東京五輪・パラリンピックのレガシーは、てんこ盛りの「不祥事と疑惑」

東京オリンピック・パラリンピック2021年 社会

東京オリンピック・パラリンピックが2021年7月23日から始まった。

8年前、2020年オリンピックが東京に決まった瞬間、多くの国民は歓喜に沸いたに違いない。しかし、その後、トラブルや不祥事や疑惑が次々に露呈し、大会関係者はその対応に追われた。開会前日にも開閉会式ディレクターの小林賢太郎氏を解任せざるを得ない事態だ。

主な不祥事と疑惑をまとめてみた。

感動と勇気と希望を与える東京オリンピック・パラリンピックとして記憶されるのか、それとも不祥事と疑惑のレガシーを歴史に刻むのか。これ以上、負の出来事が出てこないことを望む。

東京五輪・パラリンピックは、安倍首相の大うそから始まった

2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック招致を目指して、2013年9月7日、オリンピック東京招致委員会が、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会で最終プレゼンテーションを行った。東京都の猪瀬直樹知事や、現役アスリート・フェンシングの太田雄貴選手、陸上の佐藤真海選手、そして安倍晋三首相などが発表を行った。(肩書きは当時)

プレゼンテーションはいずれも聞く人の心を魅了する感動的な内容だった。しかし安倍首相の発言には大うそが含まれていた。世界が心配していた ”Fukushima” に関して ”under control” と言い放ったのである。

Mister President, distinguished members of the IOC…
It would be a tremendous honor for us to host the Games in 2020 in Tokyo – one of the safest cities in the world, now… and in 2020.
Some may have concerns about Fukushima. Let me assure you,
the situation is under control. It has never done and will never do any damage to Tokyo. I can also say that, from a new stadium that will look like no other to confirmed financing, Tokyo 2020 will offer guaranteed delivery.
I am here today with a message that is even more important. We in Japan are true believers in the Olympic Movement

(日本語訳)

委員長、ならびにIOC委員の皆様、東京で、この今も、そして2020年を迎えても世界有数の安全な都市、東京で大会を開けますならば、それは私どもにとってこのうえない名誉となるでありましょう。

フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。

さらに申し上げます。ほかの、どんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が、確証されたものとなります。

けれども私は本日、もっとはるかに重要な、あるメッセージを携えてまいりました。 それは、私ども日本人こそは、オリンピック運動を、真に信奉する者たちだということであります。

当時はもちろん「アンダーコントロール」と言える状況ではなかったが、事故から10年経った今もなお廃炉作業の見通しが立たず、日々水量を増す汚染処理水の問題も決着していない。

東京オリンピック・パラリンピックは、安倍首相による世界への偽証発言から始まった。

竹田IOC会長による招致を巡る贈収賄疑惑

2016年5月12日、フランス検察当局は、日本の銀行から2013年7月と10月に2020年東京オリンピック招致の名目で、国際陸上競技連盟(IAAF)前会長のラミン・ディアク氏の息子に関係するシンガポールの銀行口座に、「東京2020年五輪招致」という名目で約2億2300万円の送金があったことを把握したとの声明を発表した。

これを受け、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、5月13日、自ら理事長を務めていた東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(2014年1月に解散)としての支払の事実を認めた上で、「正式な業務契約に基づく対価として支払った」などと説明した。

フランス裁判所の予審判事は本格捜査に乗り出し、2018年12月10日、竹田氏はパリで予審判事の事情聴取に応じた。

2019年3月19日、竹田JOC会長は東京都内で開かれた理事会で、6月27日の任期満了で理事を退任する意向を表明した。後任として、同常務理事で全日本柔道連盟会長の山下泰裕氏が就任した。

新国立競技場 一旦決定したザハ・ハディド氏案は白紙撤回

2012年11月、東京五輪の開催予定会場として、新国立競技場のデザイン国際コンペティションが行われた。そこで選ばれたのがイラク出身でイギリスを拠点として活動する女性建築家ザハ・ハディッド氏(2016年3月31日亡、享年65歳)だった。

8万人収容で、完成予定は19年3月、総工費は1300億円程度とされていた。

ところが、設計段階で工費が約3500億円まで膨らみ、政府は計画を縮小。2014年に規模を縮小。1625億円の予算とされたが、2015年になって2520億円に工費が膨らむことがわかり、同年7月、安倍首相が白紙撤回を表明した。

ザハ・ハディド氏の当初案
ザハ・ハディド氏の修正案

その後、急遽、デザインを公募したが、応募があったのはデザイン=隈研吾氏・施行=大成建設とデザイン=伊東豊雄氏・施行=竹中工務店・清水建設・大林組による2案だけだった。その中から、「木と緑のスタジアム」を主なコンセプトにした隈案が選ばれた。

2019年11月に完成。2019年12月にオープニングイベントが行われ、スポーツイベントとしてのこけら落しは2020年1月1日にサッカー天皇杯が開催された。

約6万の観客席は5色でモザイク状に彩られた。周辺を含めた整備費は1569億円だった。

新国立競技場_上から
新国立競技場_正面

東京オリンピックエンブレムはパクリだった?

