小池知事は「緑増える」と言うけれど…神宮外苑の樹木伐採に「天然のクーラー減らし、ストーブ作るのか」と懸念の声

明治神宮外苑で6月5日に開かれたデモ 社会

小池知事は「緑増える」と言うけれど…神宮外苑の樹木伐採に「天然のクーラー減らし、ストーブ作るのか」と懸念の声(東京新聞 2022年7月1日 06時00分)

1000本近い樹木伐採の可能性がある明治神宮外苑地区の再開発について、小池百合子知事をはじめ東京都は「新たな植樹などで緑は増える」と繰り返し説明している。樹齢100年級の巨木が切られ、代わりに植えるのは若木のため、木の本数は増えてもボリュームは減り、緑の質は大きく変わる。記録的な猛暑が続く中、「ヒートアイランドは強まって外苑の気温は上昇する」などと専門家からは反発する声が上がる。

小池知事「伝わってないようですけど…」

明治神宮外苑の樹木伐採
新宿区都市計画審議会の資料によると、再開発エリアの約1900本のうち約900本を伐採。新たに1000本近くを植え、合計樹木は1972本となる。伐採する樹木の大半は外苑の創建時に植えたとみられ、文化的、歴史的価値の観点などから「新たに植えても代えは利かない」との批判が起きた。東京都の環境影響評価の資料によると、計画地内に新たにつくられる緑地の面積の62%は屋上緑化(高さ2メートルほどの低木)で、26%は芝生。残りは高さ4メートルの樹木が8%、8メートル程度の木は4%にとどまる。このため再開発後に緑地の面積は2割弱増えるが、体積は約1割減る見通し。

「1000本切り倒すみたいな話しか伝わってないようですけど間違いです。約1900本から約2000本へ増える計画になっています」。小池氏は5月27日の会見で事業者の計画に理解を示した。都の上野雄一技監(当時)も2月の都議会で「今回の計画は従来よりも緑の量を増加させるなど緑を充実強化し、緑を保全する」と答弁。これが樹木伐採に対する都側の見解だ。

「100年の大木と若木ではレベル違う」

樹木の生態に詳しい千葉大の藤井英二郎名誉教授(環境植栽学)は周辺を涼しくする樹木の冷却効果に着目し「100年の大木と、新たに植える若木ではレベルが全然違う。緑の持つ効果は増えるどころか、確実に損なわれる」と反論する。

木陰は直射日光を防ぐ。夏場のアスファルトの路面温度は50度を超えることもあるが、木陰では20度ほど下がる。加えて、樹木は表面が温められると葉から水蒸気を放出、その際に周囲の熱を奪う特性がある。こうした樹木の性質がヒートアイランドの緩和に役立つ。木が大きい方が効果も大きくなる。

藤井氏によると、深刻化する温暖化から都市を守るため、欧米では高木の枝や葉(樹冠)が覆う緑陰の面積を引き上げることに腐心している。「新しく植えても樹冠は大きく縮小する。本数を確保すればいいというのは、国際的標準からずれた発想だ」という。

ヒートアイランドに詳しい東京都立大の三上岳彦名誉教授(都市気候学)も小池氏の発言を「新しく植えた木が、今の木と同じ冷却効果を発揮するのは100年後」と疑問視する。外苑の再開発では高層ビルを建てるが、コンクリートは熱をため込み、ビルの空調設備の排熱などで都市を温めるためヒートアイランドの一因になる。「天然のクーラーを減らしてストーブを作るようなもの。再開発で外苑地区の気温は上がるはずだ」と推測する。

東京は100年で3度上昇、世界平均の4倍

樹木が周辺を冷やす効果は専門家によって確認されている。東京都立大の三上岳彦名誉教授らの調査によると、都心で20ヘクタールほどの緑地なら、周辺と比べ平均2度、最大4度ほど低くなる。夜間に緑地で造られた冷気はにじみ出すように広がり、周辺市街地を冷やすことも分かっている。

明治神宮外苑の再開発エリアの緑地は分散し、それほど大きくはないが、ある程度の緑の固まりがあれば冷気をつくり出す効果はあるという。

緑地の冷却効果が思わぬ形で証明されたのが2014年の気象庁の観測地点の移転だ。「東京」として発表している気象データの観測地点を大手町のオフィス街から900メートル離れた北の丸公園に移すと、年平均気温は0.9度下がった。その結果、「東京」の熱帯夜は急減。移転前3年と移転後3年の平均を比べると、年39日から18日へ半分以下になった。

都市のヒートアイランド対策では、こうした緑地のような「クールアイランド」を増やし、つくられた冷気を風で拡散させることがポイントになる。風の通り道を邪魔しないよう、建築物を配置することも重要で、都市計画を担う行政の役割は大きい。

東京では2010年までの100年で約3度気温が上昇。世界平均の4倍で突出しているという。「史上最も暑い」と言われた東京五輪・パラリンピックでも暑さ対策が問題になり、対策として都などは街路樹の木陰の活用も検討していた。だが、今回の再開発では木が切られる上、新築の高層ビルは多くの熱を排出するだけではなく、東京湾からの風を阻む懸念もある。

韓国・ソウル市の中心部を流れる清渓川は地下水路となっていたが、市は05年に上を走る高速道路を撤去し、小川として再生。ヒートアイランド対策に役立っているという。三上氏は「やるべきはコンクリートを壊して緑を植えるような政策で、木を切ってビルを建てるような事業は先進国では珍しいのではないか」と述べる。

樹木の伐採などに伴う外苑の自然環境の変化を巡っては、紛糾している東京都の環境影響評価(アセスメント)の審議でも、事業者側が「新たな緑地を創出することで(中略)動植物の生息環境は維持保全される」と文書で説明。専門家の委員が「質が変わるのだから基本的には維持はされない」とただす一幕もあった。

事業者は樹木のほかにも緑化を進め、緑の面積は再開発後の方が増えるとしているが、アセスの提出資料によると、新しく植えるもののうち面積が大きいのは芝生や屋上緑化の低木で、緑の体積は減る見通しだ。