知床観光船・桂田社長、荒天などで出航見送った船長に「なぜ出ないんだ」

ウトロ港に停泊する観光船や漁船、高波などのため本日の捜索は見送られた=28日午後、北海道斜里町 社会

知床観光船・桂田社長、荒天などで出航見送った船長に「なぜ出ないんだ」

知床観光船・桂田社長、荒天などで出航見送った船長に「なぜ出ないんだ」(サンスポ 2022/04/29 05:00)

北海道・知床半島沖で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」=19トン=が遭難した事故で、運航会社「知床遊覧船」が、波浪注意報などにより風速や波の高さが国へ提出した運航基準を超える荒天予報にもかかわらず、当日ツアーを実施した疑いのあることが28日、分かった。事故では11人が死亡、15人が行方不明になっていたが、第1管区海上保安本部(小樽)は新たに搭乗者とみられる3人を発見。いずれも死亡が確認された。

カズワンを運航していた「知床遊覧船」の、安全を軽視する姿勢が浮き彫りとなった。

関係者によると、同社の運航基準には風速8メートル、波の高さ1メートルに達することが予想される場合には出航を取りやめると規定。事故当日の23日はカズワンが出航する午前10時の約20分前に高さ3メートル以上の波が予想される波浪注意報が出ていた。

同社の桂田精一社長(58)は27日の記者会見で、波浪注意報が出ていたことを把握した上で出航を決めたと説明。行方の分かっていない豊田徳幸船長(54)からは「出航後に天候が悪化する可能性がある」と伝えられていたと明らかにした。ただ運航基準については「具体的な数値は記載していない。暗黙の了解のようなもの」と話している。

桂田社長がこれまで、出航が難しい場合にもツアーを取りやめないよう、別の船長に強く求めていたことも判明。海流などにより安全なツアーの運航が難しいと船長が出航を見送った一方、他社の観光船が港を出ていると、社長は「なぜ出ないんだ」と非難することが多かったという。

また同業他社で船長を務める男性は、豊田船長が「行けと言われるから行くんだ」と漏らしていたと証言した。

同社は荒天が予想されてもツアーを実施するケースが常態化していた。桂田社長は海が荒れた場合は船長判断で引き返す「条件付き運航」だったと説明した。だが斉藤鉄夫国土交通相は28日の閣議後記者会見で「条件付きはあり得ない」と糾弾した。

第1管区海上保安本部は28日午後、カズワンが救助要請した場所から半島を挟み東の羅臼側の海域で搭乗者とみられる成人男性3人を発見。3人は死亡が確認された。1管は業務上過失致死や業務上過失往来危険の疑いでの立件を視野に出航の経緯を捜査している。

桂田社長漏らした「安全管理規定」順守していれれば出航できない状況だった

<北海道新聞・社説>知床の運航会社 危機意識甘く責任重大

<社説>知床の運航会社 危機意識甘く責任重大(北海道新聞 04/29 05:00)

知床半島沖を航行していた乗客・乗員計26人の小型観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が遭難して、あすで1週間になる。まだ多くの人が行方不明だ。船体の発見にも至っていない。

そうした中、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長が事故から5日目で初めて記者会見した。

天候の悪化予報を顧みずに出航を決めた判断について「間違っていた」と述べ、責任を認めた。危機意識の甘さ、安全管理のずさんさが随所で浮き彫りになった。同社の責任は重大だ。

海上保安庁は業務上過失致死などの疑いで船長の立件を視野に入れている。会社側の責任についても調べを尽くす必要がある。

会見で桂田氏は当日朝、船長から午後に天気が荒れる可能性があるが出航可能との報告を受けたとし、「風と波が強くなかったので出航を決定した」と述べた。しかし、出航前にすでに強風と波浪の注意報が出ていた。

出航の基準となる波高や風速などの数値は各事業者が海上運送法に基づき作成する安全管理規程に明記され、違反には罰則もある。国土交通省によると、基準が超えると予想される場合も出航できない定めだ。桂田氏らの判断はこれに反していた可能性がある。

一度明示した出航基準の数値を後で「数字はない。経験則だった」と翻す不可解な場面もあった。桂田氏は、海が荒れれば船長判断で引き返すとの「条件付き」で出航を認めたとも説明した。だが、それが認められれば出航基準は意味をなさない。国交省は「安全管理規程上そういう考え方はない」と否定している。

以前から桂田氏は船長らに荒天時でも出航するよう強引な指示を出していたとする証言もある。

船長の現場海域での経験不足を指摘する関係者もいる。ただ、そもそも船長が常に適切な判断を下せる環境にあったのか疑問だ。

無線アンテナの故障を把握しながら出航を容認していたことも分かった。陸との連絡手段は命綱にも等しい。人命を預かる立場としてあってはならない判断だった。

ほかにも日常の安全管理などに関する疑問が解消されていない。国の指導や監督が行き届いていたかどうかの検証も欠かせない。

大型連休が始まった。久々に各地で多くの人出が見込まれる。コロナ禍で落ち込んだ売り上げの回復に観光地の期待は大きいだろうが、事業者は安全最優先を改めて肝に銘じてもらいたい。