小泉進次郎が首相になったら「日本、終わるんじゃないかと思います」…自民党で噂される、10人の総裁候補《本当の評価》

自民党内権力抗争、現在の勝者は岸田首相 政治・経済

小泉進次郎が首相になったら「日本、終わるんじゃないかと思います」…自民党で噂される、10人の総裁候補《本当の評価》(現代ビジネス 2024.08.28)

清水克彦 政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授

石破氏と小泉氏を追う「団子レース」

「私の目標は、強い中間層をつくることだ」

これは、8月22日、アメリカのカマラ・ハリス副大統領(59)が、大統領候補として臨んだ民主党大会で最も熱く訴えた言葉だ。

場所は、アメリカ中西部、イリノイ州シカゴ。ハリス氏は、全米から集まった2万人の代議員や関係者を前に、「分断と決別し、前に進むため新たな道を切り開く」と強調した。

ハリス陣営の政策を見れば、分断との決別も、中間層への支援や物価の安定も、そのほとんどがバイデン政権時代を踏襲したもので、真新しさは全く感じない。

しかし、筆者は、ハリス氏の大統領候補指名受諾演説をテレビ中継で見ながら、「この熱量、この姿勢こそ、次期自民党総裁、ひいては日本の首相に必要なものだ」と強く感じた。

その自民党総裁選挙は、小林鷹之前経済安保相(49)、石破茂元幹事長(67)、河野太郎デジタル相(61)をはじめ、林芳正官房長官(63)、小泉進次郎元環境相(43)、高市早苗経済安保相(63)、さらに茂木敏充幹事長(68)、上川陽子外相(71)、齋藤健経済産業相(65)、加藤勝信元厚労相(68)と最大で10人が名乗りを上げそうな状況が続いている。

「意外と言えば失礼だが、茂木さんがかなり(推薦人を)集めていると聞いた。林さんや上川さんに関しては、現役閣僚だから、台風への備えとか外交日程があって出馬表明には至っていないけど、20人は確保できているんじゃないかな。あとは推薦人がうち(旧岸田派)だけという形にしないようにしているというか…」(旧岸田派衆議院議員)

「10人の中では、石破さんと小泉さんが少し抜けているかなと思う。でもね、1回目の投票(自民党所属国会議員367票+地方票367票)で過半数を超える人はいないだろうから、決選投票になって、国会議員票のウエイトが高くなり、2位3位連合とか、それこそ2位4位5位6位連合みたいな動きが出ると、わからないね」(無派閥衆議院議員)

筆者が取材した限りでは、最初に手を上げた「コバホーク」こと小林氏は、真面目すぎる出馬会見が災いして拡がりに欠けている。高市氏も、安倍元首相が支援した前回と比較すれば、保守層をまとめきれていない。

現状で言えば、各メディアが世論調査で示すとおり、国民的人気が高い石破氏と小泉氏が先行し、それを高市氏ら他の候補が追うという構図で、9月12日の告示日(投開票は同27日)を迎えることになりそうだ。

じつは議員会館内も戦争中

確かなことは、誰が勝っても、「新政権発足」というご祝儀相場があるうちに衆議院の解散・総選挙(最速で10月29日公示、11月10日投開票)に踏み切る可能性が高いことだ。

それだけに、「自分の選挙の応援に来て欲しい人」に票が流れることも予想されるが、自民党の国会議員や全国の党員諸氏には、「政治とカネの問題に踏み込めているか」をはじめ、アメリカ大統領選挙ばりに、「中間層への支援策はどうか」「物価安定策と景気対策はしっかりしているか」、さらには、「アメリカ、中国、ロシアなどのトップと渡り合えるか」という観点から1票を投じてほしいものだ。

「必要なのは刷新感ではない。本当に刷新されたかどうかだ」(8月24日、鳥取県八頭町での石破氏の出馬表明)

「小泉さんがトランプさんやカマラ・ハリスさん、習近平さんやプーチンさんと会談している様子がとても想像できない。日本、終わるんじゃないかと思います」(8月25日、ABEMA「ABEMA的ニュースショー」で宮沢博行前衆議院議員)

興味深いのは、閉会中で閑散としている国会裏の議員会館でも、衆参両院の自民党議員がそれぞれ支援する立候補者や立候補予定者の推薦人を確保しようと同僚議員に電話をかけ、同じような話をしていることだ。