2015年7月、大会組織委員会は大会のシンボルマークとなる五輪公式エンブレムを発表した。

五輪とパラリンピックの2種類で、多様性を示す黒と、鼓動を表す赤の円が特徴的なシンプルなデザインで、五輪は東京(Tokyo)などの頭文字の「T」、パラリンピックは平等を表す記号の「=(イコール)」をイメージしたものだ。

デザインを制作したのはアートディレクターの佐野研二郎氏で、104件の応募作品から選ばれた。

しかし、発表直後から、ベルギーのリエージュ劇場のロゴマークなどと「似ている」とネット上で話題になった。

佐野氏は指摘に対して「作品は全く知らない」とコメント。記者会見でも「全くの事実無根」と盗作疑惑を否定した。組織委やIOCも「問題ない」という見解を示した。

だがその後、インターネット上には佐野氏の他の作品も含め「似ている」との声が満ちあふれた。

組織委は記者会見で、盗用はなかったという見解を示した上で、佐野氏から取り下げの提案があったと説明。「国民の理解を得られない」として撤回を決めた。

エンブレムを新たに公募した。前回は、複数のコンテストでの受賞歴などを条件にしたが、今回は条件を緩和したため、1万4599件の大量の応募となった。エンブレム委員会で審査を重ね、最終候補を4作品に絞り、公開した国民から意見を求めた上で、最終審査を行い1作品を選んだ。

選ばれたのは、市松模様をモチーフにしたデザイナー野老朝雄(ところ あさお)氏の作品「組市松紋」。

江戸時代に「市松模様」として広まったチェッカーデザインを、日本の伝統色の藍色で粋な日本らしさを表現した。また形の異なる3種類の四角形を組み合わせたデザインを取り入れ、国や文化、思想の違いを乗り越えてつながり合うという意味を込めた。「多様性と調和」というメッセージを込めて、オリンピック・パラリンピックが多様性を認め合い、つながる世界を目指す場であることをアピールしたいとしている。

大会の華、マラソン競技は東京から札幌へ

真夏の東京は猛暑。そのような炎天下でのマラソン競技はそもそもが無理。1964年の東京オリンピックが10月に開かれた理由は暑かったからだ。最近はもっと暑い。

2019年10月、国際オリンピック委員会(IOC)が突然、猛暑対策で、マラソンと競歩のコースを東京から札幌に移すよう、大会組織委員会や東京都などに提案すると発表した。

移転のきっかけは、2019年9~10月に中東カタールの首都ドーハで行われた陸上の世界選手権だった。暑さ対策で異例の深夜レースになったが、気温30度超、湿度70%超の条件で女子マラソンは出場68人中、大会史上最多の28人が途中棄権した。IOCは、選手が次々と倒れて運ばれるシーンが東京で再現されることを恐れ、これまで一度も表立って議論されたことのない札幌移転を決めたのだった。

マラソンは大会の華である。11月の調整委員会で開催地が変更され、東京都の小池百合子知事は「合意なき決定」と残念な表情を浮かべた。

東京コース
札幌コース

そもそもは、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が2013年1月、国際オリンピック委員会本部に提出した「立候補ファイル」に問題の記述がある。

立候補ファイル 第1巻の13ページに、「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である。また夏季休暇に該当するため、公共交通機関や道路が混雑せず、ボランティアや子供たちなど多くの人々が参加しやすい。」とある。

安倍首相(当時)の「アンダー コントロール」、立候補ファイルの「理想的な気候」など、オリンピックを誘致するためなら、どんな嘘でも許されるというのか。

森喜朗組織委員長が女性蔑視発言で辞任

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が2021年2月の日本オリンピック委員会臨時評議員会で、

「女性理事を選ぶってのは、文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。」

「女性っていうのは優れているところですが、競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。」

などと、女性蔑視の発言を行った。すぐに批判の声が上がり、翌日、謝罪し撤回したが、批判は収まらず、森氏は会長辞任に追い込まれた。海外からも批判の声が相次いだ。

開閉会式の企画・演出の統括責任者が、「オリンピッグ」を提案

東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の企画、演出で全体の統括役を務めるクリエーティブディレクターの佐々木宏氏が、式典に出演予定だったタレント、渡辺直美さんの容姿を侮辱するような内容の演出を、昨年、関係者にLINEで提案していたと、文春オンラインが2021年3月に報じた。

渡辺直美さんにブタの仮装をさせ、「オリンピッグ」として登場させるというアイデアだ。「オリンピック」と「ピッグ=ブタ」をかけた演出プランに、女性メンバーが「容姿のことをその様に例えるのが気分よくないです」と投稿。他の男性メンバーからも「眩暈がするほどヤバい」と反対の声があがり、提案を撤回したという。

