ついに「黒田バズーカ」炸裂!日銀「大転換」でゾンビ企業とマンション住民を襲う「借金地獄」の厳しすぎる現実(マネー現代 2022.12.26)
中原圭介 経済アナリスト
「大破綻時代」が始まった・・・
2022年12月20日、日銀がこれまで10年近く続けた大規模な金融緩和を修正するという一歩を踏み出しました。
長期金利の変動許容幅を従来の0.25%から0.5%に拡大するというのです。これは事実上の利上げ、ひいては事実上の金融引き締めとなります。
日銀は長期金利の上限を0.25%に定め、市場取引で0.25%を超えそうになると国債を無制限に買い入れる指値オペで抑え込んできました。
それが突然、長期金利の上限を0.5%まで引き上げるというのは、足元の物価上昇率が3%台まで上昇し家計の負担が高まっているのに加えて、このままでは海外投資家による国債の売り崩しを抑えきれないと判断したためでしょう。
これによって、日本は厳しい時代を迎えることになりました。
膨張した「ゼロゼロ融資」の悲惨な末路
長期金利の上昇でまず懸念されるのは、企業の資金繰りのさらなる悪化です。
今年の秋口から円安による物価高を契機に、「ゼロゼロ融資」を受けている企業の倒産が増え始めていましたが、日銀の利上げによってその増加傾向にいっそう拍車がかかるという予測が新たに浮上しているのです。
「ゼロゼロ融資」とは実質無利子・無担保融資のことで、コロナ禍で売上高が減少した企業を支援するために政府主導で2020年3月から始まりました。元金の返済を最長で5年まで猶予するうえに、各都道府県が最初の3年分の利子を補給することで利払いを実質的に免除、将来返済が困難になれば公的機関の信用保証協会が肩代わりするという、至れり尽くせりの融資だったのです。
その結果として、民間および政府系の金融機関は企業に対して、22年9月末までに43兆円もの融資を行いました。
しかし、その新規融資が2022年末で終了したあと、2023年から返済を開始しなければならない企業が激増するという事態が待ち構えています。
企業の負債が歴史的な高水準にまで増えている局面で、足元では円安・物価高が重なり再建を断念する倒産が目立っていたものの、さらにゼロゼロ融資の返済時期が近づいたことで再建を断念するケースが増えることは避けられそうにありません。
そのうえで、日銀の金融引き締めで多少でも金利負担が増すことによって、断念型の倒産・廃業の件数が必要以上に膨らむ可能性が高まっていくと考えられます。
16万社に上る「ゾンビ企業」
倒産・廃業件数が大幅に増加する背景には、金融機関のモラルハザードも関係しています。
ゼロゼロ融資を貸し手がノーリスクで融資できる制度にしたことで、規模の小さい金融機関では不正な融資が横行していたのです。その典型的な手口が、ゼロゼロ融資を受けられるようにするために企業の業績を改ざんするという手口です。
不正な融資の他にも、必要のない資金の貸し付けを行っていた金融機関があることも明るみになっています。罰せられるほどの不正ではないとはいえ、金利収入を稼ぐためにモラルハザードが起こっていたというわけです。
今のところ、不正融資や必要以上の貸し付けは第二地方銀行、信用金庫、信用組合などで表面化していますが、倒産・廃業が増加する中で、こういった問題は倒産・廃業の一因としてクローズアップされてくるのかもしれません。
たしかに、ゼロゼロ融資によって倒産・廃業の増加を一時的に食い止めることができました。ところがその帰結として、返済できない規模の負債を抱えるゾンビ企業を大量に生み出したという副作用は認めざるをえないでしょう。
帝国データバンクの2020年度の統計によれば、日本にはゾンビ企業が16.5万社、全体に占める割合は11%にのぼるといいます。
コロナ禍に行われたゼロゼロ融資によって、ゾンビ企業の割合はこれ以上に高まっているはずです。これから返済が始まるタイミングで日銀の利上げが重なるインパクトは非常に大きく、2023年には倒産・廃業の増加傾向が強まっていくのではないかと危惧しているところです。
「住宅ローン」にひそむ最悪の時限爆弾
