朝日新聞ーー揺らぐ世界秩序と憲法 今こそ平和主義を礎に
(社説)揺らぐ世界秩序と憲法 今こそ平和主義を礎に(朝日新聞 2022年5月3日 5時00分)
ロシアのウクライナ侵略が、第2次大戦後の世界秩序を揺るがすなか、施行から75年の節目となる憲法記念日を迎えた。
国際社会の厳しい批判や経済制裁によっても、停戦はいまだ実現していない。一方、東アジアでは、北朝鮮が核・ミサイル開発を続け、中国は力による現状変更もいとわない。
日本と世界の平和と安全を守るにはどうすべきか。これまで以上に多くの国民が、切実な思いを抱いているに違いない。単純な解は見つかるまい。だが、力で対抗するだけで実現できるものではない。日本国憲法が掲げる平和主義を礎にした、粘り強い努力を重ねたい。
■受け継がれた理想
20世紀は、二つの世界大戦と平和を希求する努力の繰り返しだった。
おびただしい戦死者を出し、銃後の国民をも巻き込む総力戦となった第1次大戦の後、史上初の国際平和機構として、国際連盟が創設された。その8年後には、国際紛争解決の手段としての戦争を否定するパリ不戦条約も結ばれた。
しかし、第2次大戦の勃発を防げず、再び戦争の惨禍を経験すると、より強力な国際連合が結成された。日本国憲法が公布されたのは、その翌年である。平和主義を国民主権、基本的人権の尊重と並ぶ3本柱と位置づけ、第9条で戦争放棄と戦力の不保持をうたった。戦争を否定し、平和を求める人類の理想を受け継いだものだ。
軍国主義とアジアへの侵略、植民地支配に対する反省、唯一の戦争被爆国として核兵器は二度と使用されてはならないという強い思い……。日本自身の歴史の教訓も凝縮されている。
それから70有余年。米ソ冷戦が終わり、グローバル化の進展で世界の相互依存は飛躍的に深まった。国際協調のための仕組みやルールの整備も進んだ。そんな21世紀の今日になって、私たちは再び、独立国が武力で侵され、市民に対する残虐行為が行われるという悲劇を目の当たりにしている。
日本の平和主義の真価が問われる局面だ。
■「専守防衛」堅持を
憲法に基づく日本の防衛の基本方針は「専守防衛」である。自衛のための「必要最小限度」の防衛力を整え、武力攻撃を受けた時に初めて行使する。その際、自衛隊は「盾」に徹し、強力な打撃力を持つ米軍が「矛」となる。日米安保条約による役割分担とセットである。
第2次安倍政権が憲法解釈を強引に変更し、集団的自衛権の一部行使に道を開いた際も、政府は専守防衛に変わりはないとした。しかし、護衛艦の空母化や長距離巡航ミサイルの導入など、その枠を超える動きは続き、今や「反撃能力」の名の下に敵基地攻撃能力の保有に突き進もうとしている。
厳しい安保環境を踏まえた、防衛力の着実な整備が必要だとしても、平和国家としての戦後日本の歩みの土台となった専守防衛を空洞化させるような施策が、本当に安全につながるのか疑問だ。際限のない軍拡競争を招き、かえって地域を不安定化させることにならないか。
自民党は5年で対GDP(国内総生産)比倍増も視野に、防衛費の大幅増を岸田首相に提言した。武器輸出を拡大するための防衛装備移転三原則の見直しも求めた。危機に乗じて、これまでの日本の抑制的な安保政策を一気に転換しようとする試みは容認できない。
■努力を続ける使命
「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」
憲法の前文の一節だ。日本一国の安全にとどまらず、国際平和の実現をめざすのが憲法の根本的な精神である。
ロシアの侵略を一刻も早く終わらせ、市民の犠牲はこれ以上出させない。そのうえで、このような事態が繰り返されることのないよう、ロシアを含めた国際秩序の再建に取り組む。国連の改革も必要だ。
この困難な国際社会の取り組みに、日本は主体的に参加しなければならない。
憲法に至る平和主義の淵源のひとつともいえる著作がある。ドイツの哲学者カントが18世紀末に著した「永遠平和のために」だ。その条件としてまず、常備軍の廃止や戦時国債の禁止など六つをあげている。
