来年は円高相場か、米利上げ停止や景気後退…日銀政策転換で120円超も

来年は円高相場か、米利上げ停止や景気後退-日銀政策転換で120円超も 政治・経済

来年は円高相場か、米利上げ停止や景気後退…日銀政策転換で120円超も(Bloomberg 2022年12月26日 7:30 JST)

◆来年9月ごろには米利下げ開始の可能性も・・野村証の後藤氏
◆日銀の次の一手、YCC撤廃かマイナス金利解消か・・三菱UFJ銀

2023年の円相場は、記録的な円安となった22年から一転、対ドルで円高が進みそうだ。市場関係者は米国のインフレピークアウトと利上げ停止、景気後退がドル安圧力となるとみている。さらに日本銀行による追加的な政策変更が鍵となり1ドル=120円前後までの円高も見込まれている。

しんきんアセットマネジメント投信の加藤純チーフマーケットアナリストは、来年は米国の物価や景気動向、利上げ打ち止めや利下げのタイミングなどを手掛かりに「ドル安が主導」し、円が上昇するだろうと予想。日銀総裁が交代するタイミングに絡めて、金融政策の正常化への思惑から円高圧力が強まり、年前半にも120円を試すとみている。仮に踏み込んだ政策変更があった場合には、120円を超える円高もありそうだという。

米国経済について野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、景気悪化を受けて賃金やその他サービスのインフレも落ち着いてくるだろうとし「米連邦準備制度理事会(FRB)のピボット(政策転換)が1ー3月中にはより明確になる上、9月くらいに利下げ開始の可能性は十分にある」とみている。

また、T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジストは、「在庫循環のサイクルから6月がターニングポイントで、ここから若干景気後退に入る可能性がある」と読み、112円までの円高を予想した。

今年の円相場は記録ずくめだった。米国の積極的な連続利上げを背景に春以降、ほぼ一本調子で下落し、10月には151円95銭と1990年以来、32年ぶり安値を記録。年初からの下落率は一時、73年からの変動相場制への移行後で最大となった。また、急激な円安進行を受け、政府・日銀は24年ぶりに為替介入を実施。9月から10月にかけて円買い介入としては過去最大の資金を投じた。

歴史的な円安の2022年から円高の23年に(図表)

来年最大のジョーカーは日銀か

来年の相場を占う上で大きなポイントとなるのが、日銀の金融政策だ。12月のイールドカーブコントロール(YCC)政策の一部修正を受けて、海外投資家の間では日銀が超緩和的政策から脱却するとの観測が台頭しており、場合によっては120円を超える円高となる可能性が意識されている。

三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリストは、今回の修正は正常化の始めの一歩だとした上で「次の一手はいつ何をするかが焦点になる」と指摘。具体的にはフォワードガイダンスの修正やYCC政策の撤廃、マイナス金利の解消などが想定され、タイミングも米国の景気後退より前に動きたいのではないかとみている。

一方、来年の日銀の金融政策について三井住友海上火災保険投資部投資第一チームの小島正慶上席マーケットストラテジストは、基本的には米景気後退リスクから変更しづらいのではないかとみる。仮に日銀に次の一手があるとすれば4月新体制が発足後の7月や9月がタイミングで、「長めの金利目標を5年で0%を中心のレンジに変更する」と予想。この場合には「120円まで円高が進む可能性もあるだろう」と述べた。 

円安要因は引き続き残る

構造的な円安要因も依然として残っている。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、「ドルは下がるかもしれないが、円安は終わったかというと全く終わっていない」と指摘。同氏によれば、日本の貿易赤字は内需の回復と外需の落ち込みにより来年も拡大する見込みで「むしろ来年の方が円安がひどくなるのではないか」と予想した。

さらに今秋以降、顕著に拡大し始めた内外短期金利差を受け、株価がボトムアウトしボラティリティーが下がってくれば、円を借りて高金利通貨で運用する「円キャリートレードが始まる」と佐々木氏は読む。三菱UFJ銀の井野氏も「絶対的な金利差はあり、円高進行の歯止めにはなる。円高圧力は若干マイルドになりそうだ」と指摘している。

中国の経済再開はかく乱要因に

中国当局の政策転換が円相場を左右する一因になる可能性もある。野村証の後藤氏は、「3月中国全国人民代表大会(全人代)で冬場も明けたところで、ゼロコロナ政策が完全解除に向かうと旅行者の回復などを通じて、タイバーツや韓国ウォン、円などアジア通貨にプラスに働きやすい」とみる。

一方、三井住友海上火災の小島氏は「中国の経済再開と不動産規制の緩和はインフレに作用する」と指摘。早期に政策転換が起きた場合、米利上げ最終到達地点が上がる可能性があるほか、世界的な総需要増加から米景気が持ち直す可能性もあり、円の下値余地が広がるリスクがあると述べた。

市場関係者の2023年円相場見通し

  23年予想レンジ   23年末の予想価格 
JPモルガン・佐々木氏130円~145円133円
野村証・後藤氏120円~140円125円
三菱UFJ銀・井野氏120円~142円123円
三井住友海上・小島氏123円~140円125円
T&Dアセット・浪岡氏112円~140円112円
しんきんアセット・加藤氏120円~140円125円