安倍家と統一教会“蜜月”の歴史(前編) 岸信介が統一教会トップを称賛した“異様”な機密文書

祖父の岸信介に抱かれる安倍晋三(右) 政治・経済

「文尊師は誠実な男」 岸信介が統一教会トップを称賛した“異様”な機密文書(デイリー新潮 2022年07月29日)

安倍家と統一教会“蜜月”の歴史 自民・現職大臣らも関与
(前編)「文尊師は誠実な男」 岸信介が統一教会トップを称賛した“異様”な機密文書

山上徹也容疑者(41)の凶行の背景には、安倍晋三元総理と統一教会の関係があったことはすでに知られている。今回ご紹介する機密資料は、安倍元総理の祖父・岸信介元総理が1984年に当時の米大統領、ロナルド・レーガンに宛てた親書。一族と統一教会の深い関係を物語る“異様”な文書の内容とは――。

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殺人容疑で送検された山上容疑者の供述内容は連日報じられ、また、それに関連してさまざまな報道がなされている。それらを総合すると、事件のおおよその構図は定まりつつある。

いわく、母の統一教会への信仰で、一家と自らの人生は破滅した。恨みを晴らすため、教団のトップを狙ったが果たせず、政界で最大のシンパである安倍元総理を狙った――というものだ。

無論、彼の人生を破壊した当事者は、信仰にはまり、多額の献金を繰り返した母であるし、そこに導いた統一教会である。その恨みを安倍元総理に向けるのは破綻した論理であり、まして命を奪うという凶行に至っては、論理の飛躍が甚だしいことこの上ない。

一方で、故人や自民党が歴史的に同教会と深い関係にあるのは事実。そこにも目を向けないと、このねじれにねじれた事件の全貌把握に至れないのもまた明らかであるのだ。

〈文尊師は、現在、不当にも拘禁されています〉

ロナルド・レーガン大統領図書館所蔵の歴史的資料

〈親愛なる大統領閣下 日本では富士山の山頂付近で雪が輝き、本格的な冬の到来を告げております。貴国のご様子はいかがでしょうか〉

そう記された文言で始まる親書がある。

出された日付は1984年11月26日。差出人は岸信介。言わずと知れた元総理で、安倍氏の祖父に当たる。宛先は当時のアメリカ大統領、ロナルド・レーガンだ。

この書簡は、彼に関連する資料を保管する米カリフォルニア州のロナルド・レーガン大統領図書館のファイルにあったもの。ジャーナリストの徳本栄一郎氏が5年前、本誌(「週刊新潮」)の依頼で同所を訪れた際に発掘した貴重な文書である。

手紙は時候のあいさつで始まり、レーガンが選挙で勝利を収めたことへの祝辞が続く。が、「昭和の妖怪」がそんな用件で米大統領に親書を送るわけはない。途中から一転、話は“本題”へと移っていくのだ。

〈大統領、今日は、貴殿にお願いがございます。貴殿もお知り合いの可能性があると思われる人物、文鮮明尊師に関するものです〉

唐突に出てくる、統一教会の開祖・文鮮明の名。書簡はこう続く。

〈文尊師は、現在、不当にも拘禁されています。貴殿のご協力を得て、私は是が非でも、できる限り早く、彼が不当な拘禁から解放されるよう、お願いしたいと思います〉

文鮮明はその前にアメリカで、脱税容疑にて起訴され、84年4月には懲役1年6カ月の実刑判決を受けて連邦刑務所に収監されていた。

つまり、この書簡は、日本の元総理がアメリカの現職大統領に宛てて、韓国人「脱税犯」の逮捕が不当だとして釈放を依頼するという、極めて異例の内容なのだ。

〈文尊師は、誠実な男〉

ロナルド・レーガン大統領図書館所蔵の歴史的資料

手紙が後半に進むと、岸の懇願の度は増す。

〈文尊師は、誠実な男であり、自由の理念の促進と共産主義の誤りを正すことに生涯をかけて取り組んでいると私は理解しております〉

そして、こう称揚する。

〈彼の存在は、現在、そして将来にわたって、希少かつ貴重なものであり、自由と民主主義の維持にとって不可欠なものであります。私は適切な措置が取られるよう、貴殿に良き決断を行っていただけますよう、謹んでお願いいたします〉

