参院選 東京選挙区5人はもう当選確実!6人目で《山本太郎》《小池チルドレン》《維新》の激突(小倉健一・イトモス研究所所長 現代ビジネス 2022.06.11)
自民2、立憲1、共産、公明は確定か
7月10日に投開票が行われるとされる参院選挙が近づいてきた。東京選挙区では、たくさんの有力候補が出馬を表明し、混沌としてきている。そんな中、自民党が4月、5月、6月の3回にわたって実施したとされる情勢調査の内容が流出している。
今回、この情勢調査をもとに、全国でも一番の激戦区の行方を占っていきたい。
東京選挙区の定数は6。6月3日から5日にかけて行われた情勢調査の数字を、候補者の順で並べると以下の通りとなる。カッコ内には4月と5月の結果を入れた。
1位 朝日健太郎(自民) 15.4%(4月 16.4%/5月 15.1%)
2位 蓮舫(立憲) 13.8%(4月 17.2%/5月 15.8%)
3位 山添拓(共産) 11.1%(4月 12.4%/5月 11.7%)
4位 生稲晃子(自民) 10.9%(4月 8.9%/5月 9.0%)
5位 竹谷とし子(公明) 9.0%(4月 9.0%/5月 8.5%)
6位 山本太郎(れいわ) 5.4%(4月 1.9%/5月 1.7%)
7位 海老沢由紀(維新) 5.1%(4月6.9%/5月5.0%)
8位 荒木千陽(都民ファ) 4.8%(4月4.5%/5月5.2%)
9位 松尾明弘(立憲) 4.0%(4月4.1%/5月3.5%)
5月調査の時点では6位に維新の海老沢がいたが、今回の調査で山本太郎に抜かれた。ただし6位から8位は横一線といってもいい。1位から5位まではほぼ当確とみられる所以だ。
自民の2人は「反主流派」
以下、細かく情勢を見ていこう。
まず、自民党だ。岸田政権の高い支持率に支えられながら、朝日健太郎(1位)、生稲晃子(4位)ともに当選が確実な情勢だ。
朝日は、昨年の総裁選で、河野太郎を応援している。つまり、岸田文雄首相がもっとも嫌う「菅グループ」である。対する生稲は、安倍派の萩生田光一が支援をしている。全国紙政治部記者は、自民党の2候補、朝日・生稲についてこう解説した。
「6年前の選挙では、無党派層を朝日健太郎が、組織票は中川雅治が固めるということで棲み分けをした。今回、中川の引退にともなう後任が生稲となり、組織票は全部生稲が持っていくことになり、朝日は窮地に立たされた。
まして朝日は河野を総裁選で支援したために、岸田首相からも、安倍派からも支援を受けられなくなってしまった。
ところが情勢調査を見ると、朝日がぶっちぎっている。これに安堵した自民党都連は、選挙日まで生稲に徹底的な組織固めを行う。生稲も当選できるのではないだろうか」
面白いのは、朝日も生稲も、ともに岸田首相を支える主流派の派閥ではないことだろう。この二人が当選しても、岸田首相の長期政権を支える勢力にはならない。逆に、2人を無事当選させれば、都連内での萩生田の求心力が高まる結果になりそうだ。
次に、立憲。蓮舫(2位)ともう一人の候補・松尾明弘(9位)だ。投票日に近づくにつれて、蓮舫の数字は日々悪化していっているものの、このままのペースで支持が落ち続けても当選が確実な情勢だ。立民の持つ組織票をすべて流すことに成功すれば、松尾も当選圏内に入る可能性はあるが、今のところは厳しいと言わざるを得ない状況だ。
山本太郎が一応は有力だが
共産党の山添拓(3位)、公明党の竹谷とし子(5位)は当選が確実だ。過去の参院選東京の最低当選ラインは、50万票を超えたところにある。両党の支持の有権者は、優に50万票は超えているので、何があっても盤石、大丈夫ということだ。
両党は、今頃、お隣・神奈川など、両党にとっての激戦区に全勢力を傾けていることだろう。選挙前に両党の支援者や支持母体から電話がかかってくることもあるだろうが「東京は余裕だから、私が入れなくても大丈夫だよ」と諭しておけば良いと思われる。
