円安はいつまで続くのか 日銀総裁の交代は来年4月 カギ握る次期総裁有力候補の政策は?

1ドル130円台に突入 政治・経済

円安はいつまで続くのか 日銀総裁の交代は来年4月 カギ握る次期総裁有力候補の政策は?(榊原英資・(財)インド経済研究所理事長、エコノミスト 論座 2022年05月02日)

2021年から円安が進んでいる。2021年1月に1ドル103.70円だった円ドルレートは3月には1ドル118.51円まで下落している。円安の最大の要因は、アメリカが金融引き締めに転じる一方、日本では金融緩和が続いていることだ。当然、ドル高、円安になるという事なのだ。

2023年末には1ドル150円弱の予測も

黒田東彦・日銀総裁、異次元緩和

日本の金融緩和は黒田東彦氏が総裁に就任した2013年から続いている。大胆な金融緩和は「異次元金融緩和」と呼ばれ、日本経済の景気回復に大いに貢献した。当然、日銀の総資産残高は大きく上昇したが、東証株価指数と日経平均も上昇、日本経済を支える役割を果たしたのだ。日経平均は2013年には1万6291円(12月の終値)だったが、2021年末には2万8792円まで上昇している。77%弱も上がっている。

日本経済の成長率も2020年はコロナ禍で大きく落ち込んだものの(前年比マイナス4.50%)、2021年度には回復し、実質成長率は2.5%、22年度は2.1%と予測されている(日本経済新聞「NEEDS」予測)。

黒田日銀総裁の任期は2023年4月8日までだが、それまでは金融緩和政策を続けると見られている。まだまだ日本経済は緩和政策によって支え続けるべきだというのが総裁の考え方だと言われている。となると、円安は今後とも続いていくことになり、2022年末には1ドル140円を超し、2023年末には1ドル150円弱になると見られている。

次期日銀総裁に最有力視されるのは…

黒田総裁の後任には現在の副総裁・雨宮正佳氏が最も有力とされている。雨宮正佳氏は日銀の企画局長などを経て、2018年3月20に副総裁に就任した。東京大学経済学部を卒業後、1979年には日本銀行に入行、企画局長、大阪支店長、本店理事などを経て、副総裁に就任した日本銀行のエースと目されている人物である。クラッシック音楽に傾倒し、一時は本気で音楽の道に進もうとしていたといわれている。12月にはピアノの発表会もあり、メキシコの作曲家のマヌエル・ポンセに挑むという。幼馴染だった夫人は音楽大学の出身だという。

雨宮副総裁が総裁に就任するとすれば、2023年4月。注目されているのは、新総裁が政策変更をするかどうか。するとした場合、いつするのかという事だろう。欧米が金融引き締めに転ずる中での黒田総裁の金融緩和は激しい円安を生じさせているが、新総裁が利上げに踏み切って円安をストップさせるのか、そして、それをいつ実行するのかが注目されているのだ。

雨宮正佳・日銀副総裁

「金利はもっと上下に動いてよい」

雨宮副総裁は「金利はもっと上下に動いてよい」と黒田総裁とは若干異なる発言をしている。もっとも「決定会合」の時までには、総裁の見解に摺り合わせするだろうとも言われている。ただ、2023年4月8日には黒田総裁が退任し、雨宮副総裁が総裁に就任した場合、長く続いてきた金融緩和政策を変更する可能性はかなり高いのではないだろうか。

前述したように、欧米が金融引き締めに転ずる中での金融緩和政策の継続は、急激な円安を招き、輸入コストの上昇などエネルギーや食糧価値を大きく上昇させている。まだまだ、インフレが加速するという状況ではないものの、このまま円安が続けば、円安のデメリットが次第に大きくなる可能性がある。

こうした、いわば「悪い円安」を阻止するためには、日本も欧米のように金融引き締めに転ずる必要がある。勿論、金利の引き上げは景気にはマイナス。景気が過熱し、インフレが加速するようなときには必要な政策だが、そうした局面がいつ日本経済に訪れるかは今のところ定かではない。

ただ、IMFによる2022年4月時点の推計では2021年の日本経済の成長率は1.62%、22年のそれは2.39%とされている。過去10年の成長率の年平均は1.2%前後。これに比べると21年、22年の成長率は2020年の落ち込みからの回復ということもあって、かなり高いものだという事が出来るのだろう。

総裁交代時の政策変更は可能性十分

とすれば、2023年に入って景気が大きく上昇し、インフレ状況になる可能性も低くはないと言えるのだろう。過度の円安を阻止し、景気の過熱を防ぐ為の利上げも視野に入って来る可能性もある。

前述したように、2023年には日銀総裁も交代することとなる。新総裁はおそらく雨宮正佳氏なのだろうが、問題は、新総裁が利上げに踏み切るかどうかだろう。勿論、景気の動向にもよるが、総裁の交代の時期は政策転換もより可能性が高くなると考えられるのだ。

利上げは円高要因。2023年に入って、1ドル150円に近づくとされている円安を阻止するためにも利上げは有効。欧米は既に金融引き締めの状況。もし、日銀新総裁が利上げに動くとすれば、日本もまた、欧米同様、金融引き締め局面に入るという事になる。果たして景気がそこまで加熱しているかどうかは今のところ定かではないが、新総裁が政策変更に踏み切る可能性は十分視野に入れておく必要があるのではないだろうか。