<社説>マイナカード 政府の強引さ目に余る(東京新聞 2023年2月20日 07時40分)
マイナンバーカードの用途拡大や普及を巡り、政府や一部自治体の取り組みに強引さが目立つ。賛否が分かれるカードの押し付けは制度に対する国民の不信を強めるだけだ。再考を促したい。
政府は、年金や児童手当の振込先として行政機関が把握する口座情報をマイナカードにひも付ける新制度を導入する方針だ。利用者が拒否しなければ、同意がなくても登録できる案が有力視される。
さらに社会保障と税、災害対策に限定した利用範囲を、国家資格更新や自動車登録、在留外国人関連の事務などにも拡大。政府が番号を扱う事務や照会の範囲も、法改正なしで広げられる仕組みに改めるという。いずれも今国会に提出を予定するマイナンバー法改正案に盛り込む。
ただ、口座のひも付け案は、個人の資産を行政が把握することへの国民の警戒感が強く、以前も断念した経緯がある。
利用範囲の拡大は情報漏えいに加え、利用者の知らないところで政府に勝手に名寄せされ、悪用される恐れも高める。
政府の個人情報保護委員会によると二〇一七〜二一年度の五年間で少なくとも三万五千人分のマイナンバー情報の漏えいなどが起きた。安全性に対する懸念や監視社会への不安が解消されていないにもかかわらず、利用範囲を強引に拡大するのは乱暴極まりない。
岡山県備前市は保育料や給食費などを無償とする対象を、新年度から家族全員がカードを取得した世帯に限定するという。教育の機会均等に抵触しかねず、住民らの反発は当然だ。
背景にはカード交付率を地方交付税算定に反映させる政府方針がある。自治体間の財政不均衡を調整する交付税を、特定政策の誘導に使うことは慎むべきである。
政府はカード取得者にポイントを付与する普及策を進めるが、取得率は一月末時点で約六割にとどまる。来年秋に現行の健康保険証を廃止し、カードに一本化する事実上の義務化も打ち出した。
そもそもカード取得は任意であり、強引な普及策は逆効果だ。
政府がカード普及を必要とするなら、用途や利用範囲の拡大などを強引に進めるのではなく、安全性をより高める制度設計に努め、国民の懸念を払拭することが先決ではないか。改正案の今国会提出は見送りを求めたい。