泉房穂前明石市長の爆弾証言「自民党が金を配るとき、必ず業界団体が『中抜き』『ネコババ』している」「私は一人一人に直接渡す」

「政治はケンカだ! 明石市長の12年」を出版した泉房穂氏 政治・経済

泉房穂前明石市長の爆弾証言「自民党が金を配るとき、必ず業界団体が『中抜き』『ネコババ』している」「私は一人一人に直接渡す」(現代ビジネス 2023.05.22)

泉 房穂・前明石市長/鮫島 浩・ジャーナリスト

発売即3刷のベストセラーとなっている泉房穂氏の最新刊『政治はケンカだ!明石市長の12年』(聞き手=『朝日新聞政治部』の著者で政治ジャーナリストの鮫島浩氏)。大反響の特別無料公開もいよいよ第七回目となり、今回は「宗教・業界団体編」をお届けする。

あらゆる抵抗勢力と闘って「日本一の子育て政策」を実現してきた泉氏だが、宗教団体や各種業界団体は、政治家の選挙と結びついているだけに、ひと際やっかいだったと言う。

では泉氏は、なぜそうした団体に取り込まれずに、信念を貫けたのか。それは、幼いころから身に付けていた「ケンカの技法」があったからだ。

連載『政治はケンカだ!』第7回後編

保育士さんに渡すか保育協会に渡すかは全然違う

鮫島 岸田総理が「異次元の少子化対策」と言い出し、いまさら異次元か、と失笑を買っていますが、子育てを支援すること自体はいいことです。問題はどうやって支給するか。つまり、業界団体を経由する「間接支援」なのか、子どもや世帯への「直接支援」かで、その実体はまったく違うものになると思います。

 ええ、それは似て非なるものです。

鮫島 戦後日本を主導した自民党政治は国民生活の支援を「業界経由」で行ってきました。国民一人一人に直接お金を渡すのではなく、農業、建設、運輸、商工、医療、教育など各業界に補助金を渡すことで間接的に国民生活を支えてきたわけです。農家ではなく農協に、子育て世帯ではなく幼稚園や保育園に、看護師や介護士ではなく病院や福祉施設に、補助金を支給してきました。自民党の族議員は各省庁と結託し、自分たちを応援してくれる業界へどれだけ補助金を引っ張ってくるかでしのぎを削っていたのです。

各業界は補助金の一部を「中抜き」して、族議員への見返りとして政治献金や選挙支援をし、官僚への見返りとして天下りを受け入れました。これが「政官業の癒着」と呼ばれる構造です。お金を分配する「予算編成権」を握る財務省主計局は、その頂点に君臨していました。

2009年に誕生した民主党政権は当初、「政官業の癒着」の構造を根本から壊そうとしました。国民生活の支援を「業界経由」ではなく「国民一人一人に直接」行う仕組みに変えようとしたのです。農協に支給してきた補助金をやめて一軒一軒の農家に直接支給する、幼稚園や保育園に支給してきた補助金を減らして一人一人の子どもに対して子ども手当を直接支給する、といった具合です。政府から国民一人一人に直接お金を渡すという「大改革」になるはずでした。

これが実現すれば、各業界の影響力は大幅に低下し、自民党の族議員へ政治献金や選挙支援を続けることはできなくなります。官僚の天下りも受け入れることは困難になるでしょう。自民党の長期政権を支えてきた政官業のトライアングルを壊し、自民党を足元から瓦解させるというのが、民主党を主導した小沢一郎氏の狙いでした。

だからこそ、自民党も財務省をはじめとする霞が関も激しく抵抗した。そこで、小沢一郎・鳩山由紀夫ラインと菅直人・野田佳彦ラインを分断し、民主党の内部抗争を勃発させて政権を倒したというのはすでにお話ししたとおりです。この結果、国民一人一人を直接支援する政策は次々に姿を消し、自民党政権が続けてきた「業界経由」の間接支援に舞い戻ってしまった。「政官業の癒着」の構造が温存されてしまったのは、とても残念です。コロナ対策でも物価高対策でも、自民党政権は相変わらず「業界経由」の巨額支援を重ね、「中抜き」が横行しているのが実情です。

