緊急時に国の権限を強化する法律をこのまま通して本当にいいのか(VIDEO NEWS 2024年06月15日公開)
永井幸寿 (ながい こうじゅ) 弁護士
1955年東京都生まれ。79年早稲田大学法学部卒業。90年弁護士登録。2014年アンサー法律事務所を設立し所長に就任。兵庫県弁護士会副会長、日本弁護士連合会災害復興支援委員会委員長、日本災害復興学会理事などを歴任。著書に『憲法に緊急事態条項は必要か』、共著に『「災害救助法」徹底活用』など。
【概要】
国にそこまで大きな権限を委ねて大丈夫なのか。また、それは真に問題の解決につながるのか。
緊急時に地方自治体に対する国の指示権を強化する地方自治法の改正案が先月衆院を通過し、現在参院で審議中だ。今国会で成立の見込みだという。しかし、この法案は政治資金規正法改正審議の陰であまりメディアでは取り上げられていないが、緊急事態条項にもつながるおそれがある重大な法改正になる。
地方自治法改正案は総務省が公表している概要によれば、大規模な災害、感染症のまん延など「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例」として、国の地方公共団体に対する指示権を補充的に認めるもの、となっている。
しかし、日弁連の憲法問題対策本部委員である弁護士の永井幸寿氏は、改正案は地方自治体に対する国の権限を広く認める内容となっており、「補充的」というのは言葉のまやかしに過ぎないと警鐘を鳴らす。国が権限を行使する要件として、個別法では指示できない場合に、事態の規模・態様等を勘案して判断するとなっているが、解釈でいかような運用も可能な内容になっているからだ。
阪神・淡路大震災の際に自身の事務所が全壊した経験を持つ永井氏は、長い間災害法制の問題に関わってきた。災害対策基本法では原則として災害の応急対応の第一次的な責任を負うのは市町村であり、市町村が機能不全に陥っている場合は、都道府県が支援することが定められている。永井氏は、国主導による市町村合併や財政改革で職員数が減少するなど市町村の自治能力が落ちている面はあるが、だとしても国はあくまで後方支援にとどめるべきだと指摘する。
そもそも大規模災害や新型コロナ対策において、国がより強い権限を持っていればより好ましい対応ができたと考えられる立法事実は存在しないと永井氏は言う。むしろ、現場の状況を把握できていない中央からの指示が混乱の原因になることが予想される。災害現場に近く現場のニーズがよくわかっていて、なおかつ迅速で柔軟な対応ができるのは市町村だ。国の指示ではなく、地方自治体の自主的な取り組みが効果を発揮した事例は枚挙に暇がない。
特に緊急時には権力が濫用されやすい。だからこそ、これまで個別法で要件を厳しく決めて対応してきたはずが、今回の地方自治法改正はそうした積み上げを無にする。これは改憲を伴わない緊急事態条項ではないかと永井氏は危惧する。
地方分権に逆行する今回の法改正の課題を、永井幸寿氏と社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。