新型コロナウイルスに感染したとき、症状が軽くてすむように働く遺伝子の特徴が、約4万年前に絶滅したネアンデルタール人から受け継がれているらしい。そんな研究結果をOIST・沖縄科学技術大学院大学のスバンテ・ペーボ教授の研究グループが発表し、2月17日、PNAS・米国アカデミー紀要に掲載された。
A genomic region associated with protection against severe COVID-19 is inherited from Neandertals
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■ 重症化を予防する遺伝子はネアンデルタール人に由来
ネアンデルタール人は4万年前に絶滅したが、交雑によって、一部の遺伝情報が現代人に受け継がれている。
スバンテ・ペーボ教授は、スウェーデン出身で、OISTとドイツのマックス・プランク進化人類学研究所で教授を務める。2010年に世界で初めてネアンデルタール人の全ゲノム(遺伝情報)の解読に成功するなど数々の功績を上げ、日本国際賞などを受けている。
新型コロナが重症化するのを『予防する』遺伝子は別の研究グループによってすでに特定されていた。現代人の12番染色体の上にあり、新型コロナで重症化するリスクを約20%低下させる働きがあるという。ペーボ教授らは、この遺伝子が、ネアンデルタール人に由来していて、新型コロナウイルスが感染した細胞の中で、ウイルスの遺伝情報を分解する酵素の働きを高めていることを発見したと発表した。
ペーボ教授によるとこの遺伝子は、アフリカ以外に住む、約50%の人が持っていて、日本人もおよそ30%の人が保有しているという。
■ 5倍強力な『重症化』遺伝子も受け継いでいる
『重症化を予防する』遺伝子とは反対に、『重症化させる』遺伝子も、現代人はネアンデルタール人から受け継いでいるという。この遺伝子は重症化のリスクを2倍も高めているとする解析結果が、やはりペーボ教授らによって明らかにされている。
ただ、その分布には偏りがある。
『予防』遺伝子はアフリカ以外に広く分布しているのに対して、『重症化』遺伝子はヨーロッパでは最大16%、インドやバングラデシュなどの南アジアは、なんと最大60%の人がこの遺伝子を受け継いでいるという。
逆に、日本や中国など東アジアの人々は、この遺伝子を持っていないとされる。
つまり、ヨーロッパや南アジアの人たちが『重症化』遺伝子と『予防』遺伝子の両方を持つのに対し、日本人など東アジアの人は『予防』遺伝子しか持っていないというのだ。
『重症化』遺伝子は『予防』遺伝子より5倍ほど影響力は強いとしている。
■ コロナやコレラと戦った祖先達
なぜ、このような偏りが生まれたのか。ペーボ教授は、「ネアンデルタール人から遺伝子を受け継いだ我々の祖先が、東アジアでコロナウイルスを含む疫病に襲われ、リスクがある遺伝子を持たない人たちが生き残っていったためではないか」と推察する。
さらに南アジアで最大60%もの人が、『重症化』遺伝子をもっていることについては、「この遺伝子がコレラなどコロナ以外の病気に対しては、プラスに働くことを示しているように見える」と指摘している。
「ネアンデルタール人は約4万年前に絶滅したが、我々の祖先と交雑したため、いまもプラスとマイナスの両面で我々に影響を及ぼしています。」
■ 『ファクターX』なのか
では日本人を含む東アジアの人々が“重症化”遺伝子を持たず“予防”遺伝子のみを保有していることは、死亡者や重症者が少ない理由、つまり『ファクターX』なのだろうか。
「日本人が『重症化』遺伝子をもっていない遺伝的な幸運は『ファクターX』のひとつかもしれない。」
ペーボ教授は、こう述べた上で、年齢や性別、糖尿病や喘息といった基礎疾患があるかどうか、そして密接な身体的接触が少ない社会文化などの影響の方が大きいのはないか」としている。
【出典・参考】
ネアンデルタール人から受け継がれた遺伝的変異体が新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを低減(OIST・沖縄科学技術大学院大学 2021-02-19)
A genomic region associated with protection against severe COVID-19 is inherited from Neandertals(PNSA March 2, 2021)
コロナ軽症化の遺伝子? ネアンデルタール人から(朝日新聞 2021年2月22日 13時00分)
ネアンデルタール人由来 遺伝子が“重症化予防”(テレ朝news 2021年2月21日 14時39分)
ネアンデルタール人遺伝子が「ファクターX」!?(WEDGE Infinity 2020/10/31 足立倫行)