〈社説〉保育士の充実 配置基準引き上げてこそ(信濃毎日新聞 2023/05/13 09:30)
「異次元」と力むほどには、政治の覚悟が見えてこない。
「少子化対策」の一環として、国の配置基準よりも保育士を増やした保育所に運営費を加算する方針を、政府が示した。早ければ2024年度にも始めるとしている。
保育士1人が受け持つ子どもの数を減らし、保育の「質」を上げるという趣旨はいい。ただ、保育所側の自助努力が前提なのはどうか。良質な保育のために必要な配置基準はこうだ―と国が示すべき責任を曖昧にしている。
認可保育所の配置基準は現在、保育士1人あたりの子どもの人数を0歳児は3人、1~2歳児は6人、3歳児は20人、4~5歳児は30人としている。
今回の方針は、配置基準は変えないまま、保育所側が自ら保育士を増やして1歳児は5人に、4~5歳児は25人に減らした場合に運営費を加算するという。
3月末に政府が公表した「次元の異なる少子化対策」試案の段階では、加算ではなく、配置基準改善とはっきり記していた。
人手不足で余裕を失い、子どもに十分目配りできない保育環境は見過ごせないとの認識からだ。全国の現場で保育士による虐待、通園バス車内の置き去り死が相次いだ痛恨事を踏まえている。
特に4~5歳児については75年前の制定当時から配置基準が変わっていない。先進諸国に比べても大きい保育士の負担は、以前から問題視されてきた。
この試案公表から2週間もたたず、小倉将信・こども政策担当相は「混乱が生じる可能性がある」とし、加算へと軌道修正した。基準を引き上げると全施設で保育士の増員が必要になり、ただでさえ足りない保育士の取り合いになりかねない、というわけだ。
何を今さらである。
保育環境の充実は、「社会保障と税の一体改革」で子育て世代向け施策の目玉の一つとされてからでも10年近くになる。年1兆円を投入するとしながら手当てしたのは約7千億円。待機児童解消のための施設拡充を優先し、労働の質の改善は後回ししてきた。これでは人材が集まりようもない。
配置基準を見直して保育士を増やす意志を明確にすべきだ。
全産業平均に比べて約5万円も低い保育士の月給アップといった待遇改善も試案は掲げる。これらを合わせると兆円単位のお金がかかると見込まれている。子育て環境を充実させるという、その本気度が問われる。