乳酸菌だけでは不十分? 高齢者が大腸のために取るべき菌とは

乳酸菌とビフィズス菌 社会

乳酸菌だけでは不十分? 高齢者が大腸のために取るべき菌とは(齋藤忠夫 デイリー新潮 2022年05月02日)より抜粋

「免疫力アップ」に乳酸菌を、とヨーグルトを摂取する向きは多いに違いない。しかし、それだけでは壮健な生活に不十分だとしたらどうだろう。乳酸菌では守れない大腸の健康を保つ唯一無二の手段は「ビフィズス菌」。製品別効能から摂取の仕方まで徹底ガイドする。

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一般の方で乳酸菌とビフィズス菌の違いを正確に理解している人はあまり多くないと思います。メディアやネット情報でこの二つを一緒くたに紹介していることもありますが、その役割や効能は大きく違います。

まず、二つの菌について代表的な三つの違いをご説明します。

一つ目は作り出す「酸」の種類と比率が違うことです。乳酸菌は大量の乳酸のみを作り出し、腸内細菌のバランスを保つ働きをします。ビフィズス菌は乳酸に加え、酢酸を作り出します。比率でいえば、乳酸2に対して酢酸が3。酢酸は短鎖脂肪酸の一つで殺菌能力が非常に高く、悪玉菌の生育と増殖を抑えたり、腸の動きを活発にして便通を改善する効果があります。また、血糖値を制御したり、太りにくい体質を作る、ともされています。腸内で酢酸を作り出すのは、乳酸菌にはないビフィズス菌の最大の特徴といえるでしょう。

さらにビフィズス菌の作る乳酸や酢酸はほかの腸内細菌の餌ともなり、酪酸へと形を変えます。腸管の内側には突起(腸絨毛(じゅうもう))がたくさんあります。腸絨毛が長く発達すればするほど有害な菌の付着を防ぐことができます。酪酸は腸管細胞のエネルギー源となり腸絨毛を長く伸ばす効果があるので、腸管のバリア機能を高めることができます。

開封後早めに食べたほうがいい理由

二つ目はビフィズス菌が「偏性嫌気性菌」と呼ばれ、酸素が非常に苦手な菌ということです。乳酸菌はある程度酸素があっても増殖できる一方で、ビフィズス菌は酸素があると増殖できないので、腸管の中でも酸素の少ない大腸、特にS字結腸や直腸に多くすんでいます。こうした場所では乳酸菌1に対してビフィズス菌は千と圧倒的にビフィズス菌の存在比が高いのです。基本的にビフィズス菌を含む製品は酸素に触れると菌がどんどん死んでしまうので、開封した後は早めに飲食されることをお勧めします。

最近の研究では、ビフィズス菌が大腸に多くすむ理由として、酸素だけでなく食物繊維の存在も指摘されています。ビフィズス菌はヒトが利用できない食物繊維を分解・利用できるので、それが多く存在する大腸での生育と増殖に適応している、というわけです。

形状の違い

三つ目は形状の違いです。電子顕微鏡で1万倍ほどに拡大すると、ビフィズス菌はY字状に枝分かれしているものが多く、乳酸菌は棒状や球状なので形状が大きく異なります。

ビフィズス菌は1899年にフランスのアンリ・ティシエという研究者によって発見されました。現在では50~90種類が知られていて、菌株によってさまざまな健康への効能があります。ただし、乳酸菌に比べると免疫関連の効果は少ない傾向にあると思います。

乳酸菌は酸素が比較的多く存在する小腸で働きます。小腸には体に悪いものが入ってきた時に対処できるよう、異物を取り込んで分析するパイエル板やM細胞があります。しかし、ビフィズス菌がすむ大腸にはこれらの免疫情報収集器官はありません。つまり、大腸では小腸のように直接、菌体を吸収して免疫担当細胞を刺激することはないのです。ビフィズス菌を含んだ製品でアレルギーを抑えるものがありますが、それは、小腸パイエル板で菌が吸収されることで機能性を発揮するものと考えられます。

70代で20代の1割

従って、ビフィズス菌が発揮する効能は(1)整腸作用(排便回数を増やす、便臭を抑える)、(2)大腸がん抑制作用(大腸がんの原因となる有害菌を酢酸で殺菌する)が主となります。小腸でいろいろな働きをする乳酸菌、それを含んだヨーグルトや飲料などと比べると華々しさに欠ける印象があるかもしれませんが、酸素が少なく、乳酸菌が生きられない大腸の健康を守る菌はビフィズス菌以外にはないと言っても過言ではないので、腸の健康には極めて重要な菌といえます。

また、高齢になるとビフィズス菌などの善玉菌が減少することも示されています。ビフィズス菌でいえば、20代の時と比べて70代では1割程度にまで減ってしまうとされています。誰でも老化が進むとそれだけ腸管の蠕動(ぜんどう)運動が弱まり、胃酸、胆汁酸の分泌が少なくなっていきます。そうすると、腸内に悪玉菌などが増殖しやすくなり、悪玉菌の産生する悪い酸や悪い物質により、腸管の細胞が傷ついていく。腸内環境を守る善玉菌さえも減少しているところに老化に伴って腸内の環境が悪くなっているわけですから、高齢者は二重に腸内のリスクを抱えていることになります。ビフィズス菌を外から食品の形態で取り込むことは特に重要になってくる時期といえるのではないでしょうか。

(以下省略)

全文:乳酸菌だけでは不十分? 高齢者が大腸のために取るべき菌とは

齋藤忠夫(さいとうただお)
東北大学名誉教授。1952年東京都生まれ。82年東北大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。2018年より東北大学名誉教授。専門は畜産物利用学および応用微生物学。日本酪農科学会会長などを歴任する乳酸菌研究の第一人者。

週刊新潮 2022年4月28日号掲載

特別読物「『乳酸菌』だけでは不十分 高齢者は必須『大腸がん』予防したいなら外部から補給 『ビフィズス菌』製品を徹底比較」より