高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ なぜコメの価格は下がらないのか…解決策は単純だ

なぜコメの価格は下がらないのか 政治・経済

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ なぜコメの価格は下がらないのか…解決策は単純だ(J CAST 2025.04.24 17:00)

農林水産省は2025年3月から備蓄米計21万トンを放出している。4月23日から追加で10万トンを放出し、今後も端境期(7月)まで継続的に放出を続ける方針だ。ただし、集荷業者からの1年以内に同量を買い戻すとしている。

意味のないことに補助金をつけてコメの生産を抑える

そもそも経済学では価格は需給関係で決まる。これを応用すると、米の価格上昇について、供給減少となる減反政策が基本的な原因だ。農水省はコメから麦や大豆に転作した農家に補助金(水田活用の直接支払交付金)を出し、コメの生産を抑えている。減反は人為的な生産調整であるので、需要の僅かな変動にも耐えられない。これまでの世界の歴史をみても、官僚機構が市場の価格機構を代替できたことはない。わざわざ意味のないことに補助金をつけるので、無駄の極致だ。この減反政策でコメの生産は毎年13万トン程度減少している。

今回、政府は備蓄米を放出する。これは一時的な供給増だが、1年以内に買い戻しをするので、いずれ元に戻る。となると、需給のバランス崩れは基本的に解消しないので、中間業者は値上がりを期待し、買い付け行動をする。これらが今般の値上がりの基本的な要因だ。

放出は買い戻し条件なしで50万トン以上、事実上の減反やめるべき

大学初級の経済学を使って、農水省のデータから経済分析をしてみよう。米の需要量と生産量の差額が供給に対してどの程度あるのかを超過需要率というが、それと米の価格上昇率の間にはきれいな関係がある。2010~2024年で見ると、0.86という高い相関がある。もちろん、経済理論からこれは因果関係を示し、超過需要になれば価格が上がり、超過供給になれば価格が低下することを示している。

この関係において、21万トンの備蓄米の放出がどの程度の効果を持つか。供給が増えることで超過需要率は3%程度減少するので、本来であれば価格は15%程度低下するはずだ。もちろんこれはあくまで理論上の話だ。値上がり期待があれば、中間業者は売り惜しむし、そもそも20~30万トンでは量が足りない。店頭に並ぶ備蓄米の少なさからも分かるが、さらに価格を劇的に低下させるためには、少なくても50万トン以上を買い戻し条件付きでなく放出すべきだ。

その上で、事実上の減反をやめるべきだ。その際、これまでの転作奨励金は農家への個別補償に回したらいい。コメの供給能力は増え、国内需要を賄った上で輸出が増えるだろう。それが国内の価格対策と輸出競争を生かす道だ。

高橋洋一(たかはし よういち) 

元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。