 いやぁ、おっしゃる通り。

明石市では、対象者本人に支給することを何よりも大事にしてきました。たとえば、重労働で薄給である保育士さんが長く働き続けることができる環境を整えるため、「保育士定着支援金」という制度を設けています。明石市内の保育園で働いてもらったら、採用後7年間で最大160万円の現金を支給するという制度なのですが、支給の対象は保育士さん本人。本人の口座に直接振り込みます。

ちなみに、保育士さんへの支援金を巡っては、お隣の神戸市と競い合うようにして制度が生まれた背景がありまして、神戸市もほぼ同額。ただ、やり方が違う。神戸市は、保育園にお金が渡り、園の裁量で本人以外への配分ができる仕組みになっています。

鮫島 面白い。似ているようだけど、全然違う。

 まったく違います。

明石市は本人にダイレクトで振り込む

鮫島 実際に中抜きされてしまうケースもよくありますし、末端まで送金されないというケースも……。

 ええ、中抜きのリスクも出てきますし。結局、保育士は保育園に「ありがとう」と言わなきゃいけない。保育園や保育協会は政治家に「ありがとう、選挙応援します」となる。つまり、保育士支援という名目の選挙対策になっているわけです。実際、選挙になったら、保育協会のピンクの旗が立っている。そこを介さずダイレクトに振り込むのが明石市の特徴だし、こだわってきたポイントです。

それと、2022年の年末に、例の専決処分の原因となったサポート券配布の第3弾を実施しました。この時は、一人3000円分のサポート券を配布しました。なぜ3000円かというと、国から物価高対策の公金が全国の自治体にばら撒かれたんです。明石市は人口比により、10億円でした。明石市の人口は約30万人だから、市民全員で均等割りしたら一人当たり3000円になる。

その3000円分のサポート券で、1000を超える大手を除く市内の事業者とタクシー利用を可能にしました。大変好評だったんですけど、こういうやり方は全国でうちぐらい。他の自治体はどうしているかというと、その10億円をタクシー協会やバス会社に直接渡してる。

おそらく、兵庫県内では明石市だけでしょう。というのも、タクシー協会から連絡があり、「明石だけ、(支援)してくれないんですか?」と言われました。それで「何をいうか」と言いました。「一回こっきりの金をタクシー会社に渡しても客増えへんで。一時、助かるだけやがな。明石市は、30万の市民全員がタクシーに乗れるんやで」と。「病院行くのに『3000円のサポート券でも使ってみようか』とタクシーに乗ったら、次に通院する時は自腹を切るかもしれない。これは客が増える話なんや」と。「目先の金よりも、タクシー利用者を増やすほうが、タクシー会社の経営にとってプラスやないか。こっちはタクシー会社のことを考えて、あえてやってるんや」と言ったら、「ありがとうございます」言うてすぐに引きましたけどね。

やっぱり、多くの自治体は業界支援に行く。長年の選挙対策から来る「阿吽の呼吸」があるんです。それをしないと、逆に業界団体から怒られるから。

鮫島 そのタクシーの話はすごく面白い。全国の首長に読んでもらいたい。「子育て支援」という言葉に騙されてはいけなくて、誰にお金を渡すかがいちばん大事なんです。  

内閣府の官僚と子育て給付で大ゲンカ

 子育て支援といえば、2023年度から明石市は18歳までの子どもに毎月5000円支給します。これ、国の制度では基本的に親に支給なんです。明石市は子どもです。うちは親じゃなくて子どもに渡す。徹底した「本人主義」です。

どこが違っているかというと、児童養護施設にいる子どもの場合、親や施設にお金が行かず、ちゃんと子どもに届くんです。離婚している場合も、離れて暮らす親ではなく子どもにいく。
でも、1年ほど前の国の10万円支給は、対象が親でした。正確には9月時点の世帯主が対象になっていて、9月以降に離婚している場合、お母ちゃんと一緒に暮らしている子どものほうではなくて、たとえば離婚した後に新しい女性と暮らしている夫のほうに、子どもの10万円が渡ってしまう。

