2月28日、原発60年超運転へ「束ね法案」を閣議決定、老朽原発への不安は消えないまま。13日の原子力規制委員会臨時会は異例の多数決、発言詳報

関西電力の美浜原子力発電所。右手前から3号機、2号機、1号機(福井県) 政治・経済

原発60年超運転へ「束ね法案」を閣議決定…老朽原発への不安は消えないまま

原発60年超運転へ「束ね法案」を閣議決定…老朽原発への不安は消えないまま(東京新聞 2023年3月1日 06時00分)

政府は28日、原発の60年超運転を可能にする電気事業法改正案を含むエネルギー関連の五つの法案を「束ね法案」としてまとめて閣議決定し、国会に提出した。再生可能エネルギーの導入促進などを盛り込んだ法案と一括して審議される。原子力規制委員会の委員が法改正に反対したままの状態で、手続きを前に進める異例の事態となった。

規制委の石渡明委員は「安全側への改変とは言えず、法改正の必要はない」として反対を貫いている。岸田文雄首相は規制委内での意見が割れていることを踏まえ、国民に丁寧な説明を尽くすよう17日に関係閣僚に指示したばかり。閣議決定後の記者会見で、西村明宏環境相は「規制委が分かりやすい説明の準備を進めていると、報告を受けている」と述べた。

東京電力福島第一原発事故の教訓として導入された「原則40年、最長60年」とする現行の原発の運転期間の規定は、規制委が所管する原子炉等規制法から削除され、推進側の経済産業省が所管する電気事業法で改めて規定。再稼働に向けた審査や司法判断などで停止した期間を運転年数から除外し、60年超の運転ができるようにする。

◆再エネの活用法案とセット

束ね法案の中に入る再処理法改正案は、経産省の認可法人「使用済核燃料再処理機構」が全国の原発の廃炉作業を統括し、各電力会社が廃炉費用を機構に拠出することを義務づける。再生可能エネルギー特別措置法改正案には、再エネ活用に必要な送電網整備への支援強化が盛り込まれた。

原発の運転期間についての新制度は、新規制基準の審査で停止した期間が、60年を超えて運転できる期間に加算される。規制委の石渡明委員は「審査を厳格にすればするほど、将来より高経年化(老朽化)した炉を運転することになる」と指摘。経済産業省は、追加延長の期間をどれほど認めるのか詳しい説明をせず、老朽原発の運転リスクが増大する懸念は拭えない。

再稼働の審査を申請した16原発27基のうち、再稼働済みは6原発10基。ほかは審査が続いたり、自治体の地元同意が得られなかったりして停止が続く。基本的な事故対策の審査が終わらない7原発10基は、いずれも電力会社側の説明が不十分で難航している。

日本原子力発電敦賀2号機(福井県)は、2020年2月に地質データの書き換えが発覚し、実質的な審査が中断。昨年10月に再開するまで2年半以上かかった。審査期間が約9年7カ月と最長の北海道電力泊1、2、3号機(北海道)は、事故対策の前提となる地震や津波の想定を説明するためのデータ整備に手間取り、今も適合のめどはない。

28日の記者会見で、経産省資源エネルギー庁の遠藤量太・原子力政策課長は「明らかに電力会社側に責任があって停止している期間は、追加延長の期間には入れない」と説明。テロ対策の不備で規制委から事実上の運転禁止命令を受けている東京電力柏崎刈羽(新潟県)は、命令中の期間分は追加延長に加算しないとした。

しかし、電力会社側の能力不足で審査が長引くケースがどうなるかは不透明。原電自らがデータを書き換えた敦賀2号機も「ケース・バイ・ケースで判断する」と、追加延長の基準についてあいまいな説明に終始した。

新制度に移行後は、運転延長を経産相が認可。追加延長の期間をどれほど認めるかは、現時点では有識者などの第三者を入れず、経産省内で判断する見込みという。推進側の経産省に厳格な運用ができるかは見通せない。

◆「住民は事故が本当に心配」と撤回求める

政府が原発の60年超運転を可能にする法改正案を閣議決定した28日、五つの市民団体が国会内で記者会見し、老朽原発による事故リスクが増すとして、白紙撤回を求めた。

市民団体「原子力規制を監視する市民の会」の阪上武代表は「運転開始から60年を超えた原発の安全を確保できるというのは、原子力規制委員会のおごり」と批判。「60年超の審査は、具体的に決まっていない。ふわふわした議論しかできない中での政策転換は絶対に許してはならない」と語気を強めた。

オンライン参加した市民団体「原発反対刈羽村を守る会」の武本和幸代表は、昨年12月の新潟県内の大雪で、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の避難経路が1日以上通行止めになったことなどを挙げ、「周辺住民は事故が起きないか本当に心配。それなのに、国が原発の長期運転を後押しするのは信じられない」と憤った。

<発言詳報>原発運転60年超を容認した規制委で、各委員は何を語ったのか

<発言詳報>原発運転60年超を容認した規制委で、各委員は何を語ったのか(東京新聞 2023年2月15日 06時00分)

原発の60年超運転に向けた新たな規制制度を多数決で決定した13日の原子力規制委員会臨時会。約1時間半に及んだ会議は、制度変更に反対の石渡明委員と、ほかの4人の主張が平行線のまま終わった。主なやりとりは次の通り。

◆規制委の運転期間への関わりをめぐり石渡委員が口火を切る

13日午後6時半 臨時会を開始。事務局の法案説明の後、5人の委員の議論が始まった。「運転期間をどれくらい認めるかは、利用政策側(推進側)の判断で、規制委は意見を言わない」とする2020年の見解について、石渡明委員が疑問を投げかける。