長期金利の上昇で次に懸念されるのは、住宅ローン金利の負担増加です。
日銀の資金循環統計によれば、住宅ローンの融資残高は2022年6月末に220兆円を超えたということです。その増加傾向は特にマイナス金利が導入された2016年以降に強まり、過去10年間では40兆円ほど増えたといいます。
住宅ローンの融資残高が過去最大の規模に膨らむ中で、もともと住宅ローンの固定金利は米国の利上げのあおりを受けてすでに上昇傾向にありました。これが日銀の利上げによって、固定金利の上昇幅は2023年1月以降、さらに高まることが既定路線となっているようです。
これに対して長期金利の影響は受けない変動金利への影響は、限定的だとみられています。今のところ幸運なことに、日本の住宅ローンでは変動金利を選ぶ人が8割を超えています。ただし日銀が金融政策を大転換した流れの中で、2023年にもマイナス金利をやめるとみられており、そうなれば短期金利の上昇に連動して変動金利も上昇することになるでしょう。
変動金利が0.1%上昇するごとに国内全体で利息負担が約1000億円程度増えるという試算もあります。変動金利を選ぶ人ほど、住宅価格に対して高額なローンを組み、年収に対する融資額の倍率が高い傾向が強いので、0.1%や0.2%の変動金利の上昇でも家計には重い負担となります。
コロナ禍の約2年あまりでローンの返済猶予などを受けた件数は、全国で優に10万件を超えています。
超低金利があまりに長かったせいか、やはり規模の小さい金融機関では返済計画が緩い融資が数多く、金利上昇といった状況に脆弱な家計も少なくありません。
そういった意味では、今後は住宅ローンの破産予備軍が増えていくことも予測されます。
黒田緩和のウラで力を失った日本の末路
その一方で、日銀の金融引き締めにはメリットもあります。
行き過ぎた円安が修正されることで輸入インフレの鎮静化が進み、国内の物価を押し下げることになるからです。これは、大きな借金がない家計にとって負担の軽減につながります。
しかし、日銀の金融政策の大転換が「膨張したゼロゼロ融資」や「膨張した住宅ローン」にもたらす長期的なリスク、すなわち、企業の倒産・廃業や住宅ローン破産の増加傾向が続くことを考えると、デメリットのほうが大きいと思われます。
さらに深刻なことに、長期的には国債の利払い負担の増加も危惧されます。
目下のところ、国債の残高は1000兆円規模にまで膨らんでいます。
仮に長期金利が0.1%上昇すれば、国債の利払いが毎年1兆円も増えます。今回の変更のように長期金利が0.25%から0.5%まで上昇すれば、毎年2.5兆円の負担が増える計算になるというわけです。
当然のことながら、利払いは借り換えの段階で徐々に増えていくので、1年や2年で増えるのではなく、7~8年以上かけて増えるいくことになります。
しかしそうはいっても、政府は大規模金融緩和を利用して財政支出を野放図に増やし続けたため、長期的にみて日本は金利上昇に耐えられない財政になってしまいました。
大きな問題なのは、今後の長期金利が0.5%で収まるわけがないということです。そういった意味では、「長期金利1.0%、利払い10兆円」といった時代が来るかもしれません。
日銀の長すぎた超金融緩和の後始末は、今後長期にわたって続きます。
日本は今後、厳しい道のりを辿ることになるでしょう。
さらに連載記事『日本、じつは「先進国で断トツ最下位」に…! 日本人は知らない「ヤバすぎる日本経済」の真実』では、さらに深刻な問題を抱える日本経済の現実を詳しくレポートとする。
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中原 圭介 経済アナリスト
1970年、茨城県生まれ。慶應義塾大学卒業後、金融機関や官公庁を経て、現在は経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員、「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。著書、連載多数。