カントは人間の「善」に立脚していたわけではない。逆に人間は邪悪な存在であるとの認識から、「永遠平和は自然状態ではない。自然状態とはむしろ戦争状態なのである」と記した。永遠平和は人間がつくりださなければならない。それは「単なる空虚な理念でなく、実現すべき課題である」と説いた。
繰り返される戦争の惨事から立ち上がり、平和を求めてやまなかった先人たちの営みの上に今がある。強い意志をもって、その歩みを前に進める歴史的使命を果たさねばならない。
読売新聞ーー憲法施行75年 激動期に対応する改正論議を
(社説)憲法施行75年 激動期に対応する改正論議を(読売新聞 2022/05/03 05:00)
◆自衛隊明記を先延ばしするな◆
日本国憲法はきょう、施行から75年を迎えた。激動する時代にふさわしい最高法規のあり方について、一人ひとりが考える機会としたい。
ロシアによるウクライナ侵略は、大国の一方的な暴挙により、隣国の主権が侵害されるという厳しい現実を突き付けた。国連は十分に機能を果たせず、戦後の世界秩序が揺らいでいる。
日本も、他国から主権を脅かされるリスクと無縁ではない。国の安全を守るため、憲法に立ち返って議論を深める必要がある。
前文の理想さらに遠く
憲法は終戦直後、連合国軍の占領下で制定された。前文では、日本国民は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とうたった。
だが、戦争放棄の前提となった前文の理想は実現せず、「諸国民」を信頼するだけでは平和を維持できないことは明白となった。
日本周辺では、軍事大国化した中国が尖閣諸島の領海への侵入を常態化させ、北朝鮮はミサイル発射を繰り返している。
その現実を直視し、国民を守り、国際社会の平和に貢献する方策を考えるべき時にある。
憲法改正の最大の焦点は、国の安全保障を担う自衛隊をどう位置づけるかだ。自衛隊は、国の防衛に加え、国際貢献や災害時の救援、医療支援などに取り組んでいる。国民も厚い信頼を寄せている。
それにもかかわらず、9条が戦力不保持を定めていることから、憲法学者の一部は自衛隊に違憲の疑いを向けてきた。自衛隊に対する違憲論を 払拭ふっしょく する必要性はさらに高まっている。
読売新聞社の世論調査では、憲法を改正する方がよいと答えた人は60%に上昇し、反対派の38%との差が開いた。改正すべき項目では、「自衛のための軍隊保持」が45%と最多だった。
厳しい安全保障環境を背景に、自衛隊の役割を明確にすべきだという意識が国民にも定着しつつあるのだろう。与野党は、こうした世論の動向も踏まえ、早期に方向性を示すことが重要だ。
自民党は2018年、9条を維持したまま、自衛隊の根拠規定を追加することを提案した。
自衛隊が9条2項が保持を禁じる「戦力」にあたらないかという議論は残るが、具体的な条文案として示したのは前進だ。各党はこれをたたき台にしてはどうか。
自衛隊をめぐり、共産党の志位委員長が「急迫不正の侵略がされた場合、自衛隊を含めあらゆる手段を用いて、国民の命と日本の主権を守る」と述べたという。
緊急事態条項も重要だ
自衛隊の解消を掲げる党綱領とは矛盾しているが、自衛隊の意義を認めたということだろう。他の野党も、現実の脅威から目を背けず、憲法を論じてほしい。
緊急事態への対応についても、検討を急がねばならない。自民党は衆院憲法審査会で、ウクライナ憲法を例に挙げ、日本にも緊急事態条項が必要だと指摘した。
ウクライナ憲法には、大統領が戒厳や非常事態を布告すると、収束まで国会議員の任期を延長するという規定がある。実際、ロシアの侵略開始後も、ウクライナ議会は法律を成立させるなどの機能を果たしているという。
日本の憲法には、緊急事態に関する規定はほとんどなく、非常時に選挙ができない場合、国会議員の任期が切れて不在となる可能性がある。大規模災害や感染症流行などの緊急時を想定した規定が乏しいことは心もとない。