石渡委員 特にこの「規制委が関わるべき事柄ではない」ということについて、当時によく議論をしてこれを決めたかというと、私はそうではなかったのではないかと思う。規制委全体の意思として確固として決定されたというものではないと考える。

山中伸介委員長 さまざまな場での意見交換も含めて議論されたことをまとめた見解だ。

田中知委員 十分に議論したかというと、少なかったかもしれないが、方向性としてはこれでいいのではないか。

杉山智之委員 単純な数字で何年までと決めるのが規制委のやり方にフィットしない。

伴信彦委員 科学的、技術的に何年が妥当とは一律に決められないという結論であり、趣旨は妥当。

石渡委員 これを根拠に40年ルールをなくしていいという根拠にはならない。

山中委員長 根本的に食い違ってきた。

◆問題点を次々に指摘する石渡委員

午後7時10分 議論はかみ合わないまま、話題は60年超の原発の審査手法が白紙であることに移る。

杉山委員 60年のときにやることは慎重にじっくり議論するべきだ。

山中委員長 現時点で、60年までは十分に評価できている。その次の期間も、ある程度は担保できる。

石渡委員 電力業界団体は、60年もたつと部品が調達できなくなると資料に記載している。実際にそういう障害が起きることは避けられない。同じような審査手法でいいのか。

杉山委員 古い設計のものをふるい落とす仕組みを設ける必要がある。

石渡委員 (首をかしげる)

午後7時半 政府方針の審査による停止期間を運転年数から除外する仕組みが話題に。委員間の規制に対する見解の相違が大きくなっていく。

杉山委員 審査で時間がかかる分、あとで取り返せると読める。しかし、何もしなくても劣化は進み、事業者が時間稼ぎをするメリットはない。

石渡委員 不備があって審査を中断した場合も運転期間が延びる。事業者の責任でそういうことになっても、延ばしていいよというのは非常におかしい。そういう制度になるならば、審査をしている側として耐えられない。

杉山委員 審査する側が、利用政策側がどういった期間をカウントするのかしないのかを考慮する必要はない。

山中委員長 規制制度と審査は別に考えないといけない。審査のタイミングは政策側の判断というのはこれまで通りの見解で、切り分けないといけない。

石渡委員 切り分けてという話だけど、審査を中断した期間も延長に加わる。原子力の安全にかかわる。時間がたてば劣化が進むのだから、切り分けるというのは…。

山中委員長 (石渡委員の発言に割って入る)そこに誤解がある。われわれがするのは運転期間の制限をかけるのではなく、ある期日が来たときに規制基準を満たしているかという安全規制をするのが任務。運転期間をどうのこうのというのをわれわれが科学技術的に判断するというのは、これまでの議論と違う。どうも、石渡委員と根本的に食い違っている。

石渡委員 経産省の案に書いてある通りを読んで、私自身はそうとしか理解できない。

◆「根本的に食い違っている」と繰り返した山中委員長

山中委員長 運転期間についての考え方は、委員会で決めた見解は納得できないというのが石渡委員のお考えか。

石渡委員 原則40年、最長60年の枠組みは変えないのが経産省の案。われわれが積極的に炉規法(原子炉等規制法)を変えにいく必要はない。

山中委員長 根本から意見が食い違っている。

杉山委員 経産省の案は事実上、(40年と)プラス20年ではないのが明らか。炉規法の規定をそのまま残すことは不可能だ。

石渡委員 私の考えはだいぶ述べたので、付け加えることはない。

午後7時40分 埋まらない溝が明確になり、山中委員長はまとめに入る。

山中委員長 石渡委員、炉規法は改正しないといけない。納得できないという意見でよろしいか。

石渡委員 炉規法は規制委が守るべき法律だ。科学的、技術的な理由、より安全側に変える理由ならば変えることにやぶさかではないが、今回はそのどちらでもない。

山中委員長 運転期間について、安全規制で考えるべきだというのが石渡先生のお考えで、根本的に食い違っている。その理解でいいか。

石渡委員 そうかもしれません。

◆賛成委員も「じっくり議論して進めるべき」「違和感」

午後7時44分 山中委員長が意を決したように多数決を宣言する。

山中委員長 石渡委員の心情は変わらない。あらためて賛否をうかがいたい。

田中委員 これでいいかと思う。

山中委員長 私も賛成したい。

杉山委員 この範囲では了承したい。ただ、説明が圧倒的に足りない。今からでも説明の資料は公表してほしい。われわれは外から定められた締め切りを守らなければいけないと、せかされて議論してきた。われわれは独立した機関なので、じっくり議論して進めるべき話だった。外のペースに巻き込まれずに議論するべきだった。

伴委員 合理的な変化であるという点で了承する。ただ、制度論ばかりが先行してしまって、60年超えの基準をどうするのか後回しになってふわっとしたまま、こういう形で決めないといけないことには違和感を覚える。

石渡委員 この改変は科学的、技術的な新知見に基づくものではない。安全側への改変とも言えない。審査を厳格にすればするほど、将来より高経年化(老朽化)した炉を運転することになる。こういったことにより、私はこの案には反対する。

午後7時48分 議論が最終盤を迎える。

山中委員長 残念ながら石渡委員のご賛同を得ることはできなかった。本日の賛否の結果をもって、委員会の決定としたい。その上で、反対の石渡委員にも今後の高経年化の規制の議論には参加してもらいたい。

石渡委員 もちろん委員ですので、参加させていただく。

杉山委員 ここで決を取って進んでしまっていいのかは疑問を感じる。ただ、石渡委員が今、納得できない事に対して、懸念がなくなるような基準の策定について議論していく。石渡委員のご意見をうかがい続ける。

山中委員長 石渡委員、今後ともよろしくお願いします。本日の委員会はこれで終了。

午後7時52分閉会