岸田政権に「泣きっ面に蜂」の派閥資金不記載問題~首相が「政治とカネ」に厳しい姿勢を取れないワケ(現代ビジネス 2023.11.28)
磯山友幸 経済ジャーナリスト、千葉商科大学教授
内閣支持率、さらに下落
岸田文雄内閣の支持率が「危険水域」に入った。NHKの11月の世論調査(調査期間は11月10から3日間)によると、岸田内閣を「支持」すると答えた人は10月の調査から7ポイント一気に下がって29%となった。
2011年末の第2次安倍晋三内閣以降でこれまでに内閣支持率が30%を下回ったのは2021年8月の菅義偉内閣以来。菅首相は翌月に控えた自民党総裁選への不出馬を表明して政権を放棄する事態に追い込まれた。
今の岸田首相は何をやっても裏目に出る、と自民党内でささやかれる。支持率向上を狙って行ったはずの内閣改造も、直後に副大臣、大臣政務官が次々と辞任に追い込まれた。
物価上昇に喘ぐ国民の指示を取り戻すはずだった経済対策や減税も評判は芳しくない。物価高に対応するため、所得税などを1人あたり4万円減税し、住民税が非課税の世帯には7万円を給付する方針を打ち出したが、NHKの世論調査ではこれを「大いに評価する」が5%、「ある程度評価する」が31%にとどまり、「まったく評価しない」25%、「あまり評価しない」34%に及ばなかった。
「増税メガネ」と揶揄されたことがきいたのか、突然打ち出した「減税」に、解散総選挙を狙った人気取りだと有権者に見透かされたということだろうか。「評価しない」と答えた人の38%が「選挙対策に見えるから」と回答、「物価高対策にならないから」の30%を上回り、最も多い答えだった。
実は派閥問題、パーティー収入不記載
そんな存亡の危機に直面している岸田内閣に、もうひとつ問題が勃発した。自民党の派閥の政治資金収支報告書に、パーティー収入に関わる不記載が発覚したのだ。首相足元の自民党に「政治とカネ」の問題が持ち上がったのだ。
政治資金規正法は1回のパーティーにつき、パーティー券を20万円を超えて購入した個人や団体の名前や金額を収支報告書に記載するよう義務付けている。政治資金パーティーはたいがい1枚2万円なので、名前を出したくない企業や団体、個人の多くは10枚の購入にとどめる。もちろん購入を分割してそれぞれ20万円以下にして子会社の名義などで振り込めばこの規定には抵触せず、「ザル法」と呼ばれてきた。
ところが今回、「しんぶん赤旗」のスクープで発覚したのは、寄付した側が政治団体だったため。政治団体側の収支報告書には20万円を超える支出記載があることが発覚。自民党の5派閥すべてで記載漏れが表面化する結果となった。
自民党の派閥の問題が内閣支持率になぜ響くのかといえば、岸田首相が自民党の総裁であるだけでなく、自身が岸田派の会長を務めているからだ。歴代首相は首相に就任すると派閥の長を外れてきたが、岸田首相はとどまり続けてきた。派閥への国民の批判が一時に比べて弱まったと高を括ったからかどうかは分からない。自ら派閥の会長を務めている立場からすれば、派閥の記載漏れを厳しく批判することなどできるはずがない。あくまで「事務的なミス」だと言い逃れし、各派閥の事務総長などを務める閣僚もまともに国会答弁には応じずに口を閉ざしている。
本来ならば、首相自らが派閥を厳しく批判し、政治とカネの関係を透明化するよう強く指示することで、政権自体への火の粉を振り払うこともできるはずだが、自分自身が派閥の長ではそれもできないわけだ。また、岸田内閣の政権基盤自体が弱く、来年の自民党総裁選での再任のためには各派閥の支持を得る必要がある。それだけに各派閥のカネの問題に厳しく対処することもできないのだ。ちなみに副大臣や大臣政務官の人事もほとんど各派閥の意向で決まったとされ、官邸による「身体検査」がほとんどできなかったことが辞任ドミノの一因になっているとの見方もある。
結局は選挙用「裏金」か
さらに、首相らが口を閉ざす背景には、パーティー券によるグレーな資金集めが横行して背景がある。今回発覚したのはたまたま情報開示義務のある政治団体の購入額だったが、自民党を支える企業の多くが20万円を超える購入をしながら、名前が出ないように偽装しているのではないかという疑念がかつてからあるためだ。自民党の多くの国会議員の資金源である企業によるパーティー券購入を、規制強化で封じることになれば、選挙に使う「裏金」などに一気に窮することになるからだ。
ちなみに、しんぶん赤旗はその後、岸田首相自身が1回の収入が1000万円を超える大規模な政治資金パーティーを2022年に6回も開催し、1億4730万円もの収入を上げていたとを報じている。「政治とカネ」の問題が厳しく問われた2001年に閣議決定した規範によってパーティーについて「国民の疑惑を招きかねないような大規模なものの開催は自粛する」と定められている。それに従って閣僚に自粛を促さなければならないはずの首相本人がそれを違えていたとなれば、当然、内閣支持率に大きく影響することになる。
今、企業ではコンプライアンスやガバナンスが大きな課題になっている。上場企業の場合、年に1回届け出る有価証券報告書に記載する情報が年々増えている。仮に、この有価証券報告書に政治との関係の記載を義務付け、パーティー券を含む政治献金の支出を記載するようになれば、政治とカネ、特に企業と政治家の関係は白日の下に晒されることになる。
もちろん、そんな法改正を誰も言い出さないし、普段は企業のコンプライアンスに厳しく注文を付ける官僚機構もダンマリを決め込んでいる。そうした政治とカネの問題を根本から解決する動きにつながることを岸田首相や自民党の首脳は恐れているに違いない。
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磯山友幸(TOMOYUKI ISOYAMA)
経済ジャーナリスト/千葉商科大学教授
硬派経済ジャーナリスト。1962年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞社で証券部記者、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、日経ビジネス副編集長・編集委員などを務め2011年3月末で退社・独立。著書に『国際会計基準戦争・完結編』『ブランド王国スイスの秘密』など。早稲田大学政治経済学術院非常勤講師、上智大学非常勤講師、静岡県“ふじのくに”づくりリーディングアドバイザーなども務める。