高市早苗を担いで反撃開始か?“黒幕”気取りの麻生太郎が「石破下ろし」に打って出るタイミング(MAG2NEWS 2024.10.31
10月27日の衆院選で歴史的大敗を喫した自民党。惨敗の責任を取り小泉進次郎氏が選対委員長を辞任しましたが、「石破下ろし」を予想する声も少なくありません。なぜ自民党はここまで議席を減らすに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、同党敗戦の理由を考察。さらに厳しい目で公明、維新、立憲、国民民主各党の「体たらくぶり」を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
年内に「起きるしかない」政変。石破首相では戦えぬ参院・都議両選挙
自民党の単独過半数を42も下回る191議席という総選挙の結果は、同党の歴史で最悪から2番目の大惨敗である。
自民党は1955年の結成以来、2度の選挙で政権を失っており、その最初は1993年の「政治改革解散」。定数511、過半数256に対して同党は33足りない223で細川護煕政権を実現させた。次が2009年の政権交代時で、定数480、過半数241に対して同党は122も足りない119で、民主党=鳩山由紀夫政権を実現させた。それに比べて今回は、定数465、過半数233に対して同党は191である。
それぞれ定数が異なるので、定数に対する獲得議席の占有率で比較すると、今回は41.1%で、09年の24.8%には遥かに及ばないが、93年の43.6%を下回っていて、予め野党が結束を準備していれば政権交代が起きてもおかしくなかった。
逆に言うと、立憲民主党の野田佳彦代表は、選挙戦を通じて「政権交代」を訴え続けたものの、単独過半数を獲得できるだけの候補者を用意できておらず、そうであるなら他の野党と選挙協力をして候補者の一本化を図るしかないというのに、どちらでもない中途半端に流れ、野党第一党の責任を果たさなかった。
自民党の敗因は石破の右往左往の無様さ
現象論のレベルで言うと、石破の、
1.安倍政治に批判的であるが故に長く党内野党に甘んじてきた経歴、
2.あの渋味の風貌で低く落ち着いた声で語ることによって醸し出される一見すると考え深そうな人柄、
3.それらを掛け合わせれば安倍の亜流でしかない菅義偉・岸田文雄両政権とは違った政権運営を見せてくれそうな雰囲気、
――といったものは、結局、全くの幻想にすぎなかった。彼の「反安倍」は意外にも骨筋が通らない口先だけのもので、その裏にはさして深い考えがあるわけでもないのでコロコロ言うことが変わるのも当たり前。情けないほどの無定見であることが早々に露呈してしまった。
私が「これはあんまりじゃないか」と耳を疑った、信じられないような例を1つだけ挙げれば、彼が所信表明などで繰り返した「デフレ脱却こそ最優先課題」という台詞である。
言うまでもなく「デフレ脱却」は11年前に始まった「アベノミクス」の当初からの中心スローガンであり、私に言わせればそれがそもそものボタンの掛け違えとなった大誤認なのだけれど、それをなぜ今時、石破が口にするのか。しかも時代は巡っていて、現に人々が困っているのは過度の円安を一因とする物価高であって、総理が言うとすれば「インフレ脱却こそ最優先課題」ということでなければおかしい。
前号でも引用したが、朝日新聞の原真人は10月19日付「多事奏論」欄でこう述べた。
▼デフレは物価下落が続くことで、そこから脱却するとは物価を上げることだ。この物価高の下でさらに物価をあげようとはかなり倒錯した問題意識である。
▼石破がこれを持ち出したのはやや意外だった。……7年前、日本記者クラブでの講演でアベノミクスや異次元金融緩和を批判していたからだ。「こんな政策をいつまでもできるわけがない」「おかしくないかと誰も言わない自民党は怖い。大東亜戦争の時がそうだった」とも。
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少なくともこのことで明らかになったのは、石破はアベノミクスの何が問題かを全く理解しておらず、誰が草稿を書いたのかは判らないが、「デフレ脱却こそ最優先課題」と渡された原稿に書いてあれば、その通りに読み上げて平気でいる程度の人物だということである。このことに象徴される無定見、それ故に誰かに言われればコロリひっくり返る発言の右往左往のみっともなさが、国民に見抜かれてしまった。
本質論のレベルで言うと、「安倍政治」の余りにも酷い害悪――お友達主義体質、アベノミクスの出鱈目、安倍流大軍拡の行き過ぎをクリーンアップすることは、日本国民のために必須であるのはもちろんのこと、自民党自身にとっても避けて通れないステップであるはずだが、石破にそれを担うだけの力量はなかったということである。
麻生が高市を担いで反撃開始か
総裁選の第1回投票の結果が示したように、安倍政治の継承を掲げる高市早苗とそれを担ぐ旧安倍派、麻生派と、曲がりなりにも「非安倍化」を目指す石破支持勢力とは、党内を二分して拮抗している。石破政権のヨタヨタぶりを見て、高市派が「これでは来春の都議選、来夏の参院選は戦えない」と声を上げ石破下ろしに打って出るタイミングを見計らっているのは当然だろう。
