「外国人使い捨て」が透けて見える… 日本が「選ばれない国」になる懸念 「育成就労」法案が衆院通過(東京新聞 2024年5月22日 06時00分)
技能実習に代わる外国人材受け入れの「育成就労」制度創設と、永住資格の新たな取り消し制度を柱とした入管難民法と技能実習適正化法の改正案が21日、衆院を通過した。岸田文雄首相は「外国の人材に選ばれる国にする」と言うが、働く外国人の人権確保策は不十分だ。永住資格の取り消し制度へも永住者から不安の声が上がる。政権が掲げる「共生社会」の将来の姿が見えない。(池尾伸一)
ハードルが高い「転籍」
最低賃金を下回る待遇、パワハラ、セクハラ…。現行の技能実習生は過酷な環境でも我慢せざるをえない。原因の一つが、3年の滞在期間中は、雇われている企業から他に移る「転籍」を事実上禁じる制度だ。
「育成就労」は転籍規制が緩和されるが、業種によって最長2年間は移れない。職業能力や日本語の試験に合格することも条件とされる。衆院審議では、野党から「ハードルが高く、実際に転籍できる人は限られる」との指摘が相次いだ。
「借金解消」の具体策見えず
来日外国人が支払う手数料負担の解消策にも批判が相次ぐ。出入国在留管理庁(入管庁)の調査によると、技能実習生は、母国の送り出し機関に高額な手数料を課され借金を負って来日するケースがほとんどだ。ベトナムは平均65万円、中国は平均57万円などで、劣悪な労働環境から逃れられない理由にもなっている。
政府は、新たな「育成就労」により「受け入れ企業にも分担させ本人負担を軽くする」というが、具体策ははっきりしない。
外国人の労働問題に詳しい指宿(いぶすき)昭一弁護士は「労働者本人から職業紹介のあっせん手数料を徴収することは搾取につながるため国内法では禁止されている。外国人に重い手数料を課す制度を放置し続けるのはおかしい」と話す。
入管庁のさじ加減で家族は
日本に長く住む「永住者」が税金や社会保険料を滞納した場合、入管庁が永住許可を取り消すことを可能にする制度も、「政府は制度の必要性を示す統計や根拠を示せていない」(在留資格に詳しい丸山由紀弁護士)との批判が強い。在留カードの不携帯や、病気や失業による税や社会保険料の滞納であっても、入管庁のさじ加減一つで永住資格を取り消せる。
「いつ家族のだれかが帰されて、家族ばらばらになってしまうか心配。会社でも『下』にみられてしまう」。10歳で両親と中国から来日し、横浜市の中華街で育った会社員の20代女性は不安にさいなまれている。
当事者の声も聞く審議を
指宿弁護士は「一連の法案の根底には、外国人を労働力としては受け入れるが、社会を共につくる人間としては受け入れない『外国人使い捨て』の発想がある。アジアの人々にとっても韓国やオーストラリアなど働き先は広がっており、日本は『選ばれない国』になる」と政府の姿勢を批判。
その上で、「衆院の議論は不十分。参院審議では当事者である永住者や外国人労働の現場関係者からもヒアリングして真の解決策を追求すべきだ」と注文を付けた。