自民党は改憲案について本音を隠している 「国民主権」から「権力者主権」へ、「必要」ならばどこへでも出兵する自衛隊

自民党改憲草案は「国民主権」から「兼職者主権」 政治・経済

自民党は改憲案について正直に語るべきだ 嘘をついてもいずれ隠し切れない(日刊ゲンダイ 公開日:2022/07/16 06:00 更新日:2022/07/16 06:00)

改憲論議がいよいよ具体的に動き始める今だからこそ、一番の権限と責任のある自民党に対して改めて言っておきたいことがある。つまり、「改憲案について『正直に』語るべきだ」と。

自民党の改憲草案(2012年)は、「国民主権」ではなく「権力者主権」

自民党は、ホームページでも広報資料でも改憲推進集会の挨拶でも、必ず、「『国民主権』『人権尊重』『平和主義』の、現行憲法の三原則は堅持する」と前置きをする。しかし、そのうえで自民党が提案している改憲案は、この三原則に明らかに反している。

現行憲法99条は、主権者国民の最高意思である憲法を政治家等の公務員(つまり権力者)が尊重擁護することを命じている。「国民主権」である。ところが、自民党が2012年に党議決定した改憲草案102条には真逆なことが書かれている。1項で国民に憲法を尊重することを命じ、2項で政治家等の公務員にその憲法を擁護することを命じている。つまり、国民が憲法を尊重するように政治家等の公務員が監視・管理する仕組みになっている。これでは紛れもなく「権力者主権」である。

国民に「日の丸」尊重を命じる

現行憲法の下では、日の丸を好むか否かは各自の良心の自由(19条に明記された人権)である。しかし、自民党草案3条は、国民に日の丸を尊重することを命じている。

「必要」ならばどこへでも出兵する自衛隊

2018年に党議決定された自民党の「自衛隊」明記案は、「『必要な』自衛のために自衛隊を保持する」となっている。これは、これまで政府・自民党が一貫して『必要・最小限』と説明してきた自衛(隊)から『最小限の(だから海外派兵はできない)』という制限を外す案である。つまり、自国が侵略された時にだけ自国領域と周辺で自衛隊を用いて防衛するという謙抑的な防衛政策(平和主義)を貫いてきた日本が、「必要」ならばどこへでも出兵するという普通の軍事大国に変わることを意味する。

私はこれまで何回もこの点を指摘したが、明確な答えは返ってこなかった。しかも、今では、2018年に党議決定された「改憲四項目」(その①が「自衛隊」加憲である)は自民党のホームページで見ることができない。しかし、最高法の改正である以上、いずれ公論に決する際には隠し通せないものである。

小林節 慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)