候補者が10人いれば、それぞれ20人の推薦人もいて、合計200名の名前が公表される。当選者以外の推薦人になった180人は、新総裁(次期首相)の敵と見なされる恐れもあるため、自身の選挙、新内閣の人事などもにらんだ戦いがヤマ場を迎えている。

総裁候補「10人」のSWOT分析

筆者は前回、8月16日にアップした『現代ビジネス』の記事で、立候補者や立候補予定者に関する独自の辛口寸評を載せた。今回は、自民党議員への取材をもとに、各氏をビジネスシーンでよく使われる「SWOT分析(S=強み、W=弱み、O=機会、T=脅威)で分析しておく。

■立候補者

小林鷹之前経済安保相(49)

S=若さ、爽やかさ、華麗な経歴、刷新感もある。
W=「ChatGPT」と揶揄された刺さらない言葉、重要閣僚の経験がゼロで知名度不足。
O=旧二階派をはじめ旧安倍派や麻生派からも支援が見込まれる。
T=保守層は高市氏とかぶる、若さでは小泉氏に勝てない。
筆者評=「出ることに意義あり。もし負けても、次への大きなステップになる」

石破茂元幹事長(67)

S=防衛、農水など閣僚や党の要職を歴任。安全保障、農政に明るく財政健全化論者。
W=5度目の挑戦で刷新感に乏しく、党内不人気はこれまでと変わらず。
O=国民人気は依然として候補者でトップ。
T=1回目投票で1位でも決選投票で逆転される可能性が依然として残る。
筆者評=「鉄オタ、軍事オタを休止し、必死に軍資金を集めて最後の戦いに挑む」

河野太郎デジタル相(61)

S=「有事の今こそ、河野太郎」のキャッチは明快。経験豊富で裏金議員にも厳しい姿勢。
W=麻生派から離脱しないまま出馬。SNSの「ブロック」や「所管外」発言で人気低下。
O=派閥のトップ、麻生太郎副総裁(83)の理解も得て一定の支援が見込める。
T=前回のような「小石河連合」が組めない。主導した「マイナ保険証」も評判が悪い。
筆者評=「1回目の投票で2位に入ること。そうすれば、勝ち目が出てくる」

■推薦人にメドがついた立候補予定者

小泉進次郎元環境相(43)

S=若さ、どの議員も「選挙に応援に来てもらいたい」と思う知名度の高さ。
W=経験の少なさ、「進次郎構文は薄っぺらい」という印象がついてしまっている点。
O=菅義偉元首相の強い後押し。子育て中のパパで、デジタルや環境政策にも明るい。
T=「憲法改正」を掲げての出馬に唐突感。候補者討論会などでの発言しだい。
筆者評=「私が当落線上の国会議員なら小泉さんに入れて選挙の応援に来てもらう」

高市早苗経済安保相(63)

S=保守派の星。閣僚、党務ともに経験豊富。「女性」という新鮮度。
W=安倍元首相という後ろ盾がない。
O=ネット上で「ブレない高市さん」として人気。日中間で問題が起きれば注目度高まる。
T=タカ派のイメージ。マスメディアが前回ほど高市氏に注目していない。
筆者評=「党内支持は案外多い。ガラスの天井を打ち破る一番手は高市さん」

林芳正官房長官(63)

S=外相をはじめ閣僚経験豊富。支持議員からは「すぐにでも首相が務まる」の声も。
W=若い女性には快活に接するが、答弁や会見は話し方が地味で面白さに欠ける。
O=中国と太いパイプを持つ。岸田政権の政策を踏襲しやすい。
T=「政界屈指の親中派」がマイナスに働く危険も。
筆者評=「実はまだ63歳。次を狙えば、岸田首相にとってもベストだった」

茂木敏充幹事長(68)

S=重要ポストを歴任。トランプ氏から「タフネゴシエーター」と高く評価される。
W=旧茂木派は分裂状態。政策通で官僚に求めるレベルが高く中央省庁で不人気。
O=安倍元首相に「同期で一番顔がいいのは岸田、頭がいいのは茂木」と評される。
T=「瞬間湯沸かし器」と呼ばれる性格がどう影響するか。
筆者評=「仕事ができるという点ではピカイチ。あとは議員と党員しだい」

■推薦人確保に奔走中の立候補予定者

上川陽子外相(71)

S=国際派の政策通。丁寧な言葉遣いと配慮、こまめな対応が党内で高評価。
W=政敵がいない反面、強い味方も少ない。「うまずして何が女性か」発言で印象悪化。
O=高市氏とともに女性候補。高市氏より中道の議員や党員票が期待できる。
T=総裁選候補者で唯一の70代。政治家としてのインパクトも弱い。
筆者評=「1月、麻生副総裁が評価した頃が待望論のピーク。果たして今はどうか」

