被爆者団体「怒りに震える」「広島開催の意図はどこに」 G7の核軍縮文書を批判(東京新聞 2023年5月22日 19時23分)
核の惨禍を踏まえた成果が注目された先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に関し、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のメンバーは、G7が核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」で核保有を正当化し、核抑止論を強調したなどとして「期待を裏切られた。怒りに震える」と失望感をあらわにした。一方、英国のスナク首相は帰国前の記者会見で原爆資料館の視察について「深く心を揺さぶられた」と語った。
被団協はサミット閉幕後の21日午後にオンラインで会見を開いた。13歳の時、長崎で被爆した田中熙巳(てるみ)代表委員(91)は「(G7自身が核軍縮を)どう努力していくかくらいは出してほしかった。残念でならない」と吐露。木戸季市(すえいち)事務局長(83)も「核抑止論や核の傘の下で戦争をあおるような会議となって怒りを覚える。核兵器廃絶への希望を完全に打ち砕かれた」と厳しく批判した。
「広島で開催された意図はどこにあったのか」と疑問を呈したのは浜住(はますみ)治郎事務局次長(77)。共同文書は核兵器禁止条約に触れず、防衛目的での保有を容認する内容で「核抑止や核の傘を強調し、被爆者の一人として憤っている」と話した。和田征子(まさこ)事務局次長(79)も「核なき世界を目指すという文言はあるが、具体的なプロセスが一つもない」と失望した様子だった。
G7首脳の原爆資料館視察も内容が詳しく公表されず、田中さんは「大したことができなかったのでは」と首をかしげた。一方、スナク首相は会見で、3歳で犠牲となった鉄谷伸一ちゃんの焼けた三輪車や血だらけでボロボロになった学生服を見たと明かして「ここで起きたことを忘れてはならない」と振り返った。
松野博一官房長官は22日の会見で、共同文書への批判に対して「核兵器のない世界の実現に向けたG7首脳の決意や、今後われわれが取るべき行動を示す力強い歴史的文書だ」と反論した。資料館視察も「世界のリーダーに被爆の実相に触れてもらい、粛然と胸に刻む時を共有した」と強調した。