認知症患者の「夕暮れ症候群」はなぜ起こる? 夕方になると家に帰ろうと落ち着きがなくなり…(日刊ゲンダイ ヘルスケア+ 公開日:2023年06月05日 更新日:2023年06月05日)
認知症の患者さんが、夕方になると落ち着きがなくソワソワし出し、「お世話になりました。そろそろ家に帰ります」と、自宅にいるのに帰宅の準備を始めることがよくあります。この症状は、夕方から夜間にかけて現れるので「夕暮れ症候群」や「日没症候群」と呼ばれています。施設に入居している人の約10%、在宅介護を受けている人の約60%に、この症状がみられるといった研究データもあります。
認知症が進行すると、日内リズムの変動が起こります。健常者の場合、夕方でも脳は覚醒していて、眠くなりにくい状態です。しかし、認知症を発症すると日内リズムの変動により、夕方早くから覚醒度が低下して眠くなります。眠くなると、判断能力も低下して混乱が生じ、今いる場所がどこなのか分からなくなるため、帰宅しようとするのです。そのほかにも、自律神経の乱れや、薬の副作用も関係しているといわれています。
在宅で介護をしている患者さんが帰宅しようとした場合、家族は「ここが家ですよ」とストレートに伝えてしまいがちです。ですが、本人は30~40年前の記憶の世界に戻って生活しているので、今いる場所が現在住んでいる家だと認識できません。頭ごなしに否定すると、患者さんはさらに混乱してしまい、せん妄や徘徊を引き起こす恐れがあります。
患者さんを落ち着かせるためにも、いったん訴えを否定せずに受け入れましょう。そのうえで今ここにいることで得られるメリットを伝えてあげると患者さんは受け入れやすくなります。「夕飯を準備したので食べていきませんか」「娘さんは今買い物に行っているのでお茶でも飲みながら一緒に待ちましょう」などと、安心できる言葉がけをするといいでしょう。
また、夕方の決まった時間に本人が好きなことを行うと、気が紛れて落ち着きやすい印象があります。症状が現れる時間を把握し、その時間にお茶やおやつを渡したり、本人の好きな音楽やDVD観賞をするとリラックスでき、夕暮れ症候群の予防につながります。
認知症の進行が比較的緩やかで記憶力が保たれている人の場合、毎日同じ時間にそれらを継続すると生活リズムを整えられ、日内リズムの変動も改善して、夕暮れ症候群が起こりにくくなります。
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関根一真(せきね・かずま)
2008年北里大学医学部卒業後、日本鋼管病院呼吸器内科勤務。緩和ケアチーム、栄養サポートチーム(NST)、感染対策委員会、呼吸管理委員会の運営・回診に従事。16年から医療法人ゆうま会赤尾内科クリニック診療部長、19年からはアーチクリニック院長を務める。