文春報道を受けて、佐々木氏は辞任した。

彼は電通出身のCMクリエイターで、これまで缶コーヒーBOSSの「宇宙人ジョーンズ」シリーズやソフトバンクの「白戸家」シリーズなど、数多くのヒット作を生み出してきた人物だ。2016年リオデジャネイロ五輪の閉会式では東京大会の「予告編」映像を発表、当時の安倍晋三首相が「スーパーマリオブラザーズ」のキャラクターにふんして土管から登場する演出で世界を驚かせた。

新型コロナウイルスで1年延期、そして無観客開催

2020年3月、4か月後の7月24日から始まる予定だった東京オリンピックの主催者たちは、新型コロナウイルスのパンデミックへの配慮から、開催を「1年程度」延期することで合意した。

安倍首相によると、「開催国・日本として、現下の状況を踏まえ、世界のアスリートの皆さんが最高のコンディションでプレーでき、観客の皆さんにとって、安全で安心な大会とするため、おおむね1年程度延期することを軸に検討していただけないか」とバッハ会長に提案した。これを受けてバッハ会長は「100%同意する」と答えたと首相は話した。「遅くとも2021年夏までに開催する」ことで合意を得たという。

近代オリンピックの124年間の歴史で、世界大戦の戦時中だった1916年と1940年、1944年に開催が中止されたことはあっても、開催が延期されるのは今回が初めて。

2021年に入ってもコロナ感染は収まらず、オリンピックに関する国内の世論は、中止、再延期が多数を占めたが、最終的には、東京が緊急事態宣言が発出される中での無観客開催となった。

小山田圭吾氏、障がいのある生徒に凄惨ないじめ

大会が間近に迫った2021年7月15日、小山田圭吾氏が東京オリンピック・パラリンピックの開会式で楽曲担当を務めることが発表された。すぐさまネットで炎上。19日には辞任に追い込まれた。

問題となったのは、1994年1月号の『ロッキング・オン・ジャパン』と1995年8月号の『クイック・ジャパン』に掲載された小山田氏のインタビュー記事だ。

中学校、高校時代の生活について、同級生だった障がいのある生徒をいじめていたことを、まるで自身の武勇伝かのように語っていた。

「掃除ロッカーの中に閉じ込めて、ふたを下にして倒した。泣き叫ぶのでロッカーをガンガン蹴飛ばした。」(中学)
「修学旅行のとき、全裸にしてグルグルに紐を巻いてオ○○ーをさせた。」(中学)
「ウ○○を食べさせたうえにバックドロップをした。」(中学)
「パンツを脱がせて女子生徒のいる廊下を歩かせた」(高校)

もはやいじめを通り越して犯罪とも言える行為を障がいのある同級生に行っていたというのだ。しかし、当の本人はまったく反省していなかった様子で、インタビュー中では、

「この場を借りてお詫びします(笑)」

などと笑い交じりに謝罪をしていた。それどころか、後のインタビューでは、雑誌の編集者にいじめていた同級生の名前を教え、「対談企画」を行うために自宅を直撃させていた(対談は実現しなかった)。

炎上当初は続投を表明していた組織委員会と小山田氏だが、ネットを中心に批判が沸き上がり、海外でも報道される異例の事態に。そして19日、小山田は自身のツイッターで辞退を表明した。

知的障害者や家族らで作る「全国手をつなぐ育成会連合会」は「虐待、暴行と呼ぶべき所業」などとする声明を公表。小山田氏の辞任を受け、同会の又村あおい常務理事は20日、「辞任で終わりではなく、小山田氏と大会組織委員会には今後も丁寧な説明を求めたい」と話した。

五輪開閉会式ディレクターの小林賢太郎氏を解任

東京オリンピック大会組織委員会は開会式の前日、7月22日に、開閉会式のディレクターを務める小林賢太郎氏を解任したと発表した。小林氏は演出全体の調整役を務めていた。

小林氏はお笑いコンビ「ラーメンズ」として活動し、現在は舞台作品などの企画・脚本を手がけている。ラーメンズ時代のコントで「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」と発言した動画がインターネット上で拡散し、批判が集まっていた。

組織委は同日、「過去に、歴史上の痛ましい事実を揶揄するせりふを使用していたことがわかった」と解任の理由を説明した上で、「開会式が目前に迫る中、このような事態となり、多くの関係者、都民・国民の皆さまにご迷惑・ご心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます」とするコメントを出した。

この問題を巡っては、米国のユダヤ人人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」が21日、小林氏が過去に「ナチスによるユダヤ人虐殺をネタにしたコントを披露していた」として、非難する声明を出していた。

団体は「どんな人にもナチスの大量虐殺をあざ笑う権利はない。この人物が東京五輪に関わることは600万人のユダヤ人の記憶を侮辱している」としている。