小池知事の無策により東京都は完全に医療崩壊 そのような中で、住民の命を守り抜く墨田区

墨田区役所 政治・経済

東京都では、今やコロナに感染しても病院で治療を受けることができない。重症化しても受け入れてくれる病院が見つからない。患者は自宅に放置されたまま。このような事態を招いた原因は、政府と東京都に国民・都民の命を何としても守るという執念と知恵が欠落しているからだ。

そのような東京都で、住民のコロナから住民の命を守りぬく自治体がある。墨田区だ。以下は、現代ビジネスからの転載。

東京都では「自宅療養者のフォロー」も崩壊…そのウラで際立つ「墨田区の凄まじい戦略」(山岡 淳一郎・ノンフィクション作家 現代ビジネス 2021.08.12)

酸素飽和度80%でも、入院できず

第五波のデルタ株の蔓延で、東京都のコロナ患者の受け皿は底が抜けた。都は約6000床の病床を確保しているが、即応できるのは半分ばかり。自宅療養者が2万人ちかくに膨張している。感染者を病院や宿泊療養ホテルに振り分ける保健所の職員は、患者の自宅放置状態をこう語る。

「先月下旬から都の入院調整本部に患者さんの入院先を求めても、38℃以上の高熱だけでは無理。重大な基礎疾患、それも大学病院や公立病院を定期受診して病歴がはっきりしていないと難しい。

先日は、血中の酸素飽和度80%の方の入院を調整本部に委ねたけど、10病院で拒否されました。まだか、まだかと催促している間に本人が救急車を呼んだ。酸素飽和度は、なんと60%まで下がっていた。救急隊が大慌てでやっと大学病院に搬送できたんです」

酸素飽和度が80%を切れば生命の危機状況といわれる。60%なら意識障害の怖れがあるという。それほど悪化してもまともに入院できない状態がずっと続いているのだ。

しかし、医療を統括する東京都幹部の対応は愚かしい。とうに病床が逼迫していた7月27日、都庁の吉村憲彦福祉保健局長は、メディアへの説明会で「30代以下は重症化率が極めて低く、100人いたら、せいぜい十数人しか入院しない」と語り、こう言い放った。

「いたずらに不安をあおることはしていただきたくない」

言いも言ったりだ。これでは「まだ大丈夫」と受けとめられても仕方ないだろう。

自宅に「放置」される人たち

増え続ける自宅療養者に対し、小池百合子都知事は支援を口にする。

確かに都は「自宅療養者フォローアップセンター(FUC)」を設けている。「65歳未満で、基礎疾患がなく、重症化のリスクが低い」など一定の条件を満たした自宅療養者に、(1)LINEまたは電話による毎日の健康観察、(2)自宅療養中に必要な食料品の配送、(3)(酸素飽和度を計る) パルスオキシメーターの配布などの支援を行うと掲げている。

しかし、前述の保健所職員は、その実態をこう述べる。

「FUCは対象の自宅療養者が2000人を超えて、ほぼパンクしました。連絡がとれない、パルスオキシメーターも食べ物もこない。それでとうとう7月27日以降、都は支援する自宅療養者を30歳未満に絞っちゃった。30代~50代の面倒はみません。年齢が上がるほど重症化のリスクが高くなるからでしょう。同居者がいる人も対象外。それが実態ですよ」

第五波の感染対策のポイントは、ワクチン接種が進んでいない40代、50代の重症化をどう防ぐかだ。小池知事は、働き盛り世代へのワクチン接種をさかんに呼びかけるが、国のワクチン配分のミスもあり、自治体の接種は低調だ。

産経新聞の23区への聞き取り調査(8月7日配信)によれば、年代別接種率を公表した18区のうち14区が、50代の初回接種率が5割に届かない。日本最大の繁華街、歌舞伎町が立地する新宿区は、40~50代通して24・4%。特別区で最多の人口約94万人を抱える世田谷区は、60歳以上は81・5%だが、50代26%、40代は16%にとどまる。

もはや、自分の命は自分で守るしかないのか。

ところが、である。都も区も総崩れのような状況で、異彩を放つ自治体がある。墨田区だ。

墨田区のスゴさ

墨田区は、50代のワクチン接種率が65・1%、40代が58・3%と他区を大きく引き離す。さらに自宅療養の割合が増えている現段階においては、自宅療養者への医師+看護師の訪問診療やオンラインの健康観察、軽症で重症化リスクの高い患者への抗体カクテル療法、区独自の優先病床20床を活用した中等症患者の治療と回復後の自宅への下り搬送と、「地域完結型」のコロナ戦略を打ち立てている。

人口27万人の墨田区では、都立墨東記念病院(765床) が感染症指定病院として重症、中等症の患者を引き受けている。そのほかは同愛記念病院(403床)と200床以下の小さな病院が幾つかあるだけで大学病院はなく、町場の診療所が地域の医療の担い手だ。けっして医療資源が豊かとはいえない墨田区が、どうして先駆的なシステムを築けたのか。

じつは、墨田区の独行の始まりは、厚生労働省や専門家会議(現・コロナ対策分科会)がPCR検査を抑制していた昨春にさかのぼる。連日、墨田区保健所には区民から「熱があるので検査をしてほしい」と電話が入った。

