隣国をさげすむプーチン大統領のゆがんだ「ウクライナ観」

またこの日がやってくる(対独戦勝記念日パレードでのプーチン大統領=2021年) 国際

隣国をさげすむプーチン大統領のゆがんだ「ウクライナ観」(日刊ゲンダイ 公開日:2022/04/29 06:00 更新日:2022/04/29 06:00)

ロシア軍が電撃制圧しようと攻勢を仕掛け、多数の民間人が犠牲になったウクライナの首都キーウ(キエフ)。プーチン大統領が「ロシア人と同じ民族」と言っているのが妥当かどうかはさておき、ウクライナは歴史上、数々の災厄に見舞われてきた。欧州とロシアの大国間に挟まれた人々の悲劇は、今回に限ったことではなかった。

そもそも、キリスト教(東方正教)を受容した東スラブ民族の「首都」としてキーウがあったものの、13世紀にモンゴル帝国に滅ぼされた。それから長らく西のポーランド、南のトルコ、東のロシアと大国に挟まれ、かつての中心は辺境に成り下がった。帝政ロシア時代に「小ロシア」と呼ばれたように、広大な土地にもかかわらず「おまけ」の扱い。隣国をさげすむプーチンのゆがんだ「ウクライナ観」はこういうところからきている。

ソ連時代の1930年代には、豊かな黒土の穀倉地帯を抱えながら、独裁者スターリンの集団農業政策で約400万人が餓死する大飢饉に。41年からの第2次大戦の独ソ戦ではナチス・ドイツに占領され、キーウ市内でホロコースト(ユダヤ人大虐殺)があった。ユダヤ人であるゼレンスキー大統領の親族を含め、犠牲者は数万人。ウクライナ国民は今や、プーチン政権が旗印とするZマークを「かぎ十字」と同一視している。

■「ナチス掃討」自分が総統

だから、プーチンが今、「ウクライナのナチを掃討する」と言っても、侵攻される側にとっては「たわ言」にしか聞こえない。ロシア系住民を守るとこじつけて軍事介入してくるプーチン政権は、ズデーテン地方(旧チェコスロバキア)のドイツ系住民の保護名目で侵略戦争を広げたナチス総統と変わらないのだ。

ロシア軍の一部はプーチンの「主張」を真に受け、キーウ近郊で少女を「ナチ」呼ばわりしながら暴行したらしい。北東部ハルキウでは3月、ヒトラーのホロコーストを生き延びた96歳男性が、砲撃であっけなく命を落とした。

それでも毎年、5月9日の旧ソ連の対独戦勝記念日がやってくる。緒戦でキーウを制圧できずに多数の若い徴集兵らを死なせた「敗戦」を覆い隠すべく、プーチン政権は作戦を大幅変更。東部ドンバス地方で「戦勝」を演出すべく必死になった。

死者2000万人──。これほど多い旧ソ連の戦没者に思いをはせ、二度と戦争を繰り返させないというのが、記念日の本来の趣旨のはずだった。ウクライナの悲劇をはた目に、ロシア国民の心境はさぞ複雑になっているに違いない。

(文=平岩貴比古/時事通信社前モスクワ特派員)