「安倍晋三が担ぐ高市早苗」が安倍派でものすごく嫌われる理由

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「安倍晋三が担ぐ高市早苗」が安倍派でものすごく嫌われる理由(小倉健一:イトモス研究所所長 DIAMONDonline 2021.11.23 4:42)より

「令和のキングメーカー」の異名を持つ安倍晋三元首相の覇権に波風が立ち始めている。その波乱要因の一つに、先の自民党総裁選で安倍氏が支持を表明した高市早苗・自民党政務調査会長の存在が挙げられる。党内最大派閥のトップに就いた安倍氏が、高市氏を安倍派に取り込むのではないかとささやかれるが、その高市氏が安倍派の中で「招かれざる客」として嫌われているからだ。(イトモス研究所所長 小倉健一)

「令和のキングメーカー」安倍元首相が迎える難局

歴代最長の長期政権を築き、自民党最大派閥「安倍派(清和政策研究会)」のトップに就いた安倍晋三元首相。首相退任後は「令和のキングメーカー」を謳歌できるかといえば、実はそう簡単ではない。

岸田文雄首相から距離を置かれはじめたことに加え、「ポスト岸田」をにらむ勢力から板挟み状態にあるためだ。そのハンドリングを誤れば、保守派の代表格といえども求心力を失いかねない難しい局面を迎える。

「世界の真ん中で輝く日本を次の世代に引き渡していくために、党内最大の政策集団として皆さんとともに、その責任を果たしていく」

細田博之元官房長官の衆議院議長就任に伴い9年ぶりに派閥に復帰し、党内最大派閥の新会長に就いた安倍元首相。11月11日には、自民党が党是とする憲法改正や外交・安全保障政策などの分野で自らが中心となって牽引することに強い意欲を示した。

先の総選挙で数を減らしたとはいえ、所属議員が90人を上回る安倍派は、麻生太郎党副総裁が率いる第2派閥の麻生派(志公会)の2倍近い勢力を誇る。第5派閥となった岸田派(宏池会、42人)会長の岸田氏からすれば、政権運営の安定のためには無視できない一大勢力だ。

安倍氏も「われわれ、最大の政策グループですから当然、岸田政権をしっかりと支えていく背骨でありたいと思っています」と派閥の勢力を背景に影響力を誇示することを忘れない。

安倍元首相に吹く逆風 甘利氏は失脚、岸田首相とすきま風…

9月の自民党総裁選では、岸田新総裁誕生の立役者として麻生氏や甘利明前党幹事長とともに「3A」と評され、安倍氏は「令和のキングメーカー」の異名を持った。盟友の2人がそれぞれ党内で副総裁、幹事長に就任し、党役員・閣僚人事や政策面で絶大な影響力を保持できるとの計算が働いていたに違いない。

だが、安倍氏が強く期待した萩生田光一氏(経済産業相)の官房長官起用や高市早苗氏(党政調会長)の幹事長抜擢という人事案はことごとく岸田首相に採用されず、甘利氏の幹事長辞任で岸田政権とのパイプも細くなった。宏池会の流れをくむ麻生派と岸田派などが合流する「大宏池会」構想が実現し、安倍派に匹敵する勢力が誕生すれば、安倍氏の優位性は脅かされかねない状況を迎えることになる。

11月17日、安倍氏は「すきま風」が吹いている岸田首相を衆院議員会館の事務所に迎え入れ、外交や経済政策などについて約30分間の意見交換を行った。しかし、その6日前に菅義偉前首相が首相官邸に出向いて岸田首相から「厚遇」を受けたのとは対照的だ。

宏池会所属の中堅議員は「安倍氏はタカ派の代表格で、ハト派の岸田氏と本質的に合うはずがない。安倍氏が『党内最大、最大』というから、反目に回られない程度に岸田氏が出向いて行ったということではないか」と推し量る。2人の距離感はなかなか縮まりそうにはないのだ。

安倍元首相のもう一つの懸念材料 高市早苗氏の「処遇」

メディアに注目されてはいないものの、安倍氏にはもう一つの懸念材料がある。それは先の自民党総裁選で全面支援した高市氏の「処遇」である。

高市氏は政治信条が安倍氏に近い保守派の政策通で、自民党に入党後は清和会に属していた。だが、2011年に当時の町村派(町村信孝会長、現安倍派)を退会し、以降は派閥に属さない姿勢を貫いている。

退会の理由については、同じ清和会の仲間だった山本一太・現群馬県知事が12年1月22日のブログで「理由は極めて明快。『派閥内で、次の総裁選挙に町村会長を擁立しようという流れがある。町村氏を応援するつもりはないので、迷惑をかけないうちに辞めた』ということだ。いかにも、高市さんらしい!」と明かしている。

12年の党総裁選は安倍氏が再登板することになる選挙で、清和会からは町村会長と安倍氏の2人が立候補するという異例の展開となったことは記憶に新しい。自民党ベテラン議員が語る。「高市氏は思い込みが強く、自分で『こうだ!』ということは引かない。町村派を出ていった時は『後ろ足で砂をかけた』とみんな怒って、そのしこりは残っている。最大派閥を二分した戦いが再び起きなければいいけどね」。

自民党内でささやかれるのは、安倍氏の新会長就任に伴い、高市氏を清和会に復帰させるのではないかということだ。多くが太鼓判を押すような宰相候補が見当たらない安倍派にとって、先の総裁選の国会議員票でトップの岸田氏に次ぐ114票を獲得した高市氏の派閥復帰は本来ならば歓迎されることではある。

総裁選での敗戦後、「私は歩みを止めません」と語った高市氏の「次」を見据えた意欲も並々ならぬものだ。

高市氏が「招かれざる客」として 安倍派で嫌われる理由

だが、安倍派には総裁選への立候補を目指したことがある稲田朋美元防衛相と下村博文元文部科学相の2人が所属している。萩生田光一経産相も派閥内で将来を期待されている1人だ。

ここに高市氏が復帰し、「ポスト岸田」候補として位置付けられることになれば、一貫して清和会で汗を流してきた他の「候補予定者」の意欲は大きく削がれることになる。町村派退会の経緯もあるだけに「絶対に反対する」と断言する議員もいるほど。いわば高市氏は招かれざる客なのだ。

今回の自民党総裁選では、自ら多くの国会議員らに電話する「安倍フォン」などで高市氏を全面支援した安倍氏。岸田氏とは距離が生じ、派閥内で力を付けるポスト岸田の「候補予定者」たちも齢を重ねていく中、3年後に予定される総裁選では誰を担ぐことになるのか。令和のキングメーカーの憂鬱は簡単には消えそうにない。

小倉健一

イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。