少子化対策の首相会見「若い方々の所得を向上させる」 問題解決の覚悟が見えぬ

記者会見する岸田文雄首相=17日午後、首相官邸 政治・経済

<社説>少子化対策の首相会見 問題解決の覚悟が見えぬ…毎日新聞

少子化対策の首相会見 問題解決の覚悟が見えぬ(毎日新聞 2023/3/19)

政策の優先順位が猫の目のように変わる。これで、安心して子どもを産み育てられる社会の実現につながるのだろうか。

岸田文雄首相が子育て支援と少子化対策について記者会見した。

柱として掲げたのは、若い世代の所得増、社会全体の構造・意識改革、全ての子育て世帯への切れ目のない支援の三つである。

しかし、首相が年頭会見で「異次元の少子化対策」の目玉として打ち出した児童手当の拡充については、具体像を示せなかった。これでは、問題に正面から向き合う覚悟は見えない。

新たな3本柱は、いずれも踏み込み不足が否めない。

若者の所得を増やすため、一定の年収を超えたら社会保険料などの負担が増す「年収の壁」を取り除くという。パートや非正規で働く人が、配偶者の扶養から外れても手取りが減らないよう、国が施策を講じる。

しかし、若い世代の不安に応えているとは言えない。少子化の背景には、非正規労働者の不安定な雇用の問題がある。求められているのは正規との格差是正など、就労のあり方の抜本的な見直しだ。

男性の育児休業取得率については「2025年に30%」だった目標を50%に引き上げる。現状では14%で、8割を超える女性に比べ極端に低い。

取得促進のため、育休中の手取りが現在の約8割から一定期間、10割になるよう給付率を引き上げる。人手に余裕のない中小企業でも取りやすくなるよう支援する。ただ、企業任せにならないような仕組みが必要だ。

自営業者などは育休制度の対象となっていない。これらの人向けに新たな措置を導入するというが、安心して子育てできる環境の整備につながるかは不透明だ。

このほか多子世帯への支援、高等教育費の負担軽減、子育て世帯への住宅支援などメニューを列挙した。いずれも制度設計はあいまいで財源の裏付けも欠いている。

少子化に歯止めをかけるのに残された時間は少ない。「30年代に入るまでがラストチャンス」と首相は力説する。そうであれば、どんな境遇にあっても望む人が子どもを持てるよう、大胆な政策を実行する責任がある。

首相記者会見要旨 少子化対策「社会全体の意識や構造を変える」

首相記者会見要旨 少子化対策「社会全体の意識や構造を変える」(産経新聞 2023/3/17 21:25)

岸田文雄首相は17日、重要課題に掲げる少子化対策について首相官邸で記者会見を開き、「これから6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」と訴えた。対策の基本理念として、若い世代の所得増などを打ち出した。記者会見の要旨は次の通り。

【冒頭発言】

2022(令和4)年の出生数は過去最少の79万9700人となった。わずか5年間で20万人近くも減少している。2030年代に入ると若年人口は、現在の倍の速さで急速に減少することになり、わが国の経済社会は縮小し、社会保障制度や地域社会の維持が難しくなる。これから、6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ。この国難にあたって、社会全体の意識や構造を変えていく次元の異なる少子化対策を岸田(文雄)政権の最重要課題として実現していく。

現在、小倉将信こども政策担当相のもとで子供政策の強化について、今月末をめどに具体的なたたき台を取りまとめるべく検討が進められている。これに先立ち、少子化対策の基本理念と方向性を話したい。

基本理念は第1に、若い世代の所得を増やすこと、第2に、社会全体の構造や意識を変えること、そして第3に、全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援することだ。

少子化の背景として、未婚率の増加があり、その原因の一つとして若い世代の経済力が挙げられる。若い世代の所得向上に、子育て政策の範疇を越えて大きな社会経済政策として取り組む。

短時間労働者への被用者保険の適用拡大や最低賃金の引き上げに取り組む。加えて、106万円、130万円の壁について、被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援を導入し、さらに制度の見直しに取り組む。

3月末をめどに取りまとめるたたき台の第1の柱として、子育て世帯に対する経済的支援の強化を行う。兄弟姉妹の多い家庭の負担や高等教育における教育負担なども踏まえて、児童手当の拡充、高等教育費の負担軽減、若い子育て世帯への住居支援など包括的な支援策を講じる。

第2は、社会全体の構造や意識を変える。現状、低水準にとどまっている男性の育児休業取得率の政府目標を大幅に引き上げて、2025(令和7)年度に50%、2030(同12)年度に85%にする。目標達成を促すため、企業ごとの取り組み状況の開示を進める。

育休制度自体も充実させる。産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を、手取り10割に引き上げる。非正規に加え、フリーランス、自営業者の方々にも育児に伴う収入減少リスクに対応した新たな経済的支援を創設する。

第3は、全ての子育て世帯を切れ目なく支援する総合的な制度体系を構築する。幼児教育、保育サービスについて、量質両面からの強化を図る。これまで比較的、支援が手薄だった妊娠・出産時から0~2歳の支援を強化し、妊娠、出産、育児を通じて全ての子育て家庭のさまざまな困難、悩みに応えられる伴走型支援を強化する。

4月1日には、日本の省庁の歴史で初めて子供を名称に冠する「こども家庭庁」が発足する。国民の声を引き続き伺いながら、私が指導する体制のもとで必要な政策強化の内容、予算、財源について、さらに議論を深め、6月の(経済財政運営の指針)「骨太の方針」までに将来的な子供予算倍増に向けた大枠を示す。

【質疑応答】

--子供予算の倍増を掲げているが、何を基準に、いつまでに行うのか

「政策の中身を詰めなければ倍増の基準や時期を申し上げることは適当ではない」

--教育国債を検討すべきだとの意見もある

「安定財源の確保、財源の信認確保の観点から慎重に検討する必要がある」