さて、ここまで、情勢調査をもとに朝日、生稲、蓮舫、公明、共産の5人が当選圏内にいることをお伝えした。東京選挙区のイスは全部で6席。残りはたった一つだ。その1議席に飛び込むのは一体誰なのか。
今回、台風の目となっているのが、れいわ新撰組の山本太郎(6位)だ。昨年の衆院選比例東京でれいわは、約36万票しか獲得していなかった。
先ほども述べたが、参院東京選挙区は50万票が必要なのだ。その結果、当然下馬評も低く、無謀な挑戦に思われたが、自民党の情勢調査では、当落のボーダーにいる。5月調査から一気に数字を伸ばした。
もし私が共産党の幹部で、これからも政策的に共鳴し合う山本太郎の力が国会に必要だと思うなら、余裕のある10万票を山本に融通するだろう。山本を殺すも生かすも共産党にかかっているといっていい。野党共闘の真価が問われると言っていいだろう。「ボーダーラインにいる山本を当選させることができないで、何が野党共闘だ」と、真の共産党支持者こそ、立ち上がるべきなのではないのだろうか。
山本を追う維新と都民ファ
次が、維新の海老沢由紀(7位)だ。維新は、これまで大阪が中心になって党勢を拡大してきたが、執行部の政調会長を音喜多駿、総務会長を柳ヶ瀬裕文と東京出身者で固めている。その二人の地元である東京で負けることは絶対に許されない。
維新の支持者は「〈大阪の改革を東京でやる〉と言っても響かない」と嘆き、選挙戦に苦慮している。維新や候補者自身をめぐるスキャンダル報道も頭が痛い。そこで東京での票の掘り起こしに期待されたのが、全国比例候補の猪瀬直樹だったのだが、過去のスキャンダルも響き、街頭演説ではいまひとつ人気がでない。
これから1ヵ月で、どう体制を立て直すかが問われている。吉村洋文大阪府知事が街頭演説すれば、東京といえども、人は多数集まる。この辺りに可能性があるかもしれない。
その2人に比べれば苦戦を強いられているのが都民ファの荒木千陽(8位)だろう。小池百合子の元秘書として、都民ファースト代表として満を持しての国政選挙。「減税」と「表現の自由」を掲げての選挙戦だが、知名度がないのが響いている。
しかし、陣営は「勝機はある」として昨年の都議会議員選挙を例に出し、強気の姿勢を崩さない。
「前回の都議会議員選挙でも、事前の情勢調査では都民ファーストの候補者はほぼ負けていました。しかし、投票日当日になって、候補者の名前を知らなくても小池知事を支持する人たちが多数投票し、都民ファーストは勢力を維持することになった。事前調査では、小池知事と荒木は結び付けられていない。大逆転は可能だ」
投票日まで姿を見せない「小池百合子のゴースト票」の行方が左右することになるようだ。
なお、無所属の乙武洋匡は、数字をみるかぎり今のところ完全に圏外(2.7%)で、苦戦中だ。乙武のホームページを見てもまだ具体的な政策がなく、6月9日のツイッターで「政策をリライトしている」と告白している有り様だ。無所属からの立候補ということで、効率的な組織固めができないのが痛いところだろう。
しかし、私自身が乙武のテレビでの発言などを聞いていると、合理的な主張を数多くしているようにも感じている。大逆転を目指して、ボーダーライン上の候補、一人一人を呼びつけて、タイマンのディベートバトルを繰り広げてほしい。各党が怪しげなバラマキ政策をぶち上げる中、徹底的なファクトチェックで追い込むのだ。
さて、これまで情勢調査をもとに選挙戦を伝えてきた。今回掲載した自民党の情勢調査情報は、毎回の国政選挙のたびに出回るものだが、なにぶん母集団も小さく、他党各陣営からは「自民党によって数字が歪められているのではないか」という批判も根強い。まして東京は大激戦区。残り1ヵ月で、結果はいかようにも変わりうるはずだが……。
小倉健一 イトモス研究所所長
1979年生まれ。京都大学経済学部卒。国会議員秘書からプレジデント社入社。プレジデント編集長を経て2021年7月に独立。