齋藤健経済産業相(65)

S=「何でも見事にこなす」と自民党内で評価が高い。当選5回で閣僚3回は実力の証。
W=大臣(部隊長)としては有能だが、総裁や首相(一軍の将)としては未知数。
O=世論が、行政能力が高い「新顔」を求めている点。
T=知名度不足。衆議院選挙での『最初はグー。さいとうけん♪』の連呼も今や昔。
筆者評=「子どもがかつて同じ小学校の同級生。快活で世話好きなパパ。推薦人20人集まってほしい」

加藤勝信元厚労相(68)

S=どの省庁の官僚に聞いても受けがいい政治家。キャリアも豊富。
W=強いインパクト、押し出しの強さがない。
O=萩生田光一前政調会長や武田良太元総務相と「HKT」の一角。政策通で手堅い。
T=推薦人20人の確保と世論の支持が課題。
筆者評=「物腰は柔らかいのに仕事は堅実。平時の総裁なら適任者の1人」

自民党内権力抗争、現在の勝者は岸田首相

団子レース、過去に例がない大混戦と言われる総裁選挙。決選投票に持ち込まれるのは確実で、その合従連衡によっては、まだ誰が勝つとは言い切れない。そんな中で、今のところ、勝利しているのは、不出馬を表明した岸田文雄首相(67)本人ではないかと思っている。

岸田首相は、得意とする外交では日米同盟強化や日韓関係改善を成し遂げ、防衛費増額や大企業賃上げ率5.58%。それに異次元の少子化対策では児童手当や出産一時金の増額、多子世帯の大学無償化を実現し、派閥の解消までやってのけた。

もちろん、踏み込み不足の面も多々あるが、「岸田政権、実は悪くなかった」などと今になって評価されつつある。

加えて、岸田首相は、今期限りで衆議院議員を勇退する二階俊博氏(85)や、「党役員1期1年、3期3年」という党規約によって、この秋で副総裁の任期が終わる麻生氏に代わり、キングメーカーの座まで手に入れようとしている。

自民党内では、この先も菅元首相の影響力こそ残るものの、安倍元首相は亡くなり、今回、小泉氏推しの森喜朗元首相も御年87歳で、二階氏や麻生氏より年上だ。

岸田首相からすれば、今回、旧岸田派の林氏と上川氏が敗れたとしても、次のコマにすることができる。また、10人前後の候補者の中で、岸田首相との関係が決定的に悪い政治家は1人もいないため、誰が勝っても岸田カラーはある程度反映されるだろう。

そう考えれば、もっとも戦術に長けていたのは岸田首相ということになる。

アメリカ大統領選挙も全く読めない

このように、日本とアメリカで政治のトップリーダーが変わる秋。アメリカで言えば、まだハリス氏が勝つかトランプ氏が勝つか予断を許さない。

アメリカのメディアなどが弾き出す世論調査では、ハリス氏がリードに転じたものの、副大統領候補を、最大の激戦州ペンシルベニアのシャピロ知事ではなく、シャピロ氏ほど目立たないミネソタ州のティム・ウォルズ知事にしたことは、ハリス氏にとって、選挙人19人を擁する激戦州を落としてしまうリスクが高まったことを意味する。

ペンシルベニアを落とせば、アメリカ西部の激戦州ネバダ(選挙人6人)とアリゾナ(同11人)を取っても追いつかない。ゆえにトランプ氏勝利の可能性も十分ある。

ただ1つ言えることは、アメリカがどちらを選択したとしても、日本の宰相は、言葉に熱量があり、交渉上手で、外交・安保と経済に強い人物でなければならないということだ。

そんな人物は誰かに思いをめぐらせながら、自分では投票ができない選挙の行方を取材し続けたいと思っている。

清水克彦氏の連載記事、つづきの『岸田首相、突然の「不出馬表明」は、やっぱり「麻生太郎」が仕掛けていた…!ここにきて浮上する「次期総裁」意外な政治家の名前』でも、総裁選のウラ話について詳しくお伝えしています。

清水 克彦 KATSUHIKO SHIMIZU
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授

愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。2024年春、文化放送を退社し大学教授に就任。専門は「現代政治」と「国際関係論」。

著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)、『台湾有事』、『安倍政権の罠』(いずれも平凡社新書)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。個人HP http://k-shimizu.com/