日本維新の会、国民民主党なども、緊急時の議員任期延長には前向きな立場だ。各国の事例を参考に、具体的な条文案について検討を進めることが大切である。
参院選で問われる各党
今国会で、衆参両院の憲法審査会は活発な討議を続けている。
昨年の衆院選で、維新など憲法改正に前向きな野党が勢力を伸ばした影響だろう。7月の参院選でも、憲法改正への各党の姿勢が見定められるのは間違いない。各党は党内の意見を集約し、明快な見解を示すべきだ。
衆院の審査会は、緊急時に限り、国会でのオンライン審議は憲法上可能だとする報告書をまとめた。実現には技術的な課題が残るが、与野党が話し合い、一定の憲法解釈を示したのは評価できる。
さらに、衆参両院の役割分担の見直しや1票の格差、デジタル社会への対応など、数多くの論点がある。改正項目の絞り込みに向けて、引き続き建設的に議論を積み重ねてもらいたい。
毎日新聞ーー危機下の憲法記念日 平和主義の議論深めたい
(社説)危機下の憲法記念日 平和主義の議論深めたい(毎日新聞 2022/5/3)
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、75回目の憲法記念日を迎えた。
独立国の主権と領土を踏みにじる侵略戦争は、日本の憲法が掲げる平和主義への攻撃である。
米欧も国連も蛮行を止められず、国際協調を基盤とする「ポスト冷戦期」に終止符が打たれた。
欧州の安全保障環境は激変した。軍事的中立を保ってきたフィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)加盟に動き、ドイツは従来方針を転換してウクライナに戦車を提供する。
核兵器使用の脅しをかけるプーチン露大統領に国際社会が圧力を強め、抵抗を続けるウクライナの人々を助けるのは当然だ。
軍事力で大国が他国を圧する「弱肉強食の世界」の出現を許してはならない。
現実を理想に近づける
日本国憲法は「戦争の惨禍」を繰り返さないとの決意から生まれた。「国際平和」「武力行使禁止」は国連憲章と共通する。
懸念されるのは、侵攻を憲法改正に結びつけようとする動きだ。安倍晋三元首相は「今こそ9条の議論を」と強調し、自民党は、国民の権利制限につながる「緊急事態条項」の新設を目指す。
国民的な議論を欠いたまま、軍拡へと走るかのような風潮も気がかりだ。自民党が保有を提言する「反撃能力」は、「専守防衛」の基本方針との整合性が問われる。
侵攻で「力による現状変更」のリスクが突き付けられたのは事実だ。中国の海洋進出など東アジア情勢を踏まえ、憲法の枠内で防衛力を見直すことは必要だろう。
だが、権威主義国家の軍事力増強に軍拡で対抗するのでは、「力の論理」にのみ込まれるだけだ。米軍によるイラクやアフガニスタンの戦争の帰結が示すように、軍事力だけで問題は解決しない。
国際政治学者のE・H・カーは第一次大戦後、理想主義的な国際連盟が機能不全に陥り、2度目の大戦を回避できなかった戦間期の「危機の20年」をこう分析した。
「現実をあまり考慮しなかったユートピアから、ユートピアのあらゆる要素を厳しく排除したリアリティーへと急降下するところにその特徴があった」
いま日本に求められているのは、侵攻が浮き彫りにした現実を直視しつつ、それを「国際平和」という理想に少しでも近づけるための不断の営みだろう。
まず、安全保障の総合力を高めることだ。ウクライナでも国際支援や指導者の発信力が戦局を左右している。防衛力だけでなく、外交、経済、文化、人的交流などソフトパワーの強化が欠かせない。
次に、アジア安保対話の枠組みを作る努力だ。米中とインド、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国などが意思疎通する場は地域の安定に寄与する。日本が主導的な役割を果たせるはずだ。
平和とルールを重視する国際世論を醸成する取り組みも必要だ。ロシアを含む各国の市民が反戦の声を上げている。憲法が前文に記す「平和を愛する諸国民の公正と信義」を再確認する時である。
