プーチン大統領、統治能力低下で大打撃 プリゴジン氏の反乱は失敗に終わったが ロシア南部の驚くべき光景とは…(東京新聞 2023年6月26日 06時00分)
ロシアの民間軍事会社ワグネルを創設したエフゲニー・プリゴジン氏は25日、戦闘員の進軍停止を表明し、武装反乱は失敗に終わった。だが、強大な軍事・治安組織は一時的にせよ「私兵」による進撃を阻止できず、プーチン政権の統治能力低下を露呈させた。20年以上の強権支配で「強いロシア」を築いてきたはずのプーチン大統領にとっては大打撃。ウクライナの反転攻勢で、政権が危機を迎える可能性もある。
「わが国と国民の背中を刺す人々による裏切り行為だ」。プーチン氏は24日の国民向け演説で、プリゴジン氏の反乱を険しい顔つきで非難し、徹底鎮圧することを宣言していた。
それが一転、ベラルーシのルカシェンコ大統領による仲介を受け入れた。プーチン氏は、プリゴジン氏の反乱容疑の捜査を打ち切り出国を許すという屈辱的な「妥協案」をのまされた。
屈辱的「妥協案」の裏にはロシア軍の弱体化
背景にはウクライナ戦争に伴うロシア軍の著しい弱体化がある。プーチン氏の妄想による破滅的侵攻で2万を超える将兵を失い戦車約2000両など膨大な装甲車両が破壊されたとされる。
ロシア独立系メディアは24日、政府筋の話として、モスクワ防衛を担うタマン師団など精鋭部隊の多くがウクライナ侵攻に動員され、首都防衛が手薄になっているという情報を伝えていた。プリゴジン氏は内情を熟知していたはずだ。
防空兵器も持つワグネルは、反乱を鎮圧しようとしたロシア軍の武装ヘリコプター3機を含む計8機の軍用機を撃墜、ロシア兵13人を殺害したとみられる。
市民から歓迎されるワグネル戦闘員
一方、南部最大の都市ロストフナドヌーでは驚くべき光景が見られた。ワグネル部隊は南部軍管区司令部を一気に制圧。市中心部に展開したワグネル戦闘員らは大勢の市民から支持され、食料品を手渡されるなど歓迎された。ウクライナ戦争の現状に対し、市民の不満が噴き出した格好だ。
ワグネル部隊が進撃を続ければ、モスクワに迫ることも可能だった。さらにワグネル支持の市民の動きはプーチン体制を揺るがしたかもしれない。プリゴジン氏は正規軍の一部の合流を期待していたとの情報もあるが、治安組織の厳しい監視で不発に終わった。
盤石だったはずの体制、崩壊の序曲か
ロシアの政治学者、キリル・ロゴフ氏は「プーチンの戦争には大きな痛手だ。(プリゴジン氏は)反戦のリベラル派ではなく、戦争支持の人々の言葉でプーチンを攻撃していたからだ」と指摘する。
ロシアでは1917年に民主的な臨時政府を転覆させた「ボリシェビキ革命」の転機となったコルニロフ将軍の反乱や、ソ連崩壊の序曲となった1991年の左翼強硬派の軍事クーデターなど、軍事反乱が体制崩壊の引き金になってきた。
反転攻勢を続けるウクライナ軍はじりじりと前進し、ロシア国内の混乱を好機ととらえて勢いづく。ロシアが一方的に併合宣言したウクライナ東南部4州の一部でも奪還を許せば、盤石とみられていたプーチン体制崩壊の序曲になる可能性が高まっている。