「子どものための10万円が、子どものために使われんのはおかしいがな。ちゃんと子どもが使えるようにせえ」と、開設直後のツイッターで吠えたんですよ。それで、内閣府に直接電話しました。

「明石市はちゃんと子どもに届けたいから、直接子どもに渡すことを認めてください」とお願いしました。そしたら「一律主義に反する」と断られた。もうビックリして……思い出すだけで腹立ってきた。

向こうの反論は、「市長さんはそう仰るけど、今回はプッシュ型という国の方針でスピードが求められる」と。12月支給に間に合わせるために、このやり方が合理的だと。

私は「不合理とは言ってません。ただ、そのあとに離婚して、本来一番支援が必要な子どもにお金が届かない場合の、例外対応を明石市がすることを認めてほしいだけだ」と食い下がりました。でも、何回頼んでもダメでした。「そんな例外を認めるわけにはいかない」と言われて、挙げ句の果てには「市長さん、99%はこれで行き渡るんだから、役所としてはそれで十分です」と、あいつホンマに言いよったんです。

鮫島 「誰一人見捨てない」ことを大事にしてきた泉さんとしては、許しがたい。

 「全国一律主義に従え」なんて、まさにお上至上主義の象徴です。問題は明らかなのに、押し付けてくる。でも、だいぶツイッターで吠えた結果、いくつかの政党の代表が国会で質問してくれて、答弁が変わりました。そういうケースが該当する子どもには、別途10万円支給という形になりましたが、結局、全国一律の古い基準は維持したまま。つまり、お父ちゃんが10万円くすねても、黙認するということです。

ネコババするやつが必ずいる

鮫島 本人主義にこだわっている明石市では、手間はかかっても子ども本人にお金を届けることを大事にしてきたということですが、未成年にお金を渡すのって法律的には大丈夫なんですか?

 10万円の支給というけれど、実際は契約という形なんです。堅苦しい法律論でいうと、親の同意がないと未成年との契約は無効になるので。

親が認めないなら、その場合は無効にしていい、ということにしてます。「うちの子のことを勝手に決めるな、わしに許可権があるんじゃ」と言われたら、「わかりました。無効にしますか」といって10万円戻してもらうだけですから。でもそんなこと言ってくる親は一人もいませんでしたけど。

これが親基準の場合、離婚して離れて暮らす親が「ワシが親だから、ワシによこせ」と言ってくるケースが考えられます。「ワシが責任者だ」と言ってくるかもしれないし、揉めるリスクが出てくる。

明石市のように子ども基準にしていれば、親に文句を言われたら「じゃあゼロですね」となるだけ。そういう場合は、違う形で支援すればいい。

鮫島 本当のリーガルマインドというのは、法律の目的を達成することを最優先に考え、結果として一番効果が出るように柔軟に運用することなんです。法律の趣旨を汲み取らず、条文通りに杓子定規に運用して法律の目的を達成できなければ元も子もないのに、それをリーガルマインドと履き違えている政治家や役人が多すぎる。

 そうそう。法律に忠実ということではなく、上手く運用することが大事です。

鮫島 コロナ対策では、看護師さんら医療の最前線で働く人々を支援すると言いながら、実際には直接お金を渡すのではなく、医療法人など雇い主を経由して支給する形式にしたものだから、ピンハネされて現場の人々まで全額が届かないケースが相次ぎました。これぞ「間接支給」の弊害です。あまりに酷い。

 そうです! ウハウハの病院もあったそうです。

鮫島 医療法人経由で支給したのは、自民党や厚労省が見返りとして選挙支援や天下りを得るためですよ。私たちの税金は、業界経由で政治家や官僚に還流しているんです。

 結局、ふわっと聞くと良いことをしているように聞こえるけど、支給方法をよく見ると「それって誰のためにやっているの?」と思うことが、この国はホンマに多いんです。

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