この時点で日本では、既に教会による若者の強引な勧誘などが社会問題化していたが、その教団の首領を「誠実で貴重」と評価しているというわけだ。

ちなみに、書簡は、岸の友人で、ラジオ日本のオーナーであった遠山景久に託されている。通訳として同行したのは、日系アメリカ人・キャピー原田。日米球界の橋渡し役として知られる人物だ。

自宅の隣が統一教会の施設

徳本氏によれば、

「この手紙を受け、アメリカ政府は対応を協議します。元総理で、その当時もなお自民党の実力者であった岸氏の依頼だけにむげにはできなかったのでしょう。返事も書いたようですが、それは今も機密解除されていません。国家安全保障上の理由とのことでした」

結局、釈放は難しいと判断され、文鮮明が出所できたのは翌85年の夏だった。

岸と統一教会との関係がいかに深かったかをまざまざと物語る資料である。

「指摘の通り、岸氏と統一教会の縁には長く、深いものがありました」

と解説するのは、「宗教問題」編集長で、ジャーナリストの小川寛大氏である。

「岸氏の自宅は渋谷の南平台にありましたが、その隣に統一教会の施設があった。で、教会と関係の深かった右翼のドン・笹川良一氏に、彼らについて教えてもらっています。それから関係は深まり、韓国の教会本部も複数回訪れて、講演や文鮮明との会談を果たしている。国内で教会系の団体が集会を開いた際には、名誉会長も務めていました」

岸が教会と接近するのには狙いがあった。

小川氏が続ける。

「統一教会は1968年、『国際勝共連合』を設立し、反共産主義運動を展開するようになります。当時は冷戦の真っ只中で、日本でも社会党や共産党の勢力は大きかった。岸氏は左派勢力を増大させないためにも、協力できるものは何でも取り込んでいた。それゆえに、豊富な金や信者を持つ教会との関係を構築していったのでしょう」

その蜜月ぶりを象徴する事例が、先の釈放嘆願書の送付だったのであろう。

文鮮明師と握手する岸信介元総理

お祝いのビデオメッセージを送っていた安倍元総理

嘆願書の3年後、岸は90歳で没するが、その後も岸・安倍一族と教会との関係は続いた。

女婿に当たる安倍晋太郎は政界入りし、既に自民党の幹事長や外相などを歴任していたが、統一教会は彼ともつながりを持つ。

そして、晋太郎の後を晋三氏が継ぐと、やはり教会との関係も引き継がれた。

「安倍元総理と統一教会の関わりにもまた、深いものがありました」

とは、カルト宗教に詳しい、ジャーナリストの鈴木エイト氏。

鈴木氏の調査によれば、安倍元総理については、ここ20年ほどに絞っても以下のような関係性が見えるという。

○2005年、06年

統一教会系団体「天宙平和連合」(UPF)の開いた「祖国郷土還元日本大会」に祝電を送る

○10年、12年

統一教会系団体「世界戦略総合研究所」の会合に出席

○11年

統一教会系米紙「ワシントン・タイムズ」に全面意見広告を出す

○16年

徳野英治・日本統一教会会長を首相官邸に招待する

昨年には、やはりUPFが開いた「希望前進大会」なるイベントに、安倍元総理はお祝いのビデオメッセージを送っているが、山上容疑者はまさしくこれを YouTubeで見て、犯行を決意したと供述している。

鈴木氏が続ける。

「これらの言動は、一部のメディアなどから批判を受けることもありましたが、それでも関わりは続いていた。やはりそれだけつながりが深かったといえます」

後編(「死に物狂いで自民党議員を応援」元統一教会信者が証言 関係が深い現役国会議員は?)に続く。

週刊新潮 2022年7月28日号掲載
特集「『安倍元総理暗殺』激震収まらず 」より