大多数の自治体はキャパシティ不足を理由に検査を断っていたが、新任の保健所長、西塚至氏「必要な検査はすべてやろう」と職員を鼓舞。自前の検査施設を立ち上げ、保健所の医師自ら検体を採取した。西塚氏は、PCR検査の拡大に踏み切った医学的背景を、こう語る。

「新型コロナ感染症では感染者に症状が出る前からウイルスが体外に出ており、かつ症状の強い人ほど多くのウイルスを体外に出すわけでもない。SARS(重症急性呼吸器症候群)やインフルエンザのように、発熱した人から感染源をたどっていくことはできないということを、武漢からのチャーター帰国便の感染者や、横浜に入ったクルーズ船の感染者を数多く診療した墨東病院の医師から聞いていました。従来の常識は通用しない。無症状の人までPCR検査を広げないと感染者を特定できないとわかったのです」

墨田区は、保健所に最新鋭の検査機器を導入し、民間検査会社を誘致して検査のキャパを拡大。クラスターが発生すれば「ローラー作戦」と呼ぶ大規模検査を実施し、陽性者を隔離する。

その一方で、西塚氏は区内の医師会、診療所と病院の責任者が参加するウェブ会議を立ち上げ、行政と医療機関との連携を図った。

昨年暮れから今年初めにかけての第三波では、ウェブ会議で病院間の情報を共有し、回復した高齢患者を地域の七つの病院が受け入れる「下り搬送」のしくみを機能させる。墨東病院で回復した患者は、次々と地域の病院に送られ、病床の逼迫が解消された。

保健所を大増員

こうした積み重ねの先に、第五波の現役世代対応型の医療システムが構築されている。西塚氏は、その基本的な考え方を、こう説く。

「公衆衛生(パブリックヘルス)を担う保健所の役割は、インテリジェンス(情報分析)とロジスティクス(兵站)です。住民の心と体の健康を守るために地域に何が足りないか。資源はどれぐらいあるか分析し、先を読んで人やモノを調達する。検査能力が足りなければ自分でつくればいい。住民ニーズは高いのです」

当初、10人だった墨田区保健所のマンパワーは、人材派遣会社からの保健師(看護師)や区役所の他の部署からの応援を含めて約100人に拡大している。西塚氏らは、今年5月、第四波で医療崩壊に見舞われた神戸市から医師を招いてウェブ会議で話を聞き、明日はわが身と病床の拡充に乗り出した。

もともと墨田区には四つの「入院重点医療機関」があり、そのなかの一つに区独自に運用できるコロナ病床を13床確保していた。軽症者用の病床だったが、この墨田区優先枠を一挙に60床ちかくまで拡張するよう病院に要請した。

病院側は、これに応じ、7月初旬から墨田区優先病床が稼働する。さらに60床のうちの30床を中等症対応にグレードアップ。そのうち20床が墨田区優先の中等症病床とされた。酸素投与やステロイドが使えるようにして8月上旬から中等症患者を受け入れている。

オンライン診療も軌道に乗った

並行して、自宅療養者への医師と訪問看護ステーションの看護師の往診、オンライン診療による見守りを軌道に乗せた。8月6日時点で、墨田区には自宅療養413人、入院60人、宿泊療養126人の感染者がいる。全体の約7割が自宅療養だ。西塚氏は、自宅療養と墨田区優先病床の連携について、こう語る。

「今回の波は、若くて軽症の患者さんが多いのですが、頭が痛い、お腹が痛い、薬が効かない、食べられないという自覚症状で重症だと思い、病院に行く、救急車を呼ぶ。つまり患者さんの不安が病床逼迫の大きな要因の一つなのです。その不安を減らし、安心の灯をどれだけ見せられるかが勝負です。だから往診やオンライン診療でひんぱんに連絡を取って、軽症の説明をし、治療をして落ち着いていただく。

そして、もしも症状が悪化して中等症になったら、区の優先病床に入っていただく。ただ、この病床は区民共有の医療資源ですから、回復したら休日でも夜間でも、退院していただき、ベッドを空けて、次の方が入れるようにする。10日間の療養期間中であれば民間救急車で自宅までお送りします。

できるだけ軽症のうちに重症化の芽を摘む。そのために抗体カクテル療法も行っています

条件に合う人を見つけて療法を実施

海外の治験で入院・死亡リスクが約70%減らせるという抗体カクテル療法、まれにインフュージョンリアクション(急性輸液反応)というアナフィラキシーショックに似た副反応も起きることから、国は登録した医療機関への入院で、発症から7日以内などの条件をつけて使用を認めている。

墨田区では四つの入院重点医療機関が登録。軽症でも抗体カクテル療法の条件に合う人がいれば、区の優先病床で実施する。同愛記念病院では、7月下旬から8月10日までに16人の患者が抗体カクテル療法の点滴治療を受けている。

「区内の全症例を把握しているのは保健所ですから、重症化リスクがあって、比較的反応のよさそうな若い患者さんに抗体カクテル療法を受けていただいています。お金があろうが権力を握っていようが関係ない。公正に重症化しやすい方を見つけて、区の病床に入っていただく。いよいよ病床が足りなくなった場合に備えて、酸素濃縮装置を確保して、24時間対応で医師が往診し、ステロイド剤も在宅で投与していただく態勢をとっています」

墨田区の独行がまぶしく見えるのは、国や都の戦略があまりに貧相だからだろう。住民の目線で、不安を減らし、安心の灯を掲げる。本来は国や都の役割ではないか。