しかし、この陣営の黒幕を気取る麻生太郎=党最高顧問は、事を急がず石破がボロを出し続けるのをよく見極めてから一気に動くのが上策と考えていて、最終的には、都議選の不調を理由に石破を引き下ろし、高市総裁で参院選を戦うことを想定していると言う。
とはいえ、高市派の勢力も総裁選の時がピークで、衰えが速い。総裁選で高市の推薦人として名を連ねた衆院議員は11人(うち安倍派7人)だったが、今回選挙でその中の7人(うち安倍派6人)が消えた。また、今年2月に解散するまでの安倍派を取り仕切っていた「6人衆」のうち、塩谷立は立候補断念、世耕弘成は離党して無所属で上がってきたが党外にあり、高木剛は落選したので、残っているのは松野博一、萩生田光一、西村康稔の3人だけである。
さらに、第2次安倍政権を生んだ2012年総選挙で出てきた「安倍チルドレン」は、当初119人の大勢力を誇ったが、今回選挙を経て生き残っているのは46人にすぎない。麻生がいくら力んで最後の勝負をかけようとしても軍団そのものが半分かそれ以下に縮んでしまったのでは、なかなか戦いにならないだろ
う。
公明党衰弱で自公連立の行方不安
公明党は、いささか極端かもしれないが、今回選挙で「終わった」のではないか。解散時32議席が24に減ったという数の問題以上に、党首の石井啓一が埼玉14区で、副代表の佐藤茂樹が大阪3区で、共に落選し役職を辞任せざる得なくなるという、党としての組織そのものが壊滅しかかっている。
自公連立が始まって25年。それに慣れ切って、自民党との協力以外に選挙のやり方を知らない体質になってしまった。そのことを悪い形で象徴したのが、自民の裏金非公認議員30人以上に公明党として「推薦」を付与したことで、この問題に敏感な有権者から「何だ、公明も共犯者なのか」と」思われたことが大きなダメージとなった。
加えて、基盤である創価学会の急速な高齢化によって活動量そのものが減退して行く中で、ピーク時=2005年には900万票近くあった比例得票数も、ついに今回600万を切って過去最低の596万票を記録するという有様。どこまでも自民に従って心中するしか道はないのかを問い直す機会が迫っているのではないか。
維新は大阪ローカル政党に戻った
維新が全国政党化する可能性については本誌は一貫して疑問視していて、その主な理由は、「大阪都」という主張が全く普遍性を持っておらず、大阪はそれでいいとしても神奈川や京都や兵庫や福岡も「都」になればいいのかとの問いに対する答えを用意していない大阪エゴ的な超ローカル性にある。そこをはっきりさせて全国的な国と地方の行政の形を絵解きするのでなければ、維新は全国政党にはなりようがない。
前回総選挙で東京はじめ関西以外でも議席を得、それをマスコミは「全国政党化」への進撃が始まったかに囃し立てたが、本誌はそれに批判的で、いずれむしろ大阪に立て篭もるしかなくなるのではないかと予測した。実際、今回選挙で起きたのはそれで、確かに大阪では全19区を支配する圧倒的強さを見せたものの、それは逆に同党が、関西万博をカジノ施設開設に繋げようという邪悪な構想でますます超大阪エゴに嵌まり込んでいることの裏返しにすぎない。
立憲も国民も「中身」で勝負していない
立憲と国民民主は結果的には躍進したが、「中身」で勝負して勝ち上がってきたわけでなく、また本当に勝ってしまったらどんな政権を樹ててこの3~4年間に何と何を実現するのかの具体的なビジョンも示していないので、人々に希望を与えることにはならなかった。
「中身」とは、前号でも述べたように、安倍とその亜流の12年間を通じて溜まりに溜まって人々の足に絡みついて前進を阻んでいる汚泥のようなものを、徹底的に取り除いて次の時代に向かって踏み出せるようにすることであり、そのためには
1.裏金問題に象徴されるお友達同士で舐め合う陰鬱な政治体質の一掃、
2.出鱈目の限りを尽くして何の成果も上げずに終わった「アベノミクス」の総決算、
3.対米従属をさらに深化させつつ膨らんでいく大軍拡への歯止め
――という3分野で「脱安倍化」を追求することである。石破がそれをやれるならそれでよし、やれなければその時は「だから我々の出番でしょ」と言って野党が政権を預かってその課題をさらに先まで進めて行くのでなければならない。
ところが立憲の野田は、彼自身が菅義偉や岸田文雄と並ぶ「安倍亜流」であり、そのような中身の勝負で石破に立ち向かっていない。国民の玉木雄一郎も、その野田と、「保守中道路線」という名の自民への擦り寄りを競い合っているだけの安全野党にすぎず、だからこの選挙結果は誰をもワクワクさせることがないのである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年10月30日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)