「これまで『日本だけが平和であればいい』という感覚が強かった。困っている他国の人を助けるという道徳的な義務と両立する平和主義でなければならない」
そう語る国際政治学者の中西寛・京都大教授が注目するのが、ウクライナ避難民の受け入れだ。
「人道」の視点を大切に
政府が異例の受け入れ態勢を取り、これまでに800人以上が来日した。毎日新聞などの世論調査では「もっと多く受け入れるべきだ」との回答が69%に上る。
戦火を逃れた人々に手を差し伸べることは、人道上の責務である。日本はウクライナの人々に限らず、国籍を問わずに積極的に受け入れるべきだ。
憲法は「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」をうたう。戦後の制定過程で9条に「平和」の文言を加え、「生存権」(25条)を盛り込むよう訴えたのは衆院議員の鈴木義男で、米国側の「押しつけ」ではなかった。
いずれも「人間の安全保障」に通じる理念だ。憲政史が専門の古関彰一・独協大名誉教授は「平和は単に『戦争のない状態』ではなく、『人間らしく生存できる』という問題だ」と指摘する。
憲法の平和主義をどう実践し、世界に発信するか。施行75年の節目を、理想追求の原点に立ち返って議論を深める機会にしたい。
産経新聞ーー憲法施行75年 改正し国民守る態勢築け 「9条」こそ一丁目一番地だ
(主張)憲法施行75年 改正し国民守る態勢築け 「9条」こそ一丁目一番地だ(産経新聞 2022/5/3 05:00)
ロシアによるウクライナ侵略で大勢の人々の血が流れている最中に、現憲法は施行75年の節目を迎えた。
4分の3世紀を経て、改めてはっきりした点がある。それは、次に示す憲法前文の有名なくだりが空論に過ぎないということだ。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
平和を守らず、公正と信義を顧みない国が存在している。このどうしようもない現実に、どのように対処していくかを、現憲法は語っていない。欠陥憲法と呼ばれるゆえんである。
前文は空論に過ぎない
国連安全保障理事会の常任理事国として国際社会の平和に責任を持つべきロシアは、独立主権国家のウクライナに言いがかりをつけ攻め込み、殺戮を続けている。
ウクライナが日本の憲法前文のような決意を実践していたらロシアにあっという間に蹂躙され、併合、分割されるか、衛星国家にされただろう。降伏すれば無事にすむわけでは決してない。ウクライナの独立、自由と民主主義は失われる。キーウ周辺で起きたようなロシア軍による虐殺があっても抵抗する術はもはやない。
だが、ウクライナ国民は日本の憲法前文が求めるような無責任かつ惰弱な対応を選ばなかった。祖国や故郷、愛する人々を守ろうと立ち上がり、欧米諸国や日本はそれを支援している。
戦後日本の平和を守ってきたのは、憲法前文やそれに連なる第9条ではなかった。力の信奉者で、国際法や外国の主権を尊重してこなかった中国や北朝鮮、旧ソ連・ロシアが、日本の9条を尊重するはずもない。
突き詰めれば、自衛隊と日米安全保障条約に基づく米軍の抑止力が平和を守ってきたといえる。
抑止力と対処力の整備が安全保障や外交力を裏打ちするが、憲法前文や9条を旗印とする陣営はそれを理解せず、現実的な安全保障政策の展開を妨げてきた。
前文や9条の改正は、憲法改正問題の一丁目一番地であるべきだ。「戦力の不保持」を定めた9条2項を削除し、軍の保持を認める本格改正が求められる。日本が世界の他の民主主義国と同様に、国と国民を守る軍を持ち、集団的自衛権を活用して仲間の国々と守り合うようになれば、日本を侵略しようとする国にとってのハードルは一層高くなる。
9条の改正は、安全保障政策への不当な妨げを阻むことにもつながる。
