略

衆院憲法審は先の通常国会で、過去最多の16回開かれ、今国会でも週1回の定例日ごとに開催する見通しだ。改憲勢力は審議が積み重なってきたとして、国会発議のための原案提出をにらんだ協議に軸足を移すとみられる。自民の新藤義孝氏は緊急事態条項の新設に関して「喫緊の課題であり、速やかに取り組むべきだという意見が大勢を占めた」と強調した。

リベラル系の野党側は議論の土俵に乗りつつ、自民の「急所」を突く戦略だ。憲法審の立民議員は言う。

「自民が緊急事態条項を議論するのを排除するつもりはない。われわれは旧統一教会や国葬の問題を指摘していくことになる」

最近の政治問題を巡る憲法上の指摘

衆院憲法審の要旨(2022年10月27日) 自民「緊急事態条項、早急に」 立民「政治と宗教の議論を」

衆院憲法審の要旨(2022年10月27日) 自民「緊急事態条項、早急に」 立民「政治と宗教の議論を」(東京新聞 2022年10月27日 22時36分)

衆院憲法審査会は27日、今国会初の実質討議を行った。発言の要旨は次の通り。

【各会派代表の意見】

新藤義孝氏(自民) 緊急事態条項について、大規模自然災害、テロ・内乱、感染症まん延、国家有事安全保障の四つを対象としてはどうかという意見や、議員任期延長の問題に速やかに取り組むべきとの意見が大勢を占めた。緊急事態の宣言を行う主体の問題、期間の問題、緊急政令や緊急財産処分の効果など早急に議論すべきで、今後、論点を詰めていってはどうか。

中川正春氏(立憲民主) 優先してやっていきたいことは、国民投票にかかるCM規制とネット規制だ。制度を十分に整えることは先決すべき事項だ。一方、旧統一教会の問題で、政治と宗教の関係をどのように整理するか。憲法のもとでしっかり議論することは特に時宜を得たもので、審査会のテーマとして取り上げるよう提案した。

馬場伸幸氏(維新) 今国会に野党は、衆参いずれかの院で総議員の4分の1以上の要求があった場合、内閣に20日以内の臨時国会召集を義務付ける国会法改正案を提出した。自民党からは憲法53条の改正が必要だという声が聞こえてくるが、ならば改憲に本気で取り組んでほしい。自民党には審査会での着地点を見据えた議論をリードするよう強く求める。

北側一雄氏(公明) 一部にある自衛隊の違憲論を解消するため、9条1項、2項を維持したまま、別の条項で自衛隊の存在を憲法上明記すべしとの意見がある。しかし、多くの国民は自衛隊の活動を理解し、支持している。内閣や国会による自衛隊の民主的統制を確保することは重要で、法律だけでなく、憲法の中に位置付けることについて検討を進めていきたい。

玉木雄一郎氏(国民民主) 一つのテーマについて一定の意見集約を行ってから次のテーマに進むことを求めたい。そのために、分科会方式や小委員会方式も提案したい。特に緊急事態条項、とりわけ、議員任期の特例延長の必要性については、審査会である程度合意が得られていると考えられるので、具体的な改正案を議論すべきだ。

赤嶺政賢氏(共産) 統一教会の政治部門、国際勝共連合は自衛隊の明記や緊急事態条項などの改憲項目を提起している。自民党の改憲項目に酷似していると指摘される。自民党が政党として改憲を主張することは自由だ。しかし、韓国に拠点を置く反国民的な謀略団体と一緒になって改憲を進めることは到底許されない。憲法を議論する前提そのものが問われている。

北神圭朗氏(有志の会) 9条も喫緊の課題だが、もう少し議論を深めるべきだ。近い将来、台湾有事が発生する可能性は高いというのは、専門家の間では常識だ。台湾有事は日本有事だと覚悟すべきだ。9条の基本的な解釈の中核にある「必要最小限度」の防衛体制で果たして今後の安全保障の課題に効果的に対処できるのか。

【各委員の発言】

山下貴司氏(自民) 緊急事態条項は約9割の国が有しており、新型コロナ対応を憲法上の緊急事態条項で対応した国もあるなど、諸外国にとって当たり前の立憲的制度だ。関東大震災では明治憲法で認められていた緊急勅令で国難を切り抜けた。日本の経験、国際状況に照らせば、緊急事態における憲法のあり方を議論すべきことは明らかだ。

階猛氏(立民) わが党と日本維新の会は(旧統一教会の)被害者救済法案を国会に提出した。しかし、憲法が保障する財産権を侵害するとの反対意見があると聞く。憲法上の論点について審査会で一定の結論を出すことは極めて重要だ。国会議員が(教団関連団体など)外国勢力と政策協定を交わすことは、国民主権に抵触する恐れがある。

国重徹氏(公明) 緊急事態条項について検討するにあたり、参院の緊急集会についても議論を深めていくべきではないか。

小野泰輔氏(維新) 私どもの改憲原案では、経済的理由によって教育を受ける機会を奪われない旨を規定している。教育無償化は憲法上明確に位置付けるべきだ。

小林鷹之氏(自民) 緊急事態の対象4類型、議員任期延長規定について、意見が収れんしつつある。論点提示のステージから一歩進んで、具体的な文言の合意を目指していくべきでないか。

米山隆一氏(立民) 国葬の問題について、延々と憲法の解釈議論が起こった。この状態が放置されるのは適切とは言えない。憲法上の論点を審査会で議論した上で、立法で解決すべきだ。