ワクチン大失策は反面教師の誤算 古賀茂明

岸田内閣のコロナ対策 政治・経済

ワクチン大失策は反面教師の誤算 古賀茂明 (AERAdot. 2022/02/08 07:00)

新型コロナのオミクロン株感染爆発が続く中、日本ではワクチンの三回目接種率が5%にも達しない。5割前後の欧州など先進国に比べ、異常なまでの遅れだ。

その責任が厚労省にあるのは確かだが、私は、それ以前に、岸田総理が就任以来一貫して、菅義偉前総理の失敗を教訓にして同じ轍を踏まないことに腐心してきたことが裏目に出たと見ている。以下の3点が例証だ。

第一に、衆議院の解散総選挙を急いだこと。菅内閣発足当初の支持率は驚くほど高かった。即解散総選挙を行えば大勝利は確実だったが、菅氏はコロナ対策を優先して解散しなかった。そのため、昨秋の自民党総裁選が衆議院の任期満了直前となり、浮足立った議員たちが人気の落ちた菅氏を政権から追放してしまった。

この失敗を反面教師とした岸田総理は、総理就任後すぐに衆議院を解散し最短で選挙に持って行った。野党は虚を突かれ、小池百合子東京都知事による都民ファーストの国政進出も時間切れで不発に終わった。自民党は予想外の大勝。岸田政権の基盤は強化された。

しかし、当時は、解散よりもワクチン確保や接種体制整備を最優先すべき時期だった。選挙の時期を遅らせて、官僚に具体的指示を出しておけば、接種は前倒しでできていた可能性が高い。

第二は、官僚に寄り添う姿勢を見せたこと。岸田氏は温厚で官僚達に評判が良いが、逆に言えば馬鹿にされている。厚労省の医系官僚は、菅氏の言うことさえなかなか聞かなかいほどの曲者揃い。3回目接種を2回目から8カ月後としたり、遅れている自治体に合わせて全体の接種計画を遅らせたりしたのも全て彼らが岸田総理を甘く見たからだ。菅氏を反面教師として強権的官僚支配を改めたのが完全に裏目に出てしまったのだ。

第三は、閣僚人事。菅氏は、「仕事師内閣」を自任し、重要ポストに実力議員を就けた。特に、ワクチン担当相に任命した河野太郎氏は、EUとの激しい交渉でワクチン供給前倒しに成功。一日百万回の接種で第5波終息の原動力となった。

一方の岸田政権のワクチン担当相は、堀内詔子衆院議員。義父は富士急グループの総帥で、岸田派前身の宏池会会長も務めた大物政治家だったが、本人の実力はゼロだ

岸田総理は、自分よりも目立つ河野氏を活躍させて総裁候補に押し上げてしまった菅氏を反面教師として、実力者をワクチン担当にしなかったのだろう。その結果、ワクチン接種の加速化は今も見通しが立たない。

このように、岸田総理が菅前総理を反面教師としてきたことが、ワクチン接種については全て裏目に出ている。

ただし、ワクチン接種の遅れで社会経済機能が麻痺し、岸田内閣支持率が急落しても、第6波は夏前に収まり、補正予算などのバラマキ効果とリベンジ消費の効果で景気は一瞬回復するだろう。そこで参議院選挙となれば、自民党勝利は十分可能だ。

前任の菅氏がワクチン接種で予想外の前倒しに成功しながら、その成果が出るのが総裁選に間に合わず、政権を追われたのとは真逆。結果オーライである。

「菅さんは不運だったが、俺にはツキがある」

岸田総理の「涼しい顔」の裏にはそんな思い込みがあるのだろうか。

 週刊朝日  2022年2月18日号より