五輪の片棒を担ぐ全国紙はダンマリ、信濃毎日新聞は堂々と「社説」を述べた
IOC“ぼったくり&はったり男爵”コンビを支えるだけの全国紙たち 「論」を述べた地方紙とスポーツ紙の気概(プチ鹿島 文春オンライン 2021年5月25日)より抜粋
朝日新聞はオピニオン欄で次の批評を載せた。
『ジャーナリズムの不作為 五輪開催の是非 社説は立場示せ』(山腰修三のメディア私評・5月14日
ジャーナリズムの不作為とはメディアが報じるべき重大な事柄を報じないことを意味する。「高度経済成長の時代に発生した水俣病問題は当初ほとんど報じられなかった」。
今はそれが東京五輪の開催の是非をめぐる議論ではないか?と問うているのだ。
《5月13日現在、朝日は社説で「開催すべし」とも「中止(返上)すべし」とも明言していない。(略)社説から朝日の立場が明確に見えてこない。内部で議論があるとは思うが、まずは自らの立場を示さなければ社会的な議論の活性化は促せないだろう。》
この批評を載せたあとも朝日の社説は応えていない。皮肉だ。
そんななか5月23日の日曜、ある地方紙の社説が注目を集めた。
『東京五輪・パラ大会 政府は中止を決断せよ』(信濃毎日新聞)
この社説はSNSでも話題を呼んだ。
《病床が不足し、適切な治療を受けられずに亡くなる人が後を絶たない。医療従事者に過重な負担がかかり、経済的に追い詰められて自ら命を絶つ人がいる。7月23日の五輪開幕までに、感染状況が落ち着いたとしても、持てる資源は次の波への備えに充てなければならない。》
そして、
《東京五輪・パラリンピックの両大会は中止すべきだ。》
信濃毎日新聞の社説になぜ多くの人が注目したのか。開催中止を訴えたからだろうか?
いや、新聞社として堂々と「論」を述べたからだと私は考える。開催賛成の新聞社はその理由を明確に訴えればよい。言論機関として賛否が分かれる案件をどう考えるのか。「答えはイエスだ」でいいのか。五輪スポンサーとしてずっとムニャムニャしているのか。カネは出すが口も出すではダメなのか。
五輪の片棒を担いだ全国紙はダンマリで、地方紙のほうがきちんと言論を放つ。スポーツ紙のコラムのほうが元気。
〈社説〉東京五輪・パラ大会 政府は中止を決断せよ
〈社説〉東京五輪・パラ大会 政府は中止を決断せよ(信濃毎日新聞 2021/05/23 09:18)より
不安と緊張が覆う祭典を、ことほぐ気にはなれない。
新型コロナウイルスの変異株が広がる。緊急事態宣言は10都道府県に、まん延防止等重点措置も8県に発令されている。
病床が不足し、適切な治療を受けられずに亡くなる人が後を絶たない。医療従事者に過重な負担がかかり、経済的に追い詰められて自ら命を絶つ人がいる。
7月23日の五輪開幕までに、感染状況が落ち着いたとしても、持てる資源は次の波への備えに充てなければならない。
東京五輪・パラリンピックの両大会は中止すべきだ。
・・・
12日現在の自宅療養者は全国で3万4537人を数える。医療機関以外で亡くなる事例を、政府は把握しきれていない。
医療体制の逼迫は、8割を占める民間病院が感染者を受け入れないからだ、と指摘される。それは国が医療費の抑制を目的に政策誘導し、感染症の指定病院や病床を減らしてきた結果だ。
民間の医療機関と役割を分担し自宅療養から入院まで、容体の変化に即応できる態勢構築に、急ぎ取り組まなくてはならない。
ワクチン接種の足取りは鈍い。予防効果が高まるとされる「集団免疫」の獲得はおろか、開幕の時期までに高齢者への接種を終えるめども立っていない。
この状況で政府は、五輪・パラのコロナ対策を打ち出した。選手の健康状態や行動履歴を管理する「保健衛生支援拠点」を都内に設置。選手村には、24時間運営の発熱外来、検査機関を置く。
1万5千人の選手には毎日、8万人近くを見込む大会関係者にも定期的に検査を実施する。両大会を通じて延べ7千人の医療従事者を確保し、30カ所の大会指定病院も整備するという。
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菅義偉政権は地域医療への影響を否定するけれど、医療従事者を集められるなら、不足する地域に派遣すべきではないのか。検査も満足に受けられない国民が「五輪選手は特権階級なのか」と、憤るのも無理はない。
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コンパクト五輪、復興五輪、完全な形での開催、人類が新型コロナに打ち勝った証し…。安倍晋三前首相と菅首相らが強調してきたフレーズは、いずれもかけ声倒れに終わっている。
「国民みんなの五輪」をうたいながら、当初の倍以上に膨らんだ1兆6440億円の開催費用の詳細を伏せている。
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菅首相は大会を「世界の団結の象徴」とする、別の“理念”を持ち出した。何のための、誰のための大会かが見えない。反対の世論は収まらず、賛否は選手間でも割れている。開催に踏み切れば、分断を招きかねない。
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国会で首相は「IOCは既に開催を決定している」と、人ごとのように述べていた。感染力の強いインド変異株がアジアで猛威をふるい始めている。コロナ対応を最優先し、出口戦略を描くこと。国民の命と暮らしを守る決断が、日本政府に求められる。
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