岸田文雄政権は、ミサイル攻撃などに対抗する「反撃能力」導入を検討中だ。中国や北朝鮮などのミサイルの性能向上は著しい。飛んでくるミサイルを迎撃するミサイル防衛だけでは守り切れなくなった事情がある。
改憲原案の策定着手を
これに対し、9条の精神に基づく専守防衛に触れるとして反撃能力反対論がある。国民よりも侵略国の軍を守るような奇妙な主張で、それを導く9条は罪深い。
自民党は、もともと決めていた9条2項改正を伴う国防軍保持の改憲案ではなく、憲法への「自衛隊明記」を目指している。
ウクライナ侵略や中朝などの軍拡を見れば、9条の本格改正にいたらない自衛隊明記には周回遅れの感があるのは否めない。
ただし、本格改正の前段階として自衛隊を明記する意義がないわけではない。国の大切な役割に国防があると明確にできる。学校教育を通じて抑止など防衛力の役割を伝え、日本の安全保障論議の質を底上げする利点がある。
最大野党の立憲民主党の幹部は「防御は最大の攻撃という言葉もある」という倒錯した発言までして反撃能力に反対した。安保論議の水準を高めれば、このようなおかしな意見は減るだろう。
改正すべきは9条だけではない。11年前の東日本大震災から議論が始まった緊急事態条項の創設は足踏みしたままだ。南海トラフや首都直下の大震災はいつ襲ってくるか分からない。地理的に近い台湾有事は日本有事に直結する。衆院選が実施できなかったり、国会や自治体が機能不全に陥る事態へ備える必要がある。
衆参両院の憲法審査会は蝸牛の歩みをやめ、憲法改正原案の策定に着手すべきだ。最大政党の党首として岸田首相は指導力を発揮しなければならない。
日本経済新聞ーー人権守り危機に備える憲法論議を深めよ
[社説]人権守り危機に備える憲法論議を深めよ(日本経済新聞 2022年5月3日 0:00)
日本国憲法の施行から75年を迎えた。国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の考え方は定着し、次の世代に大切に継承していかねばならない。一方で危機が起きた際の備えをめぐる課題も浮上し、時代に即した法体系のあり方の議論を深めていく必要がある。
現憲法が1947年に施行されて以降、日本は高度成長をなし遂げ、国際環境も様変わりした。そうした中でも一度も改正されなかったのは、戦後日本の針路として多くの有権者が共感をもって受け止めてきたからだろう。
だが近年は憲法制定時の想定を超える状況も生じている。新型コロナウイルスの脅威は「個人の自由」と「社会の安全」のバランスを問いかけている。大規模な災害やテロ、武力攻撃が起きた際に国会や政府の機能をどうやって維持するかの検討は極めて重要だ。
今国会で衆院憲法審査会がほぼ毎週開かれ、討議を重ねているのは重要な一歩として評価できる。3月には緊急時に審議へのオンライン出席が憲法上認められるとの意見が憲法審で大勢だったとする報告書をまとめ、細田博之衆院議長に提出した。
立法府が憲法解釈を主体的に行い、改正の必要性を有権者に示す新たな動きとして注目される。災害や感染症のまん延などの事態を想定しており、国政選挙が難しい場合の議員任期の延長についても合意を急ぐ必要がある。
ロシアによるウクライナ侵攻は「法と正義」に基づく国際秩序を揺さぶっている。日本は中国、ロシア、北朝鮮という核保有国に囲まれ、国民の生命や財産、国土の安全への懸念が増している。
憲法9条が定める戦争の放棄、戦力および交戦権の否認の考え方と、日本の安全を守るための防衛力強化の整合性が問われている。国会での冷静かつ丁寧な議論を通じ、国民のより幅広い理解を得ながら結論を導いていくべきだ。
近年は国政選挙のたびに「1票の格差」をめぐる訴訟が提起されている。定数を大都市に集中させる格差の是正方法は限界に近づき、衆参両院の議員の選び方と権限、国と自治体の役割を含めた憲法論議が求められている。
戦後日本の出発点である現憲法の理念や基本原則は、将来にわたって堅持すべきだ。各党は次の時代を見据えた国家像を精力的に議論し、改正の是非に関する考